寄稿・連載

    2022.08.18

    常識にとらわれない商品づくり、消費者の五感に訴えるデザインも重要に【鈴木敏文のCX(顧客体験)入門 Vol.3】

    年間の売上高が1.4兆円となるセブンプレミアム。これまでの概念を打ち破り、“CX型の商品”として価値を提供できるようにしたことが大ヒットを下支えしています。具体的にどんな戦略を打ち出したのか。ここでは、「セブン‐イレブン・ジャパン」を創設したセブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏の著書「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」の内容をもとに、セブンプレミアムの成功要因を探ります。

    PB商品の常識を打ち破る2つの施策

     買いたいと思える体験価値をモノに付与できるかどうか…。これは、セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏が徹底して貫いた商品づくりの考え方です。心理的・感情的に感じるコトの価値を探るとともに、消費者の“消費を正当化する理由”を突き詰め、価格や品質に依存しない商品価値を訴求できるようにしたのです。

     こうした商品づくりを展開して生まれたのがセブン&アイグループの「セブンプレミアム」です。2007年の発売以来、13年間の累計販売額は10兆円を超える大ヒット商品です。

     なぜ、セブンプレミアムはPB商品として圧倒的な強さを誇るのか。今回は、鈴木敏文氏の著書「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」からその要因を探ります。

     そもそも鈴木氏はセブンプレミアムが大ヒットした理由をどう分析しているのでしょうか。著書では2つの既存の概念を打ち破ったことが成功要因だと指摘しています。1つは、「既存のPB商品の概念を覆すこと」、もう1つは「流通業界の既存の概念を打破すること」。これらに取り組み、これまでのPB商品にはない価値を付与したことを大ヒットの要因と考えます。

     これまでのPB商品は、メーカーのNB(ナショナルブランド)商品より安いものであるのが一般的でした。しかし鈴木氏はこの考えを打ち破り、低価格優先ではなく品質を徹底的に追及することを厳命。NB商品と同等以上の品質を手ごろな価格で提供することに取り組みます。

     さらに、NBメーカーは流通企業のPB商品を製造しないというこれまでの常識も打ち破ります。品質を追求するにはNBメーカーの協力が不可欠とし、大手や一流メーカーとの連携を図ります。NBメーカーを「下請け」と位置付けず、対等なパートナーとして「共同開発した商品である」ことを明記しました。

     商品品質を向上するとともに、製造者名を明記したことで消費者の品質に対する安心感や信頼感に応えたのです。これがブランドの信頼感につながり、続けて利用したいというロイヤルティも高めたのです。

    五感に訴えるパッケージデザインも重要

     著書ではセブンプレミアムを「CX型の商品の典型」と位置付けています。モノとしての物質的・物理的な価値の高さに加え、コトとして心理的・感情的な価値の大きさを備えることで、他商品にはない競争力をもたらしたと言います。

     では、ここで言う「心理的・感情的な価値」とは具体的に何を指すのは。著書ではカスタマー・エクスペリエンスとして次の5つのタイプを取り上げています。
    ・SENSE(感覚的経験価値)
    顧客の五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を刺激して生み出される価値

    ・FEEL(情緒的経験価値)
    顧客の気分、内面的な感情に働きかけて生み出される価値

    ・THINK(創造的・認知的経験価値)
    顧客の知的好奇心や探求心を刺激し、創造的な思考を喚起して生み出される価値

    ・ACT(肉体的経験価値とライフスタイル全般)
    顧客の肉体的な体験、行動パターンやライフスタイルに新たな変化をもたらすことで生まれる価値

    ・RELATE(準拠集団や文化との関連づけ)
    特定のブランドをめぐる集団や文化に属しているという感覚や意識から生まれる価値
    via プレジデント社「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」
     セブンプレミアムという大ヒット商品の価値を探るとき、これらのタイプをもとにどんな価値があるのかを探ることができます。もっともセブン&アイ・ホールディングスの場合、商品に価値を付与するだけにとどまらず、セブン-イレブンという店舗でも「心理的・感情的な価値」を提供することに乗り出します。特に五感を刺激する「SENSE」を高めるようにしたのです。

     そもそも店舗で販売するさまざまな弁当は、品質こそ改善を繰り返してきましたが、当時はロゴマークが付いてなければパッケージも不揃い。セブンプレミアムもロゴは不統一で、ブランドのイメージを伝えられていませんでした。

     そこで売場全体でブランド価値を再構築し、消費者に再認識してもらうブランディング・プロジェクトを1年かけて実施したと言います。セブンプレミアムやおにぎり、弁当などのロゴやパッケージを全面刷新します。
     ロゴやデザインが統一されていることで、背後にある関連性や文脈を感じることができるようになる。実際、店内でのセブンプレミアムの存在感が一気に増し、ブランドが際立つようになり、それは売上高の急伸となって表れました。
    via プレジデント社「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」
     鈴木氏は著書で、デザイン力の効果をこのように言及しています。デザインを刷新した年の既存店売上高の伸び率は約7%で、前年の約2%を大幅に上回ったそうです。全店平均日販も4万円増え、業績の大きな伸びに貢献したのです。

     なお、セブンプレミアムの品目数は現在、約3500点あります。その1つひとつのパッケージデザインは、事前設定した「デザインのルール」に基づいて作成されます。これだけの品目が1つのデザインルールをベースに作られているケースは、世界的にも類を見ないそうです。品質向上とともに、売り場改善やパッケージ刷新に取り組み、セブンプレミアムを全体でブランディングすることで「心理的・感情的な価値」を付与できるようにしたのです。

    DXマガジン総編集長 鈴木康弘の提言「失敗を恐れない強い意志を」

     鈴木敏文氏がセブンプレミアムというヒット商品を生み出したのは、失敗を恐れず、PB商品のこれまでの常識を打ち破ったことに尽きます。最初は、社内でも反対が多かったが、トップの強い意志で今日の成功に導いてきたのです。

    こうした姿勢はDXにも当てはまります。大企業を見ると、多くが過去の成功体験に縛られています。これではデジタル技術を使った変革なんてとうてい成功しません。DXを成功に導くには、トップの強い意志こそ欠かせません。さらに、失敗を恐れない企業マインドを醸成することも必要です。大企業の社員ほど、失敗を恐れているように感じます。チャレンジを許容し、何度でも失敗する姿勢を評価する企業ほどDXを成功へと導けるのです。

     鈴木敏文氏の強い意志と失敗を恐れない気持ちは、DXのような新たなチャレンジにこそ求められるのです。
    via DXマガジン総編集長 鈴木康弘
     (11534)

    本書のご購入はこちらから。
    https://www.amazon.co.jp/dp/4833424495/
    information
    書名
    鈴木敏文のCX(顧客体験)入門
    著者 鈴木敏文 取材・構成:勝見明
    出版社 プレジデント社
    発売日 2022年5月31日
    あわせて読みたい編集部オススメ記事
    16 件
    〈 1 / 1 〉

    Related

    寄稿・連載