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インタビュー

「京都だけが日本じゃない」世界が求めるのは、その土地でしか味わえない体験。インバウンドと地域創生の可能性

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日本オムニチャネル協会の活動を支える「フェロー」。各分野の第一線で活躍する実務家が集い、それぞれの専門知識や経験を持ち寄りながら、業界や企業の枠を越えた学びと共創を推進しています。

インバウンド市場が回復し、日本各地の地域資源に再び注目が集まる今。その最前線で、デジタルマーケティングを武器に地域と世界をつなぐ挑戦を続けているのが、「Origami Concierge(オリガミコンシェルジュ)」を運営する道越 万由子氏です。海外向けプロモーションから地域創生、体験コンテンツの造成まで幅広く手掛け、「その土地でしか味わえない価値」を世界へ届けています。今回は、これまでのキャリアや事業への想い、コロナ禍を乗り越えた挑戦、日本オムニチャネル協会との関わり、そして今後描く未来について伺いました。

起業に必要だったのは、「経験」を増やすこと

――まずは、ご経歴を教えてください。

道越氏:
新卒では、ITパッケージを販売するベンチャー企業へ入社しました。当時の採用コピーが「20代でぶっちぎれ」でした。その言葉に惹かれて入社しました。会社は非常に厳しい環境で、同期は約200人いましたが、1年後には3分の1ほどしか残っていませんでした。営業として新規開拓を担当し、一日に300件のテレアポをかける毎日でしたが、その中で結果を出し、入社から約1年で課長代理まで昇進しました。営業には大きな自信がつきましたが、一方で「このままでは営業しかできない人間になってしまう」と感じるようになりました。そこで次はマーケティングを学ぼうと考え、デジタル広告代理店のオプトへ転職しました。営業職として声を掛けていただいていましたが、自ら「広告運用をやらせてください」と希望し、検索広告やリスティング広告などデジタルマーケティングを約3年半経験しました。

――営業からマーケティングへ進まれた背景には、起業という目標があったのでしょうか。

道越氏:
学生時代から「いつか起業したい」という想いはずっと持っていました。ただ、何で起業するのかは決まっていませんでしたし、お金も人脈もありません。だからこそ、「起業するために必要な経験を積もう」と考えていました。その一つが、女性経営者の下で働くことでした。そこでPR会社へ転職し、女性経営者のもとでPR企画営業を経験しました。その後は知人が経営するベンチャー企業へ移り、EC事業部長として新規事業立ち上げにも携わりました。そして、その後に独立しました。

――女性経営者のもとで働いて、印象に残っていることはありますか。

道越氏:
本当に多くのことを学ばせていただきました。社員との向き合い方や社外への発信、組織づくりなど、それまでとはまったく違う視点に触れることができました。1社目は非常に男性社会の会社でしたので、女性リーダーとして組織を率いる姿を間近で見られたことは大きな財産です。女性ならではの苦労や、男性社員とのチームづくり、リーダーとしての振る舞いなど、教科書では学べないことを数多く経験しました。振り返ると、営業、マーケティング、PR、新規事業と、それぞれの経験が今の仕事につながっています。

海外目線が、地域の魅力を変える

――現在の事業につながる転機は何だったのでしょうか。

道越氏:
ベンチャー企業で越境EC事業を立ち上げていた頃、日本の情報をFacebookで英語や中国語に翻訳して海外へ発信していました。すると、想像以上に大きな反響がありました。「日本の情報はこれほど海外の人が興味を持ってくれる」と驚きました。そこから、インバウンド向けSNS運用パッケージを作り、多言語で海外へ情報発信するサービスを始めました。

実は、私は千葉県で育ちましたが、両親は長崎県・五島列島の出身です。人口減少によって両親の母校が廃校になったことがあり、「こんなに魅力がある地域なのに、誰にも知られていない」という現実がとても悔しかったです。自分が学んできたデジタルマーケティングと、伸び始めていたインバウンド市場を掛け合わせれば、地域をもっと元気にできるのではないか。そう考え、本格的に地域創生へ取り組むようになりました。日本人にとって当たり前の風景でも、海外の方にとっては感動する景色がたくさんあります。実際に海外へ向けて情報発信を続ける中でも、「そこに反応するのか」と驚くことが何度もありました。だからこそ、日本人の感覚だけで魅力を判断するのではなく、海外からどう見えるのかという視点がとても重要だと感じています。

――現在展開されている「Origami Concierge」は、どの考えから生まれたのでしょうか。

道越氏:
「Origami Concierge」は、日本各地でしか体験できない文化や暮らしを、世界中の旅行者へ届ける体験予約サービスです。観光地を巡るだけではなく、その土地の人との交流や伝統文化、地域ならではの暮らしを体験できるコンテンツを提供しています。現在は全国約190件の体験を掲載しており、武道や和食づくり、伝統工芸、地域文化など幅広いジャンルを取り扱っています。
例えば、愛媛県では地元のお母さんと一緒に宇和島鯛めしを作る体験に、ドバイ王族関係者から予約が入りました。「娘に日本の家庭料理を体験させたい」という理由で、有名観光地ではなく地域の日常を選ばれたことが印象に残っています。最近は、観光名所を巡るだけでなく、その土地の文化や暮らしを体験したいという旅行者が増えています。旅行そのものの価値観が変化していると感じています。

地域だからこそ生まれる「体験価値」を世界へ届ける

――インバウンド市場が回復する中で、地域へのニーズも変化しているのでしょうか。

道越氏:
まさに変化しています。私たちは現在、海外の旅行会社約100社と提携していますが、最近よくいただく相談が「京都は外してください」というものです。京都はすでに世界的な観光地として知られていますが、その分、混雑も深刻です。そのため旅行会社からは、「もっと地方の魅力ある場所へ連れて行きたい」「東北や九州など、まだ知られていない地域で特別な体験を提供したい」という相談が増えています。以前は東京や大阪、京都といったゴールデンルートが中心でしたが、今は地域ならではの文化や暮らしに触れたいというニーズが確実に高まっています。

――地方はアクセスの面でハードルがあると言われますが、それでも人を惹きつけるためには何が重要だとお考えですか。

道越氏:
もちろんアクセスは重要です。しかし、それ以上に大切なのは「そこへ行く理由」をつくることだと考えています。交通が多少不便でも、「どうしても体験したい」と思えるコンテンツがあれば、人は時間もお金もかけて訪れてくださいます。

実際、高知県と連携して企画したのが、須崎市の鍛冶職人と一緒に、自分だけの包丁を作る体験です。料金は約10万円ですが、掲載するとすぐにフランスやアメリカ、イギリスなどから予約が入り、その体験だけを目的に何時間もかけて訪れる方もいらっしゃいました。

また、長崎も非常に可能性を感じる地域の一つです。豊かな食文化や海外との交流によって育まれた歴史・文化など、日本人にとって当たり前の価値が、海外の方には非常に魅力的に映ります。ニューヨーク・タイムズの「2025年に行くべき場所」に選ばれたこともあり、欧米からの注目も高まっています。一方で、価値ある体験をつくるだけでは十分ではありません。重要なのは、その魅力を相手の視点で伝えることです。日本向けに作ったSNSコンテンツを、そのまま英語へ翻訳しても海外ではほとんど反応がありません。

例えば、「富山県のおすすめ旅館」と紹介するよりも、「ジブリ映画の世界のような秘境にある旅館」と表現した方が、海外の方には魅力が伝わります。同じ場所でも、見せ方や伝え方によって受け取られ方は大きく変わるのです。

そのため私たちは、約500人の在日外国人インフルエンサーやライターなどが参加するコミュニティ「ECJ(Experts Contributors in Japan)」を運営しています。実際に体験してもらい、「海外の人から見ると何が魅力なのか」という視点を取り入れながら、多言語で情報発信しています。アメリカやヨーロッパ、台湾、韓国など、国によって興味を持つポイントは異なります。だからこそ、「海外向け」と一括りにするのではなく、それぞれの文化や価値観を理解しながら伝えることが重要です。

私は、日本には価値ある体験が数多くあるにもかかわらず、その価値に見合った価格が付いていないと感じています。本当に価値のある体験には適正な価格を付け、その価値を正しく伝えることで、地域の持続可能性にもつながります。「ここでしか味わえない価値」を世界へ届けることが、これからのインバウンドには必要だと思っています。

コロナ禍を乗り越え、地域と世界をつなぐ架け橋

――コロナ禍でインバウンド業界は大きな打撃を受けました。当時はどのような影響を受け、どのような取り組みで乗り越えられたのでしょうか。

道越氏:
創業して4年目でコロナ禍になりました。私たちはインバウンド事業を中心に展開していましたので、本当に大きな打撃でした。民間企業のお客様は予算が止まり、進んでいた案件も次々とストップしました。ただ、自治体の事業は完全には止まりませんでした。そこで、「今、自分たちに何ができるのか」を考えました。当時は旅行ができない状況でしたので、「オンラインでも日本の魅力を届けられるのではないか」と考え、オフィスの半分をライブ配信スタジオへ改装しました。グリーンバックや配信機材を導入し、日本全国を旅しているような体験ができるオンラインツアーを企画しました。

自治体の観光地をライブ配信で紹介したり、現地を歩きながら案内したりすることで、日本国内だけでなく海外にも地域の魅力を届ける取り組みです。さらに、オンラインイベントの中で九州の果物や伝統工芸品を紹介し、その場で購入できるライブコマースも実施しました。観光庁や自治体の事業として採択いただくことも多く、それによってコロナ禍を乗り越えることができました。

――オンラインツアーは当時としてはかなり先進的な取り組みだったと思います。

道越氏:
実際にカメラマンが旅人目線で街を歩き、その映像をYouTubeやFacebookでライブ配信しました。司会者が「今はこちらが名物です」「こちらが歴史ある街並みです」と紹介し、自宅にいながら旅行気分を味わえるコンテンツです。海外からの反応も非常に良く、九州の果物を紹介したライブ配信では、90分で1万円の柿が約100個売れたこともありました。日本へ来られない状況でも、日本の魅力を届けることはできる。その経験は、現在の事業にも大きく生きています。

共創が生み出す新たな価値、そして世界へ

――日本オムニチャネル協会へ参加されたきっかけを教えてください。

道越氏:
フェローの青山さんにご紹介いただき、オムニチャネルDayへ登壇したことがきっかけです。実際に参加してみると、本当にさまざまな業界で活躍されている方が集まっていて、とても活気のある協会だと感じました。私はインバウンドやグローバルマーケティングという立場から少しでも貢献できればと思い、フェローをお引き受けしました。オムニチャネルDayのような規模で、多様な業界の方々が集まるイベントはなかなかありません。事務局や理事の皆さんが一体となってイベントを作り上げている雰囲気も非常に印象的でした。実際に登壇したことをきっかけに、「Origami Conciergeへ掲載したい」という事業者の方が3社ほど決まりました。また、京都で一見さんではなかなか体験できない舞妓さんとの特別な体験も、ご縁をいただいてサービスへ掲載できることになりました。

新しい出会いが、そのまま新しい事業へつながる。そんな場はなかなかありません。私自身、インバウンド業界の一般社団法人でも理事を務めていますが、どうしても同じ業界の中だけで交流することが多くなります。だからこそ、オムニチャネル協会のように異業種の方々と出会い、新しい視点やシナジーが生まれる環境には、大きな価値があると感じています。

――最後に、今後の夢や目標を教えてください。

道越氏:
今、一番力を入れていきたいのは「Origami Concierge」です。日本には、まだ世界へ知られていない魅力がたくさんあります。地域には文化や歴史、自然、人など、その土地でしか体験できない価値があります。最近では、侍文化や禅、武道を学びたいという海外企業の経営者向け研修や、侍修行ツアーの相談も増えています。Netflixなどを通じて日本文化に興味を持つ方も多く、侍や歌舞伎、相撲といった伝統文化への関心も年々高まっています。一方で、アニメの聖地を巡りたい人もいれば、日本の家庭料理を体験したい人、地域の暮らしを知りたい人もいます。旅行者のニーズはますます多様化しています。

だからこそ、それぞれの地域でしか提供できない体験を数多く生み出し、日本全国へ広げていきたいと考えています。地域に人が訪れ、地域でお金が使われることで、その土地が元気になり、日本全体の活性化にもつながっていきます。「Origami Concierge」を世界中で利用されるサービスへ成長させ、日本全国の地域と世界をつなぐプラットフォームにしていくことが、私の目標です。地域には、まだ世界が知らない魅力があります。その価値を一つでも多く世界へ届け、日本全体をもっと元気にしていきたい。その想いを胸に、これからも挑戦を続けていきたいと思っています。

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