蛇口をひねれば、当たり前のように水が出る。私たちの生活に欠かせない水道ですが、その現場では、人口減少や施設の老朽化、技術職員の不足といった課題が深刻化しています。
限られた人員と財源の中で、地域のインフラを将来にわたって維持していくためには、これまでの仕事の進め方を見直さなければなりません。
会津若松市上下水道局では、デジタル技術を活用しながら、業務の効率化や技術の継承、持続可能な事業運営に取り組んでいます。この取り組みは、「日本DX大賞2026」サステナビリティ部門の優秀賞を受賞しました。今回は、同局の遠藤氏に、水道事業が直面する課題やDXを進めるうえで大切にしていること、今後の展望について伺いました。
「人口が減っても、管理するものが一気に減るわけではない」
――今、水道の現場ではどんなことが課題になっていますか。
遠藤氏:やっぱり一番大きいのは人口減少ですね。人口が減れば、水の使用量が減り、料金収入にも影響します。でも、人口が減ったからといって、水道管や施設を明日から一気に減らせるわけではありません。
今あるものは管理していかなければいけませんし、古くなったものは直したり、更新したりしなければならない。そこはずっと続いていきます。一方で、それを支える職員をこれからも同じ人数だけ確保できるとは限りません。水道は、「人が足りないので今日はできません」では済まない仕事です。止めるわけにはいかない。だからこそ、人が減ることを前提に、今までと同じやり方を続けるのではなく、仕事のやり方そのものを変えていかなければならないと思っています。
ベテランの頭の中にあるものを、どう残していくか
――人の部分でも変化が起きているのでしょうか。
遠藤氏:ありますね。
長く現場を経験している職員には、「ここだったら、たぶんこうだろう」と分かることがあります。図面には書いていないけれど、過去の経験からそこにどんな水道管が埋まっているかが分かる。そういう情報って結構あって、個人個人でもっている将来の資産そのものなんです。ただ、その人がずっといるわけではありません。
担当が変わったり、退職したりしたときに、その知識まで一緒になくなってしまったら困りますよね。もし、人同士で、うまく情報を伝えたとしても、その情報ってせいぜい6割から7割程度。だから、個人が持っている情報を、どうやって集めて、できる限り10割に近い形で次へつなぎ、みんなが使える資産として残していく。そのためにデジタルの力を使えないか、ということなんです。デジタル化というと、システムを入れることが先に見えがちですが、水道は、そういうところの方が大事なのかなと思っています。
「DXで人がいらなくなる」という考え方は、もう過去のものだと思います。
DXは人を減らすためではなく、人が持っている知識や経験という資産を次の人へつなぐための道具です。水道では、そこが一番大事だと感じています。


「システムを入れたから終わり」では意味がない
――デジタル化を進めれば、仕事はかなり楽になるのでしょうか。
遠藤氏:入れれば全部解決、という話ではないと思います。
実際に使うのは現場の人なので、「これを使ってください」と言われても、今までのやり方の方が楽だったら、なかなか使われません。それは当然だと思うんですよ。新しい仕組みを入れるなら、「人が少なくなる時代に、これを使うことで現場がどう変わるのか」を、使う人自身に実感してもらうことが大事だと思います。場合によっては、今やっている業務自体を見直すことも必要です。今ある仕事を全部そのままデジタルに載せ替えるのではなく、「そもそも、この作業は本当に必要なのか」というところから考える。単に便利になった、楽になっただけではDXとは言えません。現場と仕事のやり方が変わって、初めてDXだと思っています。
官と民の枠を越えて、これからの水道をつくる
――これから取り組んでいきたいことを教えてください。
遠藤氏:水道が抱えている課題は、会津若松市だけの話ではありません。
規模は違っても、人が少なくなるとか、施設が古くなるとか、同じような悩みを持っている自治体は多いと思います。だったら、それぞれが全部一から考える必要はないと思うんです。うまくいったことだけでなく、「これはうまくいかなかった」という話も含めて共有できるといいですよね。失敗も立派な資産ですから。
民間企業にも、行政にはない技術やノウハウがあります。行政だけ、民間だけという話ではなくて、これから人が少なくなる時代だからこそ、それぞれが持っている強みを出しながら考えていくことが必要だと思っています。
結局、私たちがやらなければいけないのは、これから先も蛇口をひねれば普通に水が出る状態を残すこと。そのためにDXを使って、今の仕組みや仕事のやり方を時代に合わせて変えていくことだと思っています。
市民の方からすれば、水が出るのは当たり前です。その「当たり前」を誰が、どうやってこれからも守っていくのか。
変えてはいけない使命は変えない。変えるべきやり方を変える。そのために、現場が新しい仕組みを使いこなし、少しずつ自分たちの仕事にしていく。 それが、私の考える「現場起点」の水道DXです。

遠藤利哉 氏
役職:会津若松市上下水道局 上水道施設課長(兼水道技術管理者)
プロフ:1997年に会津若松市へ入庁。以来、技術職として水道事業に従事。主に水道管の更新工事
に携わる。その中で水道工事積算システムの標準化やPPP/PFI手法を活用した浄水場更新事業など
を経験。近年はAI を活用した管路診断や衛星を活用した漏水検知の広域共同発注など「会津若松水
道DX」による業務変革にも注力している。
現在、総務省経営・財務マネジメント強化事業アドバイザーなどを務め、水道専門誌等での執筆、
セミナー・座談会等に登壇。最近は若手技術者をターゲットにNOTEなどのSNSで、自らを「水道
番長」と称し、「未来の水道」のための情報や意見発信を行っている。





















