デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展は、企業の業務効率化や顧客サービスの向上に大きな影響を与えています。その中でも、現場の担当者が自らアプリを開発できる環境を整えることが、DX推進のカギとなります。今回は、小田急電鉄が運転士や整備士の手で開発した内製アプリを通じて、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進した成功事例を詳しく見ていきます。小田急電鉄はこれまで、業務システムの開発を外部ベンダーに依頼していました。しかし、外部の専門家との連携は、現場の実情を十分に反映できない場合が多く、要件定義にかかる時間やコストが課題となっていました。このような背景から、小田急電鉄は現場に必要なシステムを自社で構築できるローコード開発ツールの導入を検討しました。その結果、選ばれたのが「Claris FileMaker」です。このプランフォームは、データの統合が容易で、アジャイル開発を支持し、リリース後も機能追加や変更が容易であることから、鉄道部門の統一ツールとして最適でした。この選定により、業務改善がスムーズに進み、社内のDXを加速させる基盤が築かれました。小田急電鉄は2022年度から内製開発を開始し、FileMakerの導入から2年で10以上のシステムを稼働させました。これらのアプリケーションは、現場からのフィードバックを反映し機能改善を重ねており、特に安全コミュニケーションシステムや、列車運転情報確認ツール(れっけん)、特急料金検索アプリが顕著な成果を上げています。「安全コミュニケーションシステム」は、社員3,000人が利用する大規模なシステムとして開発されました。運転士の経験を持つ交通企画部のDX推進担当者が中心となり、通達や報告書の共有を行うツールを作成しました。このシステムの導入により、従来のシステムのリプレースとして数千万円のシステム更新費用を削減し、保守費用も大幅に減少しました。さらに、使いやすいテンプレートを導入することで、現場の担当者の作業負荷も軽減されています。「れっけん」と呼ばれる列車運転情報確認ツールも革新をもたらしました。このアプリは、iPhoneやiPadを用いて迅速に行路情報を確認できるシステムです。従来はPCでの管理が必要でしたが、れっけんの導入によりどこでも情報確認ができるようになりました。この結果、手間と時間を大幅に削減し、年間約2,700時間の作業効率の向上を実現しました。特急料金検索アプリの導入についても触れましょう。このアプリは、従来の料金計算を迅速に行うだけでなく、英語表記にも対応しています。これにより、外国人客への対応もスムーズになり、顧客満足度の向上にも寄与しています。このように、具体的なアプリケーション開発が現場の効率化に直結しています。小田急電鉄のDX推進プロジェクトは、技術的な成果にとどまらず、組織全体の文化変革にも寄与しています。交通企画部のDX推進プロジェクトマネジャーである遠藤直人氏は、「内製化によって開発者だけでなく、全社のデジタルリテラシーが向上し、社員たちのDXに対する興味も高まった」と述べています。実際、導入されたアプリケーションは、単に業務の効率化にとどまらず、社員の意識を変え、テクノロジーとの距離感を縮める重要な役割を果たしています。このような社内文化の変化は、今後のDX戦略においても大きな資産となることでしょう。小田急電鉄が360度からアクセスできるDX環境を構築したことは、今後のビジネスにおいて非常に重要な示唆を与えています。ローコード開発プラットフォーム「Claris FileMaker」を導入し、現場担当者自身がアプリを内製開発したことで、業務の改善と顧客サービスの向上を同時に実現しました。これからも、技術革新と人的資源のリスキリングを通じて、さらなるDX推進に期待が寄せられます。
執筆:DXマガジン編集部 香田