日本オムニチャネル協会は2024年10月、インドの視察ツアーを実施。成長著しいインドでは、小売店はどんな成長を遂げているのか。どんな特徴がみられるのか。今回はバンガロールとデリーで視察した小売店の印象を紹介。インドならではの小売事業を考察します。
バンガロールとデリーのモール視察
インドでは企業や団体などを訪問しただけではなく、国内に展開する小売店も数多く視察しました。インドでは約9割の小売店が伝統的な小型店舗で、いわゆるモールやスーパーなどの近代的な小売店は1割もありません。
今回は、バンガロールで「VEGAMALL」や「LULUMALL」、デリーで「NEXUSMALL」や「PACIFICMALL」「CYBERHUBMALL」「SOUTHPOINT」などを視察しました。これらの多くが庶民向けというより、富裕層向けのブランドショップや飲食店が中心で、ミニデパートのような構成の店舗が少なくありませんでした。
近代小売では財閥のRELIANCEグループが食品スーパー、家電量販、アパレルと様々な業態を展開しています。RERIANCEグループは1958年にディルバイ・アンバニ氏が設立した貿易会社が始まりで、現在は兄弟で分割した主な2社から成り立っています。リライアンス・インダストリーズは石油、ガス開発、バイオテクノロジー、繊維事業のコングロマリット。従業員数は約38万人、時価総額が2,000億ドルとなります。リライアンス・ADA・グループ:金融サービス・通信・電力・不動産などのコングロマリット。従業員数は約10万人で年間売上高は93億米ドル超です。
同社が提供する商品は品質も良く、私も実際にアパレルのRELIANCE TRENDSやAZORTEで買い物をしましたが、品質の良さはもちろん、AZORTEではAmazon Styleのように試着室でのフィッティング支援が提供され、RFIDで持ち込んだ商品を認識し、目の前のパネルに表示し、サイズ確認やリクエスト機能などがありました。おそらくインドの携帯番号を持っていてアプリでログインしていたらより豊かな体験が出来た事と悔やまれます。
インド国内に200店舗近くを展開するDMartはMRP(MaximumRetailPrice:メーカーが製品に表示を義務付けられている法定最高販売価格)に対していくらの値引なのかがPOPやプライスカードに表示されていたり、2階では99ルピーシャツのワゴン販売をしていたり、EVERYDAY LOW PRICE戦略の価格重視型で比較的庶民向けのスーパーでした。同社の売上高は22年度が4,183.3億インドルピー、23年度は4,950億インドルピーを越えるとされています。同じバンガロールのSIMPLI NAMDHARISは1985年創業のオーガニック重視の高級スーパーで、価格よりも商品の品質を伝えるPOPがありました。同社は国内に28店舗+ECを展開、その年商は5 億 4,600 万ルピー (23年度、約 6,500 万米ドル)です。ただこうした近代小売型のスーパーは数が少なく、次に挙げるキラナショップ等の伝統的小売店舗が市内では多く見られます。
地域密着型の商売と顧客理解
食料品から幅広い日用品までを扱うキラナショップは国内に1,200万店舗あると言われています。実際に購入してみましたが店頭ではクレジットカードも先に挙げたUPI決済も使えました。しかしその仕入ルートはアナログで複雑であり、”キラナテック“と呼ばれるスタートアップや、先に挙げた政府主導のONDCによってデジタル化が少しずつ進むとともに保護されています。サイズは日本のミニスーパーから売店サイズまで様々ですが、地域密着で何世代にも渡って営業しているので、顧客の嗜好も理解した品揃えと商売になっているのだそうです。
イメージ的には昭和の商店街がまだ残っていて、キラナショップと零細の各専門店から成り立ち、地域/顧客密着の営業を行っている感じがしました。現地ガイドのバンシさんにも伺いましたが、インド人とキラナショップは切っても切り離せないほどの深いつながりを持っているそうです。こうした伝統小売がデジタル支援だけではなく法律も含めて保護されているがゆえに、外資の大規模リテールが進出出来ず、昔ながらの街並みと商売と人のつながりを残しているというのは、オムニチャネルの観点でも重視すべき学びでした。
インドの多様性と可能性
繰り返しになりますが、インドでは人種、宗教、言語、カーストなど様々な壁が存在しますが、実際に滞在して買い物し、現地のインド人や駐在日本人の方々と話をする中で思ったのは、若くて多様性にあふれた、将来の可能性が大きい国なのだという事です。14億人という内需もあり、平均年齢の若さからの成長力もある。ただまだ海外からの進出とビジネスの創出は少なく、日本が一緒にビジネスを始める余地はたくさんあります。その際にはおそらくインドを、進出して売上を作る対象として見ても協力関係は生まれず、インドでビジネスを起こして雇用を創出し、経済に貢献するビジネスを共創する思考でなければ受け入れられません。
日本オムニチャネル協会としてもインドとのつながりをこれからどう発展させて両国のきずなの一つとなり得るのか、そしてナスコムに学んだように、海外からの入り口としての日本オムニチャネル協会になっていく事で、非営利ではあるけれども多くの会員企業の事業成長や日本の発展に協力出来る形はなにか、広く模索したいと強く思いました。
最後になりますが、今回の視察体験ツアーを成功裏に導いてくださったコーディネーターのGDX洞田社長、インドボックス丹治社長、HOSIRYTY阪口社長、ジェネシアベンチャーズ 相良インドカントリーマネージャーに深くお礼を申し上げます。
【筆者】
逸見光次郎
日本オムニチャネル協会 理事
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