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コラム

「一行では無理でも、四行ならできる」。DXを加速させる“知恵の融合。AIエージェントが銀行員に代わって裏方を回す、地銀業界における「インフラ革命」

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銀行は長らく、互いに競い合う存在でした。同じ地域で顧客を奪い合い、同じシステムをそれぞれが構築し、同じ業務を別々の要員で回してきた。しかし2026年5月15日、その前提を覆す一つの発表がありました。千葉銀行、第四北越銀行、東邦銀行、北洋銀行の4行と日立製作所が、バックオフィス業務の共同化を目的とした合弁会社「TSUBASA共同事務センター株式会社」の設立を決定したのです。

「競争」より「協業」を選んだ理由

この4行が連携する枠組みは、TSUBASAアライアンスです。千葉銀行、第四北越銀行、中国銀行、伊予銀行、東邦銀行、北洋銀行、武蔵野銀行、滋賀銀行、琉球銀行、群馬銀行の10行が参加する地銀広域連携の枠組みです。今回の新会社設立の背景として、プレスリリースが明示しているのはオペレーションコストの削減と、今後直面する要員不足問題の解消という二つの課題です。人口減少と高齢化が進む地域において、各行が単独でフルスペックのバックオフィス機能を維持し続けることは、コストの面でも人材の面でも限界を迎えつつあります。

ここで注目すべきは、各行が「競争しない領域」を明確に定義したことです。振込や口座振替、相続手続、ローカウンター手続の検印業務といったバックオフィス業務は、顧客が直接体験するサービスではありません。この「見えない領域」を共同化することで、各行は顧客対応など「見える領域」のサービス競争に資源を集中できるようになります。

クラウドと一気通貫ペーパーレスが生む新しい基盤

新会社の仕組みは、単なる業務の「寄せ集め」ではありません。各行のバックオフィス業務に係るサブシステムを設置するための共同化基盤をクラウド上に構築し、その共同化基盤を通じて複数の銀行間で業務を委託・受託しあうという設計です。
特に相続手続の共同化は、このアーキテクチャの真価が発揮される領域といえます。相続手続は各行ごとに業務フローや書類の基準が異なり、煩雑さと属人性が課題とされてきました。新会社では参加行の中から最善の業務手順・基準を融合して事務ルールを統一化し、そのルールに基づいて設計されたサブシステムを共同化基盤に構築・設置します。これにより、どの銀行の相続手続であっても受付後の書類チェックから振込等の最終処理に至るまで、一気通貫でペーパーレスにて対応できるようになります。

「最善の業務手順・基準を融合する」という表現は重要です。一行だけでは気づけなかった業務の改善点が、複数行の知見を持ち寄ることで初めて見えてくる。協業がイノベーションの触媒になるという構図がここにあります。

AIエージェントという次の一手

さらに踏み込んだ取り組みも始まっています。振込および相続手続のサブシステムについては、日立製作所とAIエージェント導入に向けた検討を開始しており、共同化したバックオフィス業務を最小限の要員で対応できるようになることが期待されています。ここでも「協業」の構造が機能しています。単独の地銀がAIエージェントの開発・導入を推進しようとしても、コストと技術リソースの面でハードルは高い。しかし複数行でコストを分担し、日立製作所という技術パートナーを加えることで、単独では到達できなかったDXの水準に達することができます。

全国規模で多くの地域金融機関が同様の課題を抱えているという認識のもと、今回の取り組みを地銀業界全体のインフラへと育てていく意思表明とも読めます。新会社の資本金は6,000万円(別途資本準備金6,000万円)、出資比率は千葉銀行54.2%、日立製作所15.8%、第四北越銀行・東邦銀行・北洋銀行がそれぞれ10.0%です。新会社は2026年7月に設立し、2027年4月に業務を開始する予定です。

4行が「ライバル」をやめ、「共通の課題を持つ仲間」として動き始めたこと。それ自体が、地銀業界における一つのイノベーションではないでしょうか。

(出典:千葉銀行「TSUBASA共同事務センター株式会社の設立および相続手続の共同化に向けたシステム開発について」2026年5月15日)

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