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インタビュー

後発だからこそ磨き上げた通信特性が強み、海上のIoT化まで見据える「ELTRES」の実力

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IoTの導入が広がるにつれ、データをやり取りする通信規格技術に注目が集まりつつあります。5GやWi-Fi、さらにはLoRaWANやsigfoxといったLPWAが乱立する中、後発で参入したのがソニーの「ELTRES」です。IoT向け通信規格として市場投入した狙いと、他にはない強み、主な利用シーンについてソニーネットワークコミュニケーションズのIoT事業本部  営業推進部 部長 鈴木説男氏に聞きました。

エッジの効いた通信特性が最大の武器

 5G、Wi-Fi、Bluetooth、ZigBee…。IoT環境を構築する際に使われる通信規格にはさまざまな種類があります。どの通信規格を使うのかはそれぞれの特性を理解し、状況に応じた通信規格を選択することが求められます。とはいえ、IoTの用途が多様化する中、既存の通信規格では必ずしも状況に適さない。そんなケースが増えつつあります。そこで近年関心を集めているのが、IoT用途に特化した低消費電力、かつ長距離伝送が可能な通信規格技術「LPWA(Low Power Wide Area)」です。  LPWAは、IoTデバイスの消費電力を低く抑えることで電池が長持ちする、データの通信距離を長距離化することで基地局設置コストを下げられるなどのメリットを見込めるIoT向け通信規格技術です。すでに「LoRaWAN」や「sigfox」「ZETA」「NB-IoT」などのさまざまな種類が登場し、海外では広域な範囲をモニタリングしたり、スマートシティを支える各種サービスを提供したりする通信インフラとして導入が進んでいます。  そんな中、新たな特徴を持つLPWAとして2019年9月に登場したのが、ソニーネットワークコミュニケーションズの「ELTRES IoTネットワークサービス」です。後発ながら市場投入した経緯について、同社のIoT事業本部 営業推進部 部長の鈴木説男氏は、「IoT導入を検討する顧客の中には、『機能はシンプルでもつながる通信がほしい』『遠隔地でもつながる通信がほしい』など、既存のLPWAに満足しない声が少なくない。そこで、ソニーの強みであるAV技術を応用し、安定性を担保しつつ通信距離で他のLPWAに引けを取らない通信規格技術を開発した」と言います。ソニーならではの“エッジの効いた”通信規格技術として、後発ならではの強みを全面に打ち出します。
ソニーネットワークコミュニケーションズ IoT事業本部...

ソニーネットワークコミュニケーションズ IoT事業本部 営業推進部 部長 鈴木説男氏

 最大の特徴は、「他LPWAの追随を許さない通信距離」(鈴木氏)と強調します。一般的なLPWAの通信距離は10メートルから数十キロメートルであるのに対し、ELTRESは遮蔽物などがない条件なら100キロメートル以上の長距離伝送が可能です。実証実験では、富士山山頂と和歌山県・那智勝浦町間の321キロメートルをデータ伝送した実績もあり、IoT環境構築時には基地局の設置数を大幅に減らせるメリットを見込めます。
 とはいえ、IoTデバイスが送信するデータを確実に収集できなければ長距離対応も意味がありません。そこでELTRESではデータ送信の確実性を高める工夫も施します。「同一データを4回送信する仕組みを備え、4回分のデータをもとにデータを復元できる。4回分のすべてを受信できなくても復元可能だ。回線が混雑する都市部はもちろん、海上や山間での安定通信を可能にする」(鈴木氏)と言います。復元にはソニーがCDのデータ読み取りで培ってきたデータ補正技術を応用しています。  そのほか、時速100キロメートル以上で移動する車や鉄道などに取り付けたIoTデバイスからデータを受信することも可能です。1日2回程度のデータ送信頻度なら10年以上使えるIoTデバイスもあるという低消費電力も売りにします。「必要なデータをきちんと収集・管理できるかがIoTに求められる要件だったが、適用範囲が拡大する中、効率性や低コスト、低消費電力なども求められるようになった。ELTRESはこうした新たなニーズに追随する特性を備える」(鈴木氏)と強みを強調します。

上り通信のみや情報量128bitまでの制限も

 一方で、エッジの効いた技術ゆえのデメリットもあります。その1つが、IoTデバイスからデータを受け取れるが、データを送ることはできないという点。例えば、IoTデバイスにデータを送信し、ファームウェアをアップデートするといった作業を実施することはできません。もしIoTデバイスのファームウェアをアップデートするなら、散在するIoTデバイスを1台ずつ回収する手間が発生します。「IoTデバイスの設定を変更したりプログラムを書き換えたりするケースは、使い方にもよるが頻出するわけではない。ならば、IoTデバイスを管理するための下り通信を切り捨て、上り一方向の通信に割り切って特徴を磨き上げた」(鈴木氏)と言います。  データ転送量も制限します。IoTデバイスから送られてくるデータの情報量は、一般的なサイズの128bitです。例えば、カメラで監視した映像や画像、音声などを送信する用途には向きません。工場内の設備をカメラで確認したり、防犯用カメラを使って繁華街を監視したりといった用途にELTRESは使えません。「位置情報と時刻情報に加え、温度や湿度、気圧、照度、騒音などのセンサー情報を収集する用途を想定する。取得するデータの組み合わせは自由だが、どんなデータを収集・分析したいのかといった目的を事前に絞ってから採用すべきかを検討してほしい」(鈴木氏)と言います。ただし、定型文のパターンを事前に用意しておくことで短いテキストなら送信することは可能です。  なお、IoTデバイスからのデータ送信間隔は、1分に1回(1日の送信回数1440回)から24時間に1回(1日の送信回数1回)まで、8つのプランを用意。2つのプランを組み合わせ、例えば「日中は1分に1回の送信間隔、夜間は1時間に1回の送信間隔」という使い方が可能です。一定の条件を満たした場合に送信回数を変更するトリガー送信も可能です。例えば、河川の水位を計測するIoTデバイスが水位上昇を検知した場合、その後は1分か3分間隔で20回水位データを送信するといった使い方ができます。

海上のIoT化を先導するELTRES

 他のLPWAには真似できない、ELTRESならではの利用シーンにはどんな状況があるのか。その1つが海上での環境観測です。海上ブイに流速や海水温、風向などを計測する各種センサーとELTRES送信機を搭載し、海上での環境情報を収集できるようにします。遮蔽物なしなら100キロメートル以上の通信が可能なELTRESの強みを打ち出した事例です。「“海上”という広大なエリアをIoTで監視するという取り組みはこれまで難しかった。しかし、ELTRESを使うことで環境情報などを容易に収集できる。当社としても海上のIoT化に注力している。これまでデータ取得が難しかったケースへのIoT導入にELTRESが貢献したい」(鈴木氏)と言います。海洋レジャーの安全管理として、ELTRES端末をダイバーに装着して海面浮上ポイントを測位するなどの用途も見込めます。
図1:海難救助活動を実施するダイバーの位置を特定する用...

図1:海難救助活動を実施するダイバーの位置を特定する用途も見込む

 そのほか、遠隔地、さらには高所の鉄塔の設備監視にELTRESを利用するケースもあります。作業員が鉄塔の上まで登って送電設備を確認する手間などを軽減することが可能です。遠隔にある現地まで行く移動コストも抑えられます。富山県射水市では、積雪・雨量・水位の可視化をELTRESで実現します。積雪・雨量・水位を測定する場合、電源の供給な場所にセンサーを取り付ける必要があったが、低消費電力でも長期間利用が可能でELTRESを利用することで可視化できるようにしました。  同社には現在、スマートシティの実現を目指す自治体からの引き合いも増えていると言います。「児童や高齢者などの見守り、害獣駆除、水位監視や積雪監視などの防災対策など、さまざまなニーズでELTRESを活用する動きが出ている。長距離通信やデータ送信の確実性などの強みを活かし、自治体や企業のIoT導入を支援したい」(鈴木氏)と意気込みます。

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