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コラム

第2回 メーカーのサプライチェーンにおける意思決定をざっくり理解する

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資材調達から生産、物流、販売、アフターサービスといった一連のサイクルを管理するSCM(サプライチェーンマネジメント)。無駄を徹底的に削ぎ落して全体最適を図るためには何が必要か。需要を高精度に予測するにはどんなデータが必要か。第2回となる今回は、部品の調達数や生産量などを決断する意思決定の課題に迫ります。

サプライチェーンを支える機能

サプライチェーンとは、企業が顧客に価値を提供する商品の一連の流れを指し、その制御機能をSCMと言います。商品には有形の製品だけでなく、無形のサービスも含まれますが、それらを顧客に提供するためには以下の機能が企業を越えて連携する必要があります。
・原材料や部品、資材などの調達
・ 商品の生産(サービスの場合は生産と消費が同時)
・ 顧客の元へ届ける物流
・ 販売およびアフターサービス

そしてこれらの機能がムダなく効率的に動くためには、販売の前線で何がいつ、どれくらい必要とされているかという需要を予測すること が有効です。

この需要予測は生産のためのスタッフの人数や、物流のためのトラックの台数の確保にも使われるため、サプライチェーン全域にわたってアクションのトリガーとなる重要な情報になります。

図:サプライチェーンの全体像
サプライチェーンの計画と分析』(日本実業出版社)第2章より

SCMとはグレーな意思決定

サプライチェーンの各機能は需要予測を基にした計画立案とも言え、つまりは意思決定です。ここに正解はありません。

というのも、例えば在庫は多く用意しておけば欠品を抑制することができますが、それは保管費や金利といったコストを増加させます。調達においては、多くの量をまとめて発注するほど仕入れ単価は下がり、業務の手間も少なくなりますが、原材料や部品などを多く抱えることになり、廃棄や陳腐化のリスクが増加します。

つまり、サプライチェーンにおける意思決定とは、ほとんどの場合でトレードオフがある中での微妙なバランス調整になるのです。

図:サプライチェーンの全体像
サプライチェーンの計画と分析』(日本実業出版社)第2章より

この適切なバランスは業界や企業だけでなく、もっと細かな商品レベルでも異なりますし、同じ商品でもライフステージや供給地域によって変わる場合が多いでしょう。

こうしたグレーな判断基準における意思決定は属人的になりがちであり、かつ責任の所在が不明確になります。

この意思決定に軸を通すのが事業戦略であり、その上位にあるパーパスです。これらをSCMのリーダー層が理解すれば、組織としてのオペレーションがブレづらくなります。

データサイエンスは意思決定しない

しかし近年のVUCAな環境下では、SCMの実務家も、戦略を所与の条件として捉えるべきではないと考えています。市場変化のスピードが速くなり、輸入価格の高騰や物流リードタイムの長期化といった供給の不確実性も高まる中、サプライチェーンの需要と供給、両サイドの最新状況を踏まえた戦略へのフィードバックが重要になっているのです。

換言すると、SCMからの情報発信によって戦略をより市場環境に合ったものへ深化させるということです。

このためには多様な需給情報をデータとして分析し、有益な示唆を抽出することが必要であり、いわゆるデータサイエンスを駆使した意思決定の支援が競争力を生み出し始めているのです。

データサイエンスという言葉はよく耳にするようになったと思いますが、それはデータサイエンティスト協会によって「情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う」ことと示されています 。データを加工、処理したり、プログラムを実装したりすることはデータエンジニアリングと区別されています。データサイエンスの力とは、以下のスキルを指すと筆者は理解しています。
・解決したいビジネス課題(これを的確に見極め、整理する力がビジネス力)に対し、どんなデータをどのように分析すると良さそうかを考えられる
・ 様々なデータ分析の手法がわかる
・ データ分析の結果をビジネスの各領域(ドメイン)の文脈に合わせて解釈できる
・ 実務家へ分析結果の解釈を説明し、有益な示唆を生み出す議論をファシリテートできる

SCMにおけるデータサイエンスの活用とは具体的に、AI需要予測によるシナリオ分析、多様な制約を考慮できる計画最適化、工場オペレーションをサイバー空間に再現するデジタルツインなどがあり、一部の企業で取り入れられています。

これらはどれも、既製のシステムやアプリを導入すれば自動的に答えを出してくれる、つまりは人の意思決定を代替してくれるわけではありません。有識者が因果関係やオペレーションを適切にモデリングし、かつデータ分析の結果を的確に解釈して意思決定に活かすことが必要です。

しかし、このデータサイエンス力とも呼ばれる新しいスキルを研くことで、意思決定の質とスピードを高めることができます。

これからはSCMだけでなく、様々な領域の専門家にもデータサイエンス力が基礎リテラシーとして求められるようになるでしょう。

著者プロフィール

山口 雄大 (やまぐち ゆうだい)

青山学院大学グローバル・ビジネス研究所研究員、NEC需要予測エヴァンジェリスト。化粧品メーカーのデマンドプランナー、S&OPグループマネージャー、青山学院大学講師(SCM)を経て現職。他、JILS「SCMとマーケティングを結ぶ!需要予測の基本」講師や企業の需要予測アドバイザーなどを担い、さまざまな大学でSCMの講義も実施している。Journal of Business Forecastingなどで研究論文を発表。需要予測やSCMをテーマとした著書多数。

著書
①2018年2月 『この1冊ですべてわかる 需要予測の基本』 (日本実業出版社)
②2018年9月 『品切れ、過剰在庫を防ぐ技術 実践・ビジネス需要予測』 (光文社新書)
③2021年9月 『需要予測の戦略的活用』 (日本評論社)
④2021年9月 『全図解 メーカーの仕事』 (共著・ダイヤモンド社)
⑤2021年11月 『新版 この1冊ですべてわかる 需要予測の基本』 (日本実業出版社)
⑥2022年2月 『すごい需要予測』 (PHPビジネス新書)
⑦2023年7月 『驚人的AI需求預測』 (商周出版) *台湾での出版
⑧2023年7月 『企業の戦略実現力』 (共著・日本評論社)
⑨2024年8月 『サプライチェーンの計画と分析』 (日本実業出版社)


需給インテリジェンスで意思決定を進化させる サプライチェーンの計画と分析 

出版社:日本実業出版社
発売:2024年8月23日

<内容紹介>
本書は、サプライチェーンマネジメント(SCM)とデータサイエンスの融合に焦点を当て、「需給インテリジェンス」の重要性を解説します。著者は、グローバル企業での実務と大学での教育を通じて得た知見を基に、需給情報の収集・分析の手法を紹介。市場のグローバル化や不確実性が増す中で、データドリブンな需要予測が企業の競争力向上に不可欠であると強調しています。各項目の難易度を5段階で示し、実務家や経営者向けに実用的な内容を提供することを目的とした入門書でもあります。

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