日本オムニチャネル協会は2024年10月、海外視察ツアーを実施しました。協会主催の海外視察ツアーは、昨年のタイ・シンガポール視察に続いて3度目。今年は10月23日から10月29日まで、インドを視察しました。成長著しいインドの市場は日本と何が違うのか。小売・流通業の動向は…。海外視察ツアーの様子を、現地の写真と参加者の声を交えて紹介します。
次なる視察先、インドの可能性と視察の目的
日本オムニチャネル協会では毎年10月頃に、海外視察を実施しています。第1回のアメリカ西海岸(サンフランシスコ、シアトル)視察は新型コロナウイルス感染症がまん延する以前の一般的な海外視察のように、最先端の取り組みを実際に目で見て学びました。参加者は学んだことを自社にどう反映するか、という目的に主眼を置いた視察でした。
第2回のタイ・シンガポール視察では、LAZADAやSHOPEEといったネットモールとSNSが組み合わさった独自のEコマースやオムニチャネル、デジタル店舗の動向を体験しに行きました。小売の現場を通してタイやシンガポールの熱気を感じ取ることができました。タイの首都バンコクには、高級ショッピングモールが複数あり、モール内での活発な“推し”イベントや、若い来店客の強い消費意欲、優れた接客、店舗の清掃管理、さらには整備された街並みまで、日本にいるだけでは読み取れないタイの現在を体験できました。
シンガポールでは日本よりも高い個人GDPを反映したリテールが印象的でした。さらにチャンギ空港のDX推進チームとのディスカッションでは、やりたい人、変えたい人が率先して進めるスタイルを教わりました。既存の役割と組織を重視する日本のDX推進の概念そのものを覆す考え方が今も強く心に残っています。
「どんなシステムを使っているのか」「どんなテクノロジを採用しているのか」を知るだけでは、DXの本質は必ずしも見えてきません。その国の文化や商習慣を実際に体験し、現地の人と会い、話して自分の考えを軌道修正し続けることがDX推進を支えるのです。日本にとどまるだけでは成し得ない体験が、自社のDXを後押しすると分かったのです。
では新たな体験を得られる視察先はどこか…。第1回、第2回の視察を振り返り、第3回の視察先を検討した結果、有効な国として候補に挙がったのがインドでした。「IT先進国」や「レベルの高い教育」というイメージが先行する一方、「治安は大丈夫か」「街の整備は進んでいるのか」「一人では行きにくい」といった意見も多く上がりました。こうした状況だからこそ、「現在のインドを理解すべき」と判断し、第3回の視察先に決定しました。
ちなみに私の娘は4歳から12歳(保育園~小学校)まで、日本にあるインド人のための学校(India International School in Japan)に通っていました。日本駐在のインド人とその子供たちと触れ合う機会が多く、この特徴的な人たちの本国を見たい、という強い思いも個人的にはありました。
インドの多様性と複雑性
そもそもインドとはどんな国なのか。
正式名称はインド共和国。面積は日本の約9倍近い328.7万㎢、首都はデリー(デリー連邦直轄地)。人口は14億人超、民族はインド・アーリヤ系/ドラヴィダ系/チベット・ビルマ系など多様です。宗教はヒンドゥー教79.8%、イスラム教14.2%、キリスト教2.3%、シク教1.7%、仏教0.7%、ジャイナ教0.4%の割合ですが、2014年に国民会議派(INC)からヒンドゥー至上主義のインド人民党(BJP)に政権が移り、ヒンドゥー教がより重視される傾向です。
一方、政治的には共和制で、現在はBJPのナレンドラ・モディ首相と、BJPが擁立した初の指定部族(先住民族)出身で元教員でもあるドロウパディー・ムルム大統領が治めています。インドは歴史的には日本の大名同様、各地に藩王などの地域勢力が存在していたため、文化はもちろん、言語も多様です。公用語はヒンディー語ですが、その他には英語に加え、憲法で公認されている州の言語が21もあります。
地政的にはインドから分離独立したパキスタン、さらにパキスタンから独立したバングラディシュ、その他にもネパール、ブータン、ミャンマー、中国に囲まれています。
このように様々な人種と宗教、言語、さらにカースト制度が存在するのがインド文化の根底にはあります。広大な国土ゆえに物流インフラが未整備な所は多く、国内でも経済格差が大きい一方、人口は世界第一位になったと言われています。人口を年齢順に並べたときにその中央で人口を2等分する境界点にある年齢(中位年齢)は28歳で、日本の48歳と比べても格段に若く、生産も消費もまだまだ成長の余地があるという状況です。
小売市場は年率9%成長で、2026年までには1兆4070億米ドルに達する見込みです。ECは年率25~30%と急成長しており、2021年時点のEC化率は7%。2030年には流通総額で3500億米ドルになると言われています。
一方、インドには様々な中心都市があります。首都のデリーの他には、イギリスが植民地時代に建設したマドラス(チェンナイ)、ボンベイ(ムンバイ)、カルカッタ(コルカタ)の港湾都市が有名です。バンガロールやハイデラバードといったIT都市も有名です。
今回の視察では、首都デリーとIT都市バンガロールを訪問。2ヵ所とはいえ、南北に1700キロメートル以上離れており、飛行機では3時間もかかる距離です。
視察ルートは10月23日に羽田から直行便の多いデリー(インディラ・ガンディー国際空港)に入国、すぐバンガロール(ケンペゴウダ国際空港)に移動し、24日早朝から3日間かけて視察を実施。26日午後にデリーへ戻り、28日夜便に乗って29日早朝に帰国する行程としました。
第1回目はここまで。第2回ではバンガロールの視察の様子を紹介します。インドのマーケティング手法や、パーソナライズされた顧客体験の重要性、高額商品における消費者の決断プロセスなどの状況を紹介します。
【レポーター】
逸見光次郎
日本オムニチャネル協会 理事
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