独自のアイデアや創意工夫が消費者の共感を呼ぶ時代、競合店の取り組みを真似る二番煎じは通用しません。モノマネをしない経営を目指すべきです。ではそのためには店舗をどう改革すべきか。ここでは、「セブン‐イレブン・ジャパン」を創設したセブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏の著書「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」の内容をもとに、モノマネ経営のリスクとモノマネをしない経営のポイントを解説します。
他店を真似るよりモノマネしない店舗運営の方が楽?
「競合店が新たなキャンペーンを開始した」「他店ではこんなITツールが使われている」。店舗展開する小売事業者の中には、このように周囲の動向が気になって仕方ない経営者もいるのではないでしょうか。しかし、セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏はこうした姿勢に異議を唱えます。鈴木氏は経営者時代、社員に“モノマネ”してはならないと繰り返し言い続けました。流通業界では一般的に、他店を偵察することがありますが、鈴木氏は「他店を見学してはならない」と禁じることもありました。「モノマネするな」ではなく「他店を見るな」と厳しい言い方をしてまで社員に徹底させようとしたのです。
モノマネをする経営とモノマネをしない経営、どちらが楽か。一般的にはモノマネをする経営の方が楽と思われがちです。しかし、モノマネをすればするほど、進む道は制約されます。差異化できないまま、いずれは単純な価格競争に巻き込まれます。自ら勝手に制約をつくって苦しむことになるのです。とはいえ、モノマネをしない経営では常に新しい挑戦を求められます。一見大変そうに思えますが、制約なしに自由に考えられると受け取ることもできます。モノマネしない経営はモノマネをする経営より、むしろ楽という発想に切り替えることが大切です。
モノマネの一番の問題は、本物以上には絶対なれないことです。もちろんトップに上り詰めることもできません。モノ不足の時代であれば、柳の下のドジョウが2匹も3匹もいるため、「自分もあそこでドジョウを取ろう」という行為は成り立つでしょう。しかし現在は、柳の下にドジョウは1匹いるかどうかという時代。二番手商法は通用しません。他店を真似た店舗づくりや商品づくり、接客、サービスを徹底したとしても、お客様はワクワクしないでしょう。独自のアイデアや創意工夫にこそ共感し、初めて価値を感じるのです。
鈴木氏の著書「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」では、Francfranc創業者である高島郁夫氏が社長時代、商品を改廃する際、商品開発担当者に次のように指示していたことを引き合いに出しています。
現在のAという商品をA'にする程度の開発は認めない。Aを必ず、Bなり、Cなりにしていくような革新を続けていかなければ、お客様に飽きられてしまう
ヒットしているAという商品を見ると、ついAの延長線上にあるようなA’を考えてしまいがちです。しかし売り手から見るとAとA’は違って見えても、お客様から見れば同じAなのです。AではなくBやCを生み出さなければならないのです。
なお、Francfrancでは「定番」という考え方がないそうです。商品を年間で3割入れ替えて新陳代謝を図っていると言います。年間で7割の商品が入れ替わるセブン-イレブンとは業種が異なるため、単純に比較できませんが、常に新しい商品を提供することもFrancfrancの人気の秘訣と言えるでしょう。
従業員の仕事への意欲がモノマネしない経営には不可欠
では、モノマネをしない経営には何が必要か。そこには社員一人ひとりが自分の頭で考え、独自のアイデアと創意工夫を生み出すことが求められます。
「単なる作業」と「本当の仕事」の違いを社員が正しく理解することも必要です。「単なる仕事」とは、答えがあらかじめ分かって取り組む仕事です。これに対し「本当の仕事」とは、自分で責任を持って挑戦し、自分の頭で考えて答えを出し、問題解決を試みる仕事を指します。モノマネの場合、答えは当然分かっています。つまり、「単なる仕事」をこなしているに過ぎません。モノマネしない経営では、独自のアイデアや創意工夫を生み出す、つまり自分の頭で考える「本当の仕事」を社員がこなせるようにならなければなりません。
このとき大切なのが「EX」、従業員の体験価値です。従業員が仕事に前向きに打ち込もうとする心理や感情、意欲を高められるかどうか。経営者はスタッフ一人ひとりが自分で考え、やりがいを見い出せる業務を与えるようにすべきです。
セブン-イレブンの場合、アルバイトスタッフが発注業務を担うことが珍しくありません。高校生のアルバイトでも、主力の弁当やおにぎりの発注を担当するケースがあります。経営破綻したアメリカのセブン-イレブンでは、パートタイムのワーカーはマニュアル通り働くことが求められていました。発注のような重要な仕事は任せてもらえません。
鈴木氏は発注こそ店の特権だと繰り返し主張し、単品管理を実行する体制へと180度切り替えたのです。
結果はどうなったか。発注を任された従業員は、目を見張るような働きを見せ始めます。自分が発注した商品がどれだけ売れたのか、出勤日ではない休みの日に店へ電話し、売れ行きを聞いてくるようになったのです。もちろん、店に電話したからといって給料は増えません。しかし自分の責任で商品を発注すれば、売れ行きに関心が湧き、仕事に対してやりがいも生まれるのです。
これは、パートタイマーにとってこれまでの「単なる仕事」が「本当の仕事」に切り替わったことを意味します。自分の頭で考える機会を提供することで、スタッフの仕事に対する姿勢、打ち込もうとする意欲は劇的に高まるのです。
人は本来、責任ある仕事を任せられると、自然と仕事にやりがいを感じるようになります。自主的に仕事をするようになる本質を持っているのです。従業員をマネジメントする立場にある経営者や管理職は、役割を与えた従業員が責任を持って答えを出しながら仕事をしているか、誰かが出した答えのモノマネで単なる作業をこなしていないかに目を配るべきです。一人ひとりの意欲が、モノマネをしない経営へ突き進む上で不可欠なのです。
DXマガジン総編集長 鈴木康弘の提言「自分たちの頭で考えなければ意味がない」
鈴木敏文氏は従業員に「他店を見るな」と言っていますが、さらに「他店との競争に勝ったからと言って必ずしもお客様が買ってくださるわけではない」とも続けます。私はこの言葉には2つの意味があると理解しています。1つは、お客様の立場で考えることが大切だということ。もう1つは、自らの頭を使って仕事をするということです。前者はまさにCXの重要性を示したものであり、後者は現場に価値ある仕事をさせるマネジメントが重要であることを示しています。 DXもまったく同様です。企業の中には、他社や欧米の事例をそのまま模倣しようとするケースが少なくありません。先進的な海外事例を得意気に提案するコンサルティング会社やシステム会社も散見されます。これらは「真似」に過ぎません。DXに取り組むなら、自分たちの頭を使って自社ならではのアイデアを創出することが重要です。「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」では、こうした姿勢を十分に学ぶことができます。
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information | |
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書名 |
鈴木敏文のCX(顧客体験)入門 |
著者 | 鈴木敏文 取材・構成:勝見明 |
出版社 | プレジデント社 |
発売日 | 2022年5月31日 |
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