コールセンター、BPO、そして海外事業を主力に据えるトランスコスモス。多くのエンジニアを抱える同社は今後、エンジニアの価値をどう引き上げようと考えているのか。エンジニア不要論が叫ばれる中、未来のエンジニアはどうあるべきと考えているのか。トランスコスモス 上席常務執行役員で、トランスコスモス・デジタル・テクノロジーの代表取締役社⻑を務める所年雄氏に、同社の魅力に迫る全3回の連載企画。最終回となる今回、トランスコスモスが考えるエンジニアの価値に迫ります。(聞き手:デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘)
――昨今、AIの進化によって「エンジニア不要論」が囁かれています。この点について、所さんはどのようにお考えですか?
所:非常に重要なテーマですね。私は社内で半年ほど前からずっと言い続けているのですが、「コールセンターのオペレーターより、先にエンジニアが絶滅する」と考えています。もちろん、すべてのエンジニアが不要になるわけではありません。ただ、言われた通りにプログラムを書くだけのエンジニアは、間違いなくAIに仕事を奪われます。
――なぜ、それほど強い危機感をお持ちなのでしょうか?
所:要件定義が明確にできていれば、あとはそれをAIに渡せばコードは自動で生成される時代になったからです。実際に私たちの社内で試したところ、AI駆動開発によって開発工数が87%も削減できたという実績があります。これはもはや無視できない変化です。オペレーターには「人と話したい」という顧客ニーズが残りますが、プログラムを書くという作業は、必ずしも人間である必要はありません。
――そのような時代に、トランスコスモスではエンジニアにどのような役割を求めていくのでしょうか?
所:私たちはエンジニアを「オペレーションのノウハウをシステム化できる集団」にしていきたいと考えています。これからのエンジニアにもっとも必要なのは、単にコードを書くスキルではありません。AIに「何を作るべきか」を正確に指示し、できあがったものを評価できる、いわば「システムプロデューサー」のような役割が求められます。

――まさに、顧客との対話能力が重要になるのですね。
所:その通りです。私は昔から「エンジニアにとってもっとも重要な開発言語は日本語だ」と言ってきました。顧客とのコミュニケーションが取れなければ、正しい要件を引き出すことはできず、良いシステムは作れません。AI時代になり、その重要性はますます高まっています。
――そうしたエンジニアを育成・活用するために、どのような取り組みをされていますか?
所:まず、会社として「テクノロジーソリューションカンパニーになる」という大きな目標を掲げました。その上で、エンジニアが最大限に能力を発揮できる環境づくりを進めています。具体的には、技術力が高いエンジニアが管理職にならなくても高い給与を得られる人事制度の導入、セミナー参加や書籍購入など学びたいことへの費用は会社が全額負担、好きなスペックのPCを支給、最新のSaaSやクラウド環境を自由に使えるようにセキュリティを緩和するなど、多岐にわたります。
――エンジニアの働きがいを高めるための改革ですね。開発手法そのものにも変化はありますか?
所:はい、「AIが最初からあること」を前提とした新しい開発プロセスの発明に全社で取り組んでいます。例えば、人間が作成した要件定義書や仕様書をAIにチェックさせ、スコアを付けさせる仕組みを導入しました。AIから「この観点が足りません」といったフィードバックを受け、ドキュメントの質を高めてからでないと、次の開発工程に進めないルールにしています。
――開発の上流工程からAIを徹底的に活用しているのですね。
所:そうです。さらに、これまでの外部からの受託開発を減らし、社内の業務改善に繋がる自社プロダクト開発に注力する方針に切り替えました。トランスコスモスには、コールセンターやBPOなど、改善すべきオペレーションの現場、つまり「金のなる木」が山ほどあります。エンジニアには、その現場に入り込んで課題を見つけ、解決するプロダクトを作ってもらう。これこそが、最高のOJT(オンザジョブトレーニング)になると考えています。

――採用方針にも変化はありましたか?
所:はい。以前はエンジニアの数を4倍に増やす計画もありましたが、今は「今いる人数で生産性を4倍にする」という方針に大きく転換しました。AIを活用すれば、それが可能だと考えています。
――育成面ではどのような工夫をされていますか?
所:新卒向けに3ヵ月の初期研修は行いますが、その後は現場でのOJTが中心です。ただ、ここでもAIが活躍します。自分が書いたソースコードを、先輩にレビューしてもらうのは気後れすることもありますが、AI相手なら何度でもレビューを頼めます。AIから辛辣ながらも的確なフィードバックをもらうことで、エンジニアは自律的にスキルを高速で高めていくことができます。
――新しい開発手法の導入はスムーズに進んだのでしょうか?
所:面白いエピソードがあります。AI駆動開発を学ぶために、若手からベテランまで20人ほどでレトロゲームの「パックマン」を作ってみようという企画を実施しました。すると、圧倒的に良いものを作ったのは、パックマンを知らない新卒2年目の若手たちだったのです。
――経験豊富なベテランではなかったのですね。なぜでしょうか?
所:ベテランたちは、自分の知識を元に仕様書を書き、それをAIに読み込ませようとしました。一方、若手はまずAIと対話しながら「パックマンとは何か」をAI自身に学ばせたのです。そして、「パックマンを完成させるために必要なドキュメントは何?」とAIに質問し、AIに作らせた仕様書を元に開発を進めた結果、一発で完成度の高いものが出来上がりました。自分で考えず、AIに考えさせるという発想に、ベテランたちは衝撃を受けていましたね。
――最後に、トランスコスモスのエンジニア組織が目指す未来についてお聞かせください。
所:トランスコスモスの強みは、開発のネタとなるオペレーションの現場を持っていることです。この強みを活かし、エンジニアがもっとワクワクできる環境を作っていきたい。今は、社内の課題解決が中心ですが、将来的には世界に向けて自分たちのプロダクトを発表できる組織になりたいと考えています。さらに、トランスコスモスのオペレーションサービスそのものを、私たちのテクノロジーの力で「上書き」していく。100年に一度の変革期だからこそ、世界でトップを狙えるチャンスがあると信じています。






















