日本オムニチャネル協会は2023年11月21日、定例のセミナーを開催しました。今回のテーマは「顧客体験と実務家のブランド作り~ブランド作りのコツと顧客との関係~」。ゲストにダイキン工業の片山義丈氏を迎え、ブランド作りの実務的なアプローチと利益を重視したブランディングの重要性について解説しました。
自社や自社の製品・サービスのイメージと信頼を高めるためのブランディング戦略。多くの企業がさまざまな活動を通じて消費者からの信頼や共感を得ようと取り組んでいます。
しかし、具体的な施策を打ち出せずにいる企業は少なくありません。施策の効果をどう検証すべきか分からないといった声もあります。ブランド戦略を十分理解せずに施策を立案し、実施に踏み切るケースが目立ちます。
そこで今回のセミナーでは、ブランドを確立するための具体的なアプローチを紹介しました。ゲストとして、ダイキン工業 総務部 広告宣伝グループ長 部長の片山義丈氏が登壇。同社の取り組みを参考に、ブランディングの狙いや効果を整理しました。
ブランディングに必要な5つの視点
ダイキン工業は空調機器などを製造するメーカー。セミナーに登壇した片山氏は総務部 広告宣伝グループ長として、同社と商品のブランド構築に携わります。なお、「Best Japan Brands 2022 Ranking」という日本企業のブランドランキングによると、同社は日本企業の中で22位にランクします(1位はトヨタ、2位はホンダ、3位はソニー)。
片山氏はセミナー冒頭、ブランディングに取り組むときに必要な点を5つ指摘します。
1.ブランドづくりの目的を間違えない
2.ブランドとは何かを理解して、正しく定義する
3.ブランドには階層があることを理解する
4.自分たちがどんなブランドをつくりたいかを決める
5.ブランドをつくるための情報発信をする
具体的にどんな点に気を付け、どう取り組めばよいのか。セミナーでこれら5つを1つずつ解説しました。
1.ブランドづくりの目的を間違えない
ブランディングの目的について片山氏は、「ブランドとは自社や自社商品のイメージを伝えるための手段だ。決して商品を売るための手段ではない。例えば広告を展開するとき、商品の機能や良さを訴求するのはブランディングとは言えない。『かっこいい』や『おしゃれ』などといったイメージを訴求することに主眼を置かなければならない」と指摘します。ブランディングによって信頼や共感を得るのが先で、その後、売上を見込めるようになればいいと言います。
2.ブランドとは何かを理解して、正しく定義する
ブランドを定義するのは「必ずしも容易ではない」(片山氏)と言います。同氏は「代表的な定義はいくつかあるものの、曖昧なものが少なくないし、自社に当てはめにくいものもある。どの定義も間違いではないが、一定のブランド力をすでに持つ企業以外当てはまらない定義もある」(片山氏)と指摘。その結果、企業の中には「『贅沢品や嗜好品を扱っているわけではないのでブランドは関係ない』『自社商品はブランドなんかで売れない』『お金がかかりそう』などといったブランドに対する誤った考え方が根付いている」(片山氏)と指摘します。
では片山氏はブランドをどう定義するのか。「生活者の頭の中にできた企業・商品に対するイメージがブランドである。つまり、ブランドは妄想であると考える。ブランドを思い出すきっかけになるものに触れたとき、頭の中に自然と浮かんだイメージこそがブランドの正体であると定義する」(片山氏)とまとめました。
片山氏は「梅干し」の写真を例にブランドを説明します。「梅干しの写真を見ると、多くの人が『すっぱい』とイメージするに違いない。このとき、梅干しはブランドを作るために能動的に活動したわけではない。つまり、梅干しがあるだけでブランドになるのだ。何もしなくてもブランドはできるわけだ。ブランドは広告宣伝だけで作られるものでは決してない」(片山氏)と強調します。企業がブランディングに取り組むなら、「生活者の頭の中にどんな妄想を植え付けるかを考えるべきだ。その妄想から企業や商品・サービスなどを想起させるのが望ましい」(片山氏)といいます。
3.ブランドには階層があることを理解する
ブランドの階層について片山氏は、ブランド(妄想)価値の高い順に「約束」「何となく好き」「嫌いではない」「知っている」「知らない」の5つがあると指摘します。さらに「知らない」は厳密にはブランドではなく、それ以外の4つ、「知っている」以上がブランドに当てはまると言います。「生活者の階層に応じた施策が求められる。『知っている』に当てはまる人に対し、『嫌いではない』以上の階層に入ってもらうための施策を検討するといった具合だ。誰にどんなブランディングを展開するのかは、そもそも生活者がどの階層に多いのか、どの階層の生活者に対して訴求するのかを正しく理解する必要がある」(片山氏)と指摘します。
なお、BtoB向けのブランドの場合の階層は、ブランド(妄想)価値の高い順に、「信頼唯一」「信頼できるかも」「信頼するほどではない」「知っている」「知らない」の5つに分類されるといいます。
4.自分たちがどんなブランドをつくりたいかを決める
ブランディングに取り組む上でもっとも重要になるポイントが「4」です。片山氏は、「土台となる『存在価値』『約束』『人格・個性』の3つを決めることが大切である」と、ブランドづくりの土台の重要性を指摘します。それぞれの意味は次の通りです。
存在価値…あなたの「企業・商品らしさ」が凝縮されていて、あなたの企業や商品が「なぜか、こだわっている」こと
約束…生活者から「あなたの企業・商品が世の中からなくなっても、他の企業・商品があるので、私はまったく困らないのだが、どんな損があるの?」「あなたたちが存在することで私に対してどんな良いことができると、(自分勝手に)思っているの?」と仮に質問されたときの答え。
人格・個性…生活者から「あなたの企業・商品を人間に例えたらどんな人ですか?」と問われたときの答え。つまりは、ブランドが持つ「人格・個性」のこと。
これらを決めるとき、「『存在価値はこれ』『約束はこれ』といった具合にそれぞれを決める必要はない。重要なのは、企業・商品はどうこだわっているのか、なくなったらどんな損があるのか、どんな人格・個性なのかを明確にすることだ。企業の中にはこれらを『アイデンティティ』や『パーパス』『パーソナリティ』などと呼び、それぞれを定義するケースが見られる。しかし、大切なのは3つの中身だ。1つずつ考える必要はない」(片山氏)と指摘します。
5.ブランドをつくるための情報発信をする
最後の情報発信について、「生活者とのタッチポイントには、報道や口コミ、広告、商品、サービス、従業員などがある。自社の業種や業態などに応じて、どのタッチポイントの発信力が強いのかを見極めることが大切だ」(片山氏)と指摘します。例えば消費者向けの日用品などを展開する場合、『店舗』の発信力が強くなるといいます。
その上で、「企業・商品に持ってほしいイメージを情報発信すべきだ。つまり『存在価値』『約束(存在意義)』『人格・個性』を、あらゆるタッチポイントを通じて発信する」(片山氏)と、「4」で明確化した3つの土台を発信する必要性を指摘します。
ちなみにダイキン工業の場合、「存在価値」「約束」「人格・個性」は次のように明示しています。
存在価値…空気に可能性があると信じる企業
約束…空気であらゆる課題を解決する
人格・個性…果敢なリーダー
なお同社では、経営理念と経営計画をもとにブランドの全体構造を設計していると言います。「グループの経営理念と戦略経営計画に沿い、どんな会社か、どんな姿勢を示すのか、どんな価値を提供するのかを整理した。その上で、ブランドのもととなるキーワード(空気で答えを出す会社)を設定し、キーワードを生活者に描いてもらうための戦略やKPIを考え、具体的な施策を実施した」(片山氏)といいます。現在も「空気で答えを出す会社」というキーワードを全面に打ち出したブランディングに取り組んでいるといいます。
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日本オムニチャネル協会