前回の記事では、DXマガジン総編集長であり、日本オムニチャネル協会会長でもある鈴木康弘さんが話していた「今のAIバブルは、インターネット革命というより、産業革命だ」という言葉の意味を考えてみました。DXマガジンは、日本オムニチャネル協会の公式メディアとして、企業のDX推進や新しいビジネスの取り組みを取材・発信しています。
前回は、その言葉の背景にある「AI革命は知的労働の産業革命なのではないか」という考え方について考えてみました。産業革命では機械が人間の筋力を代替しました。一方でAIが代替しようとしているのは、人間の知的労働です。だからこそ、今起きている変化は単なるITツールの進化ではなく、働き方そのものを変える可能性を持っているのではないか。前回はそんな仮説を立てました。では実際に、AI時代の働き方はどう変わるのでしょうか。産業革命の歴史を振り返りながら考えてみたいと思います。
仕事はなくなるのではなく、変わる
AIについて語られるとき、必ずと言っていいほど出てくるのが「AIに仕事を奪われる」という話です。私自身も最初はそう思っていました。しかし歴史を振り返ると、産業革命の時代も同じような議論があったことが分かります。蒸気機関が登場したとき、多くの仕事が機械に置き換わりました。馬車職人の仕事は減りました。手作業で行っていた作業も機械化されました。
しかし、その一方で新しい仕事も生まれています。蒸気機関を扱う技術者。工場を管理する管理者。機械を設計するエンジニア。仕事がなくなったのではなく、求められる役割が変わったのです。
AIも同じではないでしょうか。例えばメディアの仕事で考えてみます。これまでは記事を書くこと自体に多くの時間を使っていました。しかし今ではAIが下書きを作り、情報を整理し、構成案を提案してくれます。そうなると価値の中心は、「書くこと」から別の領域へ移っていくかもしれません。何を取材するのか。誰に話を聞くのか。どんな問いを立てるのか。誰と誰をつなぐのか。AIにはできない部分の価値が、むしろ高まっていくように感じます。
中間業務の価値は下がる
産業革命では単純作業が機械に置き換わりました。AI時代も似たことが起きるかもしれません。例えば、資料作成、定型レポート作成、一次調査、議事録整理、要約作業といった業務です。
もちろん完全になくなるわけではありません。しかし、これまで数時間かかっていた仕事が数分で終わるようになる可能性があります。そうなると、人間に求められる価値も変わります。重要になるのは、何を判断するか。どんな意思決定をするか。誰と協力するか。どんな体験を設計するかです。DXマガジンでは、「DXは、人の物語。」をコンセプトに、企業の変革を支える人々の挑戦を取材しています。AIが進化するほど、逆説的に人間らしい価値が重要になるのかもしれません。
格差は広がるのか
産業革命では大きな格差も生まれました。工場を持つ人。機械を使いこなす人。新しい仕組みを取り入れた人。そうした人たちが大きく成長しました。
一方で、変化に対応できなかった人は苦戦を強いられました。AI時代にも似た現象が起きるように思います。AIを使う人と使わない人。AIを活用して成果を出す人と出せない人。その差は今後さらに広がるかもしれません。よく「AIが仕事を奪う」と言われます。しかし本当に起きるのは、AIが人の仕事を奪うのではなく、AIを使う人がAIを使わない人の仕事を奪う。ということなのではないでしょうか。少し極端な表現ですが、私はそんな可能性を感じています。
AIバブルの後に何が残るのか
鈴木さんは今を「AIバブル」と表現しました。確かに現在は、AIそのものに注目が集まっています。新しいサービスが登場するたびに話題になり、多くの企業がAI活用を掲げています。しかし歴史を見ると、技術そのものへの熱狂は長く続きません。やがてAIは特別なものではなくなります。電気やインターネットのように、誰もが当たり前に使う社会インフラになるはずです。
そうなったときに評価されるのは、AIを使ったかどうかではありません。AIを使って何を実現したのかです。どんな顧客価値を生み出したのか。どんなサービスをつくったのか。どんなコミュニティを育てたのか。どんな課題を解決したのか。そこが問われる時代になるのだと思います。
私たちの仕事の価値はどこにあるのか
ここまで考えていて、私は自分自身の仕事についても改めて考えるようになりました。記事を書くこと。情報を整理すること。資料作成をすること。こうした仕事は、これからAIが得意になる領域です。
私は普段、DXマガジンの取材活動や、日本オムニチャネル協会が主催するセミナーやイベントの運営に携わっています。日本オムニチャネル協会は、小売業やメーカー、IT企業など、さまざまな業界の企業が集まり、DXや新しいビジネスのあり方を学び合い、企業同士が交流・共創する場です。AIによって記事作成や情報整理の効率は大きく向上していくでしょう。
しかし、経営者同士をつなぐこと。信頼関係を築くこと。異業種の出会いを生み出すこと。共創のきっかけをつくること。こうした活動は簡単には代替できません。むしろAIが普及するほど、人と人が直接つながる価値は高まっていくように感じます。
歴史から学ぶべきこと
今回、産業革命の歴史を振り返りながらAI時代の働き方について考えてみました。もちろん未来のことは誰にも分かりません。しかし歴史を見る限り、価値を生み出したのは新しい技術そのものではありませんでした。新しい技術を活用し、新しい価値をつくった人たちでした。
AI時代も同じなのだと思います。AIを使うこと自体が目的ではありません。AIを活用して何を生み出すのか。誰と誰をつなぐのか。どんな価値を社会に提供するのか。それが問われる時代になるのではないでしょうか。AIが知的労働を支援する時代だからこそ、人間にしかできない「出会い」「共創」「信頼関係」の価値は高まっていくはずです。日本オムニチャネル協会が目指しているのも、まさにそうした人と人がつながり、新しい価値を生み出す場づくりです。
鈴木さんの「AIバブルは産業革命だ」という一言をきっかけに歴史を振り返ってみて、私はAI時代に求められるのは技術そのものではなく、人と人をつなぎ、新しい価値を生み出す力なのではないかと思います。

編集者プロフィール
小松由奈
株式会社デジタルシフトウェーブ
メディアコミュニケーション部






















