逆境を突破し、最速で儲かる会社へと変革する。その鍵を握るチェンジリーダーはいかにして生まれるのか。ゴールドラット・ジャパン CEO 岸良裕司氏の新刊『なぜあなたはマネジメントを間違えるのか? 会社の常識を打ち破るチェンジリーダーの教科書』の刊行を機に、その背景にある「怒り」、失われた「和」の本質、そして次世代のチェンジリーダーに託す「月曜日が楽しみな会社」への構想に迫ります。(聞き手:デジタルシフトウェーブ代表取締役社長 鈴木康弘氏)
出版の動機は、日本の現状への猛烈な「怒り」
鈴木: 今回出版された『なぜあなたはマネジメントを間違えるのか?』を拝読し、岸良さんがこれまで培ってこられた知見が凝縮された、まさに集大成ともいえる一冊だと感じました。本書はどのような背景から生まれたのでしょうか。
岸良: 実は、出版社から「今後30年にわたり読み継がれる書籍を書いてほしい」と依頼をいただいたことが、執筆のきっかけでした。ただ正直に言うと、本書は私の集大成というよりも、むしろ「怒り」から生まれた一冊です。
鈴木:怒り、でしょうか。
岸良:はい。日本企業の現場を見ていると、皆さん本当に懸命に努力されています。それにもかかわらず、成果が上がらないどころか、状況は悪化し、現場は疲弊している。なぜそのような事態に陥るのか。それは、世の中で当然とされている「常識」や「既成概念」が誤っているからです。

そこで今回、企業にはびこる思い込みや誤解を洗い出してみたところ、実に69項目にも上りました。「みんなが頑張れば成果が出る」「在庫は資産だ」「コストダウンすると儲かる」…これらはいずれも間違いです。これらは作れば売れる時代に生まれたものですが、今は時代が違いますよね。前提条件が変化しているにもかかわらず、過去の常識を信じ続けている。その既成概念こそが、企業の成長を阻んでいるのです。誤った前提のもとで努力を重ねることは、いわばブレーキを踏みながらアクセルを踏むようなものです。だからこそ、正しいロジックを提示し、この矛盾した状態を変えなければならない。その強い思いこそが、本書執筆の原動力となっています。
失われた日本の「和」と部分最適の罠
鈴木: 企業にはびこる「間違い」の中でも、特に日本企業にとって深刻なものは何だと考えていますか?
岸良: 一言で言えば「部分最適」です。かつて日本は資源に乏しい小国でありながら、「和」の力によって世界を席巻しました。工場の現場も系列企業も、組織を超えて全体を良くするために協力し合っていたのです。ところが、ある時期を境に、その姿は変わってしまいました。
鈴木: 何が転機となったのでしょうか。
岸良: 大きな要因の一つは「成果主義」の導入だと考えています。本来は年功序列を見直し、実力で評価するための仕組みでした。それがいつの間にか「個人のKPI」や「自部署の利益」だけを追求する「部分最適」の仕組みにすり替わってしまったのです。「隣の部署を手伝っても自分の評価にならない」となれば、協力は生まれません。
鈴木: たしかに近年、自身のキャリアアップや自部署の数字ばかりを気にする風潮が強まる傾向にあると感じます。
岸良: 日本企業が再び強くなる鍵は、失われた「和」を取り戻すことだと思います。
TOC(制約理論)の提唱者であるゴールドラット博士が、日本の現場でTOC導入後に「なぜ成果が出たのか」と尋ねたことがありました。博士は当然、「利益が出たから」という答えを期待していました。ところが日本の現場からは、「職場に「和」が戻ったから成果が出た」という言葉だったのです。
この一言に博士は強い衝撃を受けていました。数字ではなく、調和や全体性の回復を成果として挙げる日本の現場。その姿を見て博士は、利益を最終目的とする欧米型の発想以上に、「和」という文化そのものが日本の競争力の源泉なのだと認識を深め、日本文化への敬意をいっそう強めていました。 そもそも、かつての日本企業は、組織や会社の枠を超えて協力し合い、全体を良くすることを最優先にしていました。博士が示す「和」とは、単なる仲の良さではありません。「Harmony(調和)」「Peaceful(平和)」「Sum(足し算・全体)」、そして「Japanese(日本的な)」という意味を併せ持つ、全体最適の象徴でした。

ところが日本は欧米型の成果主義や評価制度を導入する過程で、本来の強みを損なってしまったと感じます。博士は、「欧米のシステムには優れた点も数多くあるにもかかわらず、日本はその中でも特に部分最適を助長する仕組みだけを取り入れてしまったのではないか」と嘆いていました。個人や部門の成果を競わせる制度が、全体で助け合う文化を壊してしまった、と。
そして現在の日本企業は、その「和」を制度や評価指標によって自ら弱め続けています。本来、全体のためにボトルネックを助け合う文化こそが最強の競争力だったにもかかわらず、部分最適の仕組みがそれを分断しているのです。
だからこそ、日本企業が再び強くなる鍵は、失われた「和」を取り戻すことにあると考えます。
DXの本質は「ツール」ではなく「ルール」の変革
鈴木: 部分最適の話を踏まえると、DXがうまくいかない企業が多い理由も、そこにあるように思えます。
岸良: まさにその通りです。多くの企業はDXを「ツールの導入」と捉えています。しかし本質は「ルールの変革」にあります。
部分最適のルールのままDXを推進すればどうなるか。例えば、売れてもいないのに工場の稼働率を上げるために効率よく生産し、過剰在庫の山を築くことになります。これは今も起きている現実です。それでは企業は豊かになるどころか、一生懸命やっていることがむしろ会社を貧乏にしてしまうのです。
鈴木: 間違った業務プロセスを高速回転させるだけになってしまうわけですね。
岸良: その通りです。私が提唱しているのは、「自分の領域をなんとかしなきゃ」というテリトリー意識、すなわち組織の壁を壊すことです。営業、製造、物流がそれぞれ自部門の効率だけを追求すれば、必ずその接合部分(つながり)で滞留や在庫が生まれます。
DXを成功させるためには、まず縦割り・部分最適の評価指標を外し、「会社全体に入ってくるお金」を最大化するという全体最適のルールへと転換しなければなりません。部分最適の組織を全体最適に変える実践的なノウハウをこの本には詰め込みました。
AIの活用についても大きな問題があると思っています。世の中の成功事例として発表されるほとんどは、「会社に入ってくるお金」が増えてないのが現実じゃないでしょうか?AIの活用は「手段」であって「目的」ではありません。重要な問いは、「何のために使うか?」ということだと思います。
実は我々ゴールドラットはグローバルに豊富な実績を持っているAIエキスパートの開発会社でもあります。このAIエキスパートは会社に儲けをもたらします。日本でも約100店舗を展開するアパレルチェーンで、数十万のSKUの在庫管理をAIエキスパートで、人では到底できないレベルで各店舗のSKUを社長の思い通りに自律的に適正化し、大幅に儲けを増やすことが出来ています。その社長がユニークなのは、AIエキスパートを、在庫管理のトップエキスパート社員として採用し、人には人しかできない仕事をしてもらうことで、AIと人のコラボレーションを実現しています。このAIエキスパートは”Onebeat”と言います。詳しくは検索ください。
(Onebeat:https://www.1beatjapan.com/)

経営に「科学」を取り戻し、月曜日が楽しみな会社へ
鈴木: 本書は、どのような方に読んでほしいですか?
岸良:経営層にもぜひ読んでいただきたいですが、とりわけ20代後半から30代の若手、次世代のリーダーに読んでほしいと考えています。彼らは「うちの会社、何かおかしいな」と薄々感じているはずです。そんな彼らに、「経営には科学がある」「問題解決には公式がある」という事実を伝えたいです。
鈴木: 「精神論」ではなく「科学」なのですね。
岸良: そうです。日本では、稀代の経営者を神格化し、「あの人だからできた」と片づけてしまう傾向があります。しかし、優れた経営の背後には必ずロジックがあります。本書では、会計、生産、サプライチェーン、プロジェクト管理、営業、イノベーションなど、経営のあらゆる領域における「間違い」と、それを正すための「公式」を体系的に示しました。
鈴木: まさに「教科書」ですね。最後に、この本を通じて実現したい未来について教えてください。
岸良: 私は「月曜日が楽しみな会社」を日本に増やしたいと考えています。チェンジリーダーが行動を起こせば、組織は必ず変わります。本書がその武器となり、日本企業が再び「和」の力を取り戻す契機となれば、これほど嬉しいことはありません。
【関連リンク】
株式会社Goldratt Japan
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