日本オムニチャネル協会は2023年9月12日、定例のウェビナー「IT勉強会」を開催しました。特定領域のITの動向や製品・サービスを解説する勉強会で、6回目となる今回はCDPやBIといった分析領域の最新動向について解説しました。
施策の精度を高める手段として多くの企業が注力するデータ分析/活用。社内外からさまざまなデータを収集し、それらを分析して新たな気づきや変化を読み取ろうとする企業が増えています。しかし、欲しいデータが集まらない、データをどう分析すべきか分からない、データを読み解く人材がいないなど課題を抱える企業は決して少なくありません。データ活用やデータ分析の必要性が叫ばれて久しいものの、十分な効果を上げる企業はごく一部にとどまるのが現状です。
そこで今回のIT勉強会では、データを分析するときの注意点や考え方、さらにはデータ分析に特化したITツールを取り上げ、解説しました。ゲストとしてPETSの川上陽平氏、イー・エージェンシーの藪本秀之氏、フルカイテンの岸良腕氏の3人を招き、各社の取り組みやITツールの強みや特徴を紹介しました。
利用者や分析対象、目的に応じてツールの機能の使い分けを
IT勉強会では冒頭、モデレーターを務めるブレインパッド 執行役員CMOの近藤嘉恒氏が登壇。CDPやBIの定義や役割を改めて整理、解説しました。
近藤氏はCDPの変遷から解説。「社内に散在する顧客にまつわるデータを集約し、プロファイルやセグメントを作成し、MAなどの隣接ツールに連携する目的で使われるのがCDPである。データを統合したり、パーソナライズ化したりするといった用途に主眼を置いている」(近藤氏)と説明します。ターゲティング施策に用いる「Public DMP」や、顧客接点に応じたコミュニケーション施策を実施するのに用いる「Private DMP」が登場したのを受け、CDPという考え方が広がったと考察します。
一方、BIは「社内に散在するデータを集約し、グラフ化・ダッシュボード化して情報共有することを目的とする」(近藤氏)と説明。データの価値が高まるにつれ、視覚化や洞察を高度化するBIの必要性が高まったと考察します。もともとは帳票類の管理、さらにはデータを集計・加工する用途で使われるOLAPの流れを汲んでBIの考え方が広まったといいます。
これらを活用するときの課題にも言及します。「データ活用を浸透させる際、多くの企業が『部門横断の壁』に直面する。部署や目的に応じて、CDPやBIで使われるべき機能も異なる。誰が何をしたいのかを明確にした上でCDPやBIを使いこなすことが大切だ」(近藤氏)と指摘します。例えば、経営層ならBIのダッシュボード機能、CDPのデータ出力機能、情報システム部門ならBIのデータ収集、加工機能、CDPのデータ収集やデータ統合・加工機能といった具合に使い分けるようにします。
さらに近藤氏は、「CDPやBIで何をしたいのかは企業ごとに異なる。当然、選択すべきITツールも異なる。例えば、CDPの導入目的が『繋ぐ』か『見せる』かにより、それぞれを得意とするITツールは変わる」と指摘。IT勉強会ではCDPやBIのポジショニングマップを示し、どのITツールがどの分野に強いのかを具体的に説明しました。
CDPやBIを使って分析する際のアプローチの考え方にも触れました。近藤氏は何を分析するのかの対象と、何のために分析するのかの目的をきちんと把握すべきと指摘します。具体的には、対象として「顧客分析」「チャネル分析」「商品分析」の3つを指摘。目的として「何が起こったのか?」「なぜそれが起こったか?」「何が起こるのか?」「どうやって実現するか?」の4つの指摘します。「データ分析といっても用途や目的は多様だ。分析する対象や目的を定めた上で、分析する必要性やどんなデータを用意すべきかを見極めるべきだ」(近藤氏)と強調しました。
小売業の分析は顧客を軸にしたデータの統合管理がカギ
近藤氏に続いて登壇したPETSの代表社員 川上陽平氏は、小売業がデータを分析するポイント、さらには同社の分析支援ソリューションについて解説しました。
川上氏は冒頭、「いつ、どこで、何を、いくら購入したといった商取引に関するデータを扱えるのが小売業の特徴だ。さらにサービスにログインすれば『誰が』といったデータさえ扱えるようになる。モノではなくヒトを起点とした顧客視点で分析する環境づくりに目を向けるべきである」と指摘。メーカーなどによるデータ分析とは考え方が異なる点に注意を促します。
その上でオムニチャネルの考え方を前提に分析基盤を構築すべきと訴えます。「複数のチャネルを管理・運用するオムニチャネルが小売業では進みつつある。今後はシームレスな買い物体験を提供できる顧客戦略の重要性が増す。そのときの戦略や施策を支える分析環境を構築することが大切だ。大前提として、顧客を軸にデータを統合管理すべきだ」(川上氏)と指摘します。チャネルや部門ごとにデータを管理せず、チャネルや部門間でデータを共有する体制づくりが必要だと訴求します。「データを統合管理すれば、顧客の属性ごとにセグメンテーションし、ターゲットとなる顧客ごとにアプローチできるようになる。さらには消費者のカスタマージャーニーを描けば、シーンごとに適切な施策を打ち出しやすくなる」(川上氏)と続けます。
分析環境を構築する手段の1つとして、同社の分析支援ソリューション「小売業スターターパッケージ」を取り上げ、機能や特徴について解説しました。これは各種データを収集・加工し、BIを使ってデータを可視化する分析プラットフォーム。POSやECサイトの売上、在庫情報などをGoogleのCloud Storageに集約。同じくGoogleが提供するDWHであるBigQueryを使って分析用DBを構築します。BIにはPowerBIを用意し、担当者ごとに必要なデータをダッシュボードで確認できるようにします。
川上氏はソリューションについて、「小売業が頻繁に利用するダッシュボードをテンプレートとして豊富に揃えているのが強みだ。導入企業はテンプレートを選択することで、必要な情報を容易に確認できる」(川上氏)と指摘。各種マスタの登録状況や直近の売上、在庫状況、店舗別の帳票などが、テンプレートを使って容易に確認できます。さらに、商品やブランド、店舗、エリア、都道府県別のユニーク会員数の推移なども把握できるといいます。講演では川上氏がダッシュボード画面を表示してデモを実施。数字をドリルダウンして分析結果を深堀したり、売上のカテゴリを細分化して何が売れているのかを確認したりする使い方を紹介しました。
川上氏は「小売業スターターパッケージ」を導入する利点にも言及。「集計作業を自動化することでコスト削減や作業時間のスリム化を見込める。さらにCDPを短期構築すれば、さまざまなデータを1on1で活用できるようになる。難しい要件定義は不要で、安価に短期間で分析環境を構築できるのも強みだ」(川上氏)とソリューションを訴求しました。
Googe Analytics 4を活用しマーケティング戦略の最適化を図れ
続いてイー・エージェンシーの取締役CTO 籔本秀之氏が登壇。Googe Analytics 4(GA4)を使った分析環境の効果について講演しました。
籔本氏はGA4とこれまでのGoogle Analyticsの違いについて言及。「従来のGoogle Analyticsはアクセス解析を主な目的としていた。一方、GA4はユーザーの行動を解析することに主眼を置いている。オンラインのコンテンツが多様化するとともに、デバイスやアプリを踏まえた分析ニーズが増えていることを受けての処置だ」(藪本氏)と考察します。ユーザーがどう行動し、何を目的にWebへアクセスしているのかを洞察することが重要になると強調します。
GA4を活用すれば、マーケティング戦略の最適化や費用対効果の評価も可能になると、藪本氏は続けます。「GA4を使ってオウンドメディアと広告を掲載する他社メディア(ペイドメディア)をトラッキングすれば、マーケティング戦略を最適化できるようになる。さらに、ペイドメディアからのユーザー流入を分析すれば、広告の内容や出稿量をどれくらいにすべきかのヒントも得られる」(藪本氏)といいます。
また、ビジネスの意思決定における問題として、ビジネスのゴールとKPIの乖離が指摘されることがありますが、GA4とGoogle Cloudを組み合わせることで、これらのデータを統合し、意思決定をデータドリブンに導くことができると主張。GA4での行動データと自社の顧客データベースやCRMの統合をGoogle Cloud上で行うことができるといいます。
イー・エージェンシーでは、GA4の有料版であるGoogleアナリティクス360と合わせた独自サービスを展開しており、テクニカルサポートやトレーニング、オンラインサロンなどのサポートが充実しています。特に、GA4の利用方法に関するトレーニングサービスでは、初心者から上級者まで対応した50近い動画が用意されています。
セミナーの締めくくりに、籔本氏は分析という手段を目的化するのではなく、目的の手段化するために分析を行うことの重要性を強調。データを活用したマーケティング分析環境の構築を提案しました。
眠った在庫を利益に変える AIを活用した在庫分析とは?
最後に登壇したフルカイテンのマーケティングチームマネージャーの岸良腕氏は、商品分析の考え方と、同社の分析ソリューションについて紹介しました。
商品分析の際の課題としては、分析対象が多い、帳票が整っていない、専門知識や時間の欠如などが挙げられますが、まずやるべきなのは商品軸での課題の特定であると強調しました。課題が正しく特定できていないと、目的を誤り、効果的な施策を実行できない可能性が高くなるからです。
岸良氏は、商品の80%が利益のわずか20%しか生み出していないという課題に触れ、これらの商品の正確な分析が重要であると指摘しました。売れ筋商品だけでなく、売れ行きの度合いを適切に評価し、その度合に応じた対策を講じることが必要であると述べました。
具体的な評価の方法として、先行指標を基にした評価が挙げられます。例として、商品を定価で売り切りたい場合の先行指標として、完売予測日があります。定価で販売するのが3月末であれば、2月1日の時点で3月末までに売り切れるか予見できれば、早めに手を打つことができます。このような指標を元に、早めの対策を取ることが強調されました。
最後に、岸良氏は、フルカイテンの在庫分析機能を紹介しました。過去の販売実績データを基に、売上予測や完売予測日を出力する機能により、効果的な販促策を立てることができます。このソリューションの最大の利点は、新たに商品を開発したり製造したりすることなく、既存の売れていない在庫から利益を生むことができる点です。加えて、分析業務の負荷を軽減し、業務の属人化を解消する助けとなるとのことでした。