日本オムニチャネル協会は2023年10月、海外視察ツアーを実施しました。協会主催の海外視察ツアーは、昨年の米国視察に続いて2度目。今年は10月13日から10月17日まで、タイとシンガポールの2カ国を視察しました。成長著しい両国の市場は日本と何が違うのか。小売・流通業の動向は…。海外視察ツアーの様子を、現地の写真と参加者の声を交えて紹介します。
【筆者】
逸見光次郎
日本オムニチャネル協会 理事
2023年はアジア視察
日本オムニチャネル協会は毎年10月、海外視察を実施しています。目的は、国内にとどまらない広い視野を持つこと。加えて、同行する業界/業種/職種/年齢/性別もさまざまな参加者たちと知見を分かち合い、仲良くなり、企業の壁を越えた人の繋がりを作ることです。
昨年(2022年)はデジタルを中心としたアメリカ西海岸を視察しましたが、今年は成長市場のアジア視察を決行。中でも商業が成長しているタイと、安定しているシンガポールの2カ国を10月13日から10月17日にかけて巡りました。
図1:タイ・バンコク市内を中心に視察
図2:シンガポールでは、国内企業はもとより海外展開する日本企業の小売店も視察
統計データから見えるアジアの成長
まずは両国がどんな国なのか。2カ国を含むアジア諸国の状況を整理すると、日本と比べて生産年齢人口(15~64歳)の増加によって平均年齢が若くなっているのが統計より読み取れます。生産力と消費力いずれも日本より高いのが大きな特徴です。
給与の増加も顕著です。例えばタイの場合、日本の平均月収を30万円とすると10万円と低いものの、ここ10年以上も給与の上がらなかった日本に比べ、タイでは2~3倍も増えているといいます。
タイでは、いくつかの財閥が中心になって経済を動かしており、中には王族が関係する財閥もあります。その多くは華人系で、彼らが農業・食品から小売・流通・工業、メディアや都市開発・不動産など幅広く商売に関わっています。競争と連携を繰り返しながら、アジアの国々をまたがって展開しているのが特徴です。
タイ・バンコクに到着
私自身、シンガポールは新型コロナウイルス感染症がまん延する前に視察したことがあるものの、タイは初めての訪問でした。
日本を出発後、10月13日の朝5時にスワンナープ国際空港に到着。早速バスに乗ってバンコク中心部に向かうと風景は次第に変わり、ビルや工場が増えてくるようになります。バンコク中心部に着くころには、想像していたものとはまったく違う大都市の姿が目の前に飛び込んできました。
図4:タイ・バンコク市内の大通りの様子
タイは歴史的に上座部仏教が95%を占める仏教国です。大きな特徴は「タンブン」、つまり善行を行い、徳を積むことを重視する点です。街角に立つ托鉢の僧侶にお布施をするのは、皆の代わりに僧侶が徳を積んでくれていることに対する感謝なのです。
このように利他的な面が強く、実際に街を歩いていても掃除が行き届いています。公園の屋台でも皆が親切に席を案内し、いろいろ気にかけてくれます。何かあると、「ワイ」(合掌)と言われる手を合わせて頭を下げる挨拶を笑顔でされ、こちらもつい笑顔で合掌しながら頭を下げてしまいます。とてもいいなと感じました。
愛される日本カルチャー
日本オムニチャネル協会では国内外で視察ツアーを実施していますが、現地の人の話をよく聞き、自らいろいろ体験することを重視しています。今回の海外視察ツアーも、現地の人と話を聞く機会が多くありました。
バンコクに到着した朝8時から、タイで商売をしている方々に最新の現地情報をレクチャーしてもらいました。その後、バスに乗って数々の店舗めぐりを開始します。
最初はCPグループの「LOTUS」を視察しました。「LOTUS」の売上高は187,959百万バーツ(約9,400億円、2020年度)で、同店は一時期、イギリスのTESCO傘下だったこともあるハイパーマートです。
同店ではタイのAmazonGoと言われる「LOTUS‘S PICK&GO」を体験しました。日本オムニチャネル協会の会員企業であるVINX社の現地駐在の方が開発に携わっていることもあり、LOTUSの方の案内を受けながら「LOTUS‘S PICK&GO」を体験しました。
その後、食料品や生活必需品、化粧品、衣料品、家電など、あらゆるものを揃えるハイパーマート業態の店舗も体験。ツアー参加者は来店者として、実際に買い物しながら店内の各種設備やサービスを体験しました。店内のカメラやセンサーといった設備の状況、品揃えや来店客層などを中心に店内の様子を視察しました。
図5:「LOTUS‘S PICK&GO」の外観と店内の様子
続いて、1995年創業のホームセンター「HOME PRO」の郊外店と都市型店の2店舗を視察。「HOME PRO」はタイ国内に80店舗以上を構えるほか、マレーシアにも展開しています。売上高は61,765百万バーツ(約3090億円、2020年度)で、日本の大手ホームセンター企業と比べても遜色ない規模です。品揃えは日本に近いものの、日用品や雑貨は少なく、インテリアや家電、DIY関連の商材が多くを占めます。大型のバスタブを店内に置くあたりに、タイの経済と消費の強さを感じました。
図6:ひときわ目を引くHOME PROの看板と、店内で展示する大型のバスタブ
「BIG C(ビッグシー)」は、タイに1500店舗以上を構え、周辺のカンボジアやラオスにも展開するハイパーマートです。売上高は100,081百万バーツ(約5000億円、2020年度)に上ります。店内にはPB商品が目立つ一方、日本の食品や菓子、洗剤が多く並んでいるのも印象的でした。惣菜コーナーには鮮度の良さそうな寿司のパックもありました。
現地で聞いたところ、ヤオハンが1980年代にアジア展開した際に日本の食文化が普及し、企業の駐在員も多かったことから日本の食が一般的に広まったといいます。街中でも日本食レストランをあちこちで見かけたし、日本語表記やローマ字表記(OISHII:おいしい)もたくさん見ました。これほど日本の食文化が普及しているとは思わなかったので驚きました。
図7:BIG Cの外観(写真左)と、店内の様子(写真中央)。日本のお菓子も目立つ場所に陳列されている(写真右)
バンコクの熱気
バンコク中心部では高級モールも視察しました。PARAGON、SIAMCENTRE(サイアムセンター)、SIAMSQUARE(サイアムスクエア)、SIAMDISCOVERY(サイアムディスカバリー)ICONSIAM(アイコンサイアム)、CENTRALWORLD(セントラルワールド)と、さまざまなショッピングモールを巡りました。どこもきれいなのはもちろん、多くの若者で賑わっているのが印象的でした。消費を若者が下支えするという、日本とは違ったタイならではの消費動向を垣間見ることができました。
図8:「CENTRALWORLD」の店内の様子。中央部の吹き抜けが印象的な内観(写真左)、きれいなショーケースに色とりどりなスイーツが陳列されていた(写真右)
視察に訪れたときはちょうど祭日だったこともあり、アイドルのイベントや体験型ポップアップストアがあちこちで展開していました。どこに行っても顧客の消費への熱気、事業側の活発なチャレンジを感じられたのが印象的でした。
図9:ショッピングモール内で開催していたアイドルイベントの様子。多くの若者が集まり、賑わっていた
食の面では、寿司や日本の精肉店、和風の弁当が清潔なディスプレイの中に並んでいます。さらに、あちらこちらで美味しそうなケーキ(1ピース80~100バーツ、400~500円)も、きれいなショーケースの中に並んでいます。タイの人たちはこうしたディスプレイを見ながら、楽しそうに買い物をしている様子です。今回の海外視察ツアーの団長で日本オムニチャネル協会会長の鈴木康弘氏は、「1980年代の日本に似ている」と表現していましたが、まさにその通りだと感じました。
図10:ICONSIAMの店内の様子(写真左)と、PARAGONの店内の様子(写真右)。PARAGONでは寿司が1貫ずつ個包装され販売していた
バンコク中心部から南へバスで1時間弱のところにあるMIAMI BAYSIDE(マイアミ ベイサイド)では、日本の中古品販売事業を起業したGEEKS RETAILINGの矢内祥一郎氏が運営する店舗を視察しました。
同店は日本の遺品整理などで出た、さまざまな品物をコンテナで日本から輸入。カメラ、食器、玩具、アパレル、レコードなどの商材ごとに倉庫店舗を作って販売しています。視察当日は、倉庫店舗がリニューアルオープンするタイミングでしたが、地元業者たちが買い物カゴを抱えて列をなし、オープンと同時になだれ込んでいく様子に遭遇しました。まさに現地のものすごい熱気を感じた瞬間でした。
図11:GEEKS RETAILINGの店内の様子。日本で目にする日用品が多数陳列されている
図12:GEEKS RETAILINGの店舗前も多くの人で賑わう(写真左)、開店時にはカゴを持った大勢の来店者が一斉に入店していた(写真右)
前編となるタイの視察レポートはここまで。後編ではシンガポールの視察の様子を紹介します。タイと違って安定、かつ完成された市場を形成しつつあるシンガポールでは、どんな傾向が見られるのか。日本と比べて市場はどれほど賑わっているのか。現地で感じたことをお伝えします。さらに、今回の海外視察ツアーに参加した人の感想もまとめて紹介します。
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