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顧客起点を発想するなら「お客様のため」から「お客様の立場」への転換こそ重要【鈴木敏文のCX(顧客体験)入門 Vol.4】

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顧客への体験価値提供がカギを握るCX経営では、顧客の視点を徹底して模索することが大切です。このとき注意すべきは、「お客様のため」という考えではなく「お客様の立場で」という発想の切り替えです。両者は何が違うのか。「お客様の立場」とはどんな視点を指すのか。ここでは、「セブン‐イレブン・ジャパン」を創設したセブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏の著書「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」の内容をもとに、「お客様の立場」が指すCX経営の本質を読み解きます。

「お客様のため」ではなく「お客様の立場」で

 特定企業の商品を継続的に購入、もしくはサービスを継続的に利用する顧客を「ロイヤル顧客」と呼びます。企業はロイヤル顧客を継続して獲得するため、企業として変わらない視点を持ちつつ、一方で常に新しいネタを模索する必要があります。このような発想が、CXを前提とした経営には求められます。  ここで言う「変わらない視点」とは何を指すのか。セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏は、常に「お客様の立場で」考えることが変わらない視点と位置付けます。新しいネタも、潜在的なニーズは常に顧客の中、心理の中に潜んでいると言います。鈴木氏が打ち出すCX経営では、「『お客様のため』ではなく、『お客様の立場で」考える」が鉄則となるのです。  「お客様のため」と「お客様の立場」はどう違うのでしょうか。一見同じような考え方ですが、まったく異なる答えが出てくることがあります。  鈴木氏は20代後半のころ、出版取次大手のトーハン(当時は東京出版販売)で「新刊ニュース」という隔週刊のPR誌の編集を担当していました。誌面は新刊の目録が中心で、実質無料で配布されているものでした。鈴木氏は毎日出版される何十冊もの本に目を通し、内容を簡単にまとめる作業に従事していたそうです。  「どうせ仕事をするなら発行部数を増やしたい」。そう考えた鈴木氏は目録数を減らし、軽めの読み物を増やすことを考えます。さらに判型を変え、無料だったのを1冊20円で販売する改革案を考え、社長の許可をもらって実行することにしたのです。  その結果、発行部数は5000部から13万部に伸ばすことに成功しました。  これまでの「新刊ニュース」は、新刊の情報量は多く、モノとしての価値(物理的・物質的価値)はあったと考えられます。一方のリニューアル版は、読者が愛読する作家や人気女優を登場させるなどし、読者は読みながら楽しい時間を過ごせるようになったのです。その結果、これまでにはないコトとしての価値(心理的・感情的な価値)を提供できるようになったと考えられます。  鈴木氏は著書「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」の中で、リニューアル版の編集方針を次のように考え、改革案を出したと回想します。
本をよく買う人は、何も本だけ読んでいるわけではない。本を読む人であればあるほどホッとした息抜きがほしいのではないか
via プレジデント社「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」
 もっとも出版のプロを自任する当時の上司は、そう簡単に売れるわけがないと反対したそうです。  この話は、「お客様のため」と「お客様の立場」の違いをよく表しています。上司は目録を多く載せることが「お客様のため」になると考えたのです。しかしこの考えは、本をできるだけたくさん売りたいという自身の立場がまずあります。その上でお客様のことを考えているのです。つまり、売り手の立場で考えていることになります。  そこには「読書家は本をたくさん買う人のことである」「だから読書家は新刊の目録を求めている」という思い込み、決めつけがあるのです。  「お客様のため」は「売り手の立場」を考えた上でのことです。無意識に「売り手の立場」を考えてしまうケースは少なくありません。「お客の立場」を考えるなら、売り手の立場や過去の経験を否定しなければなりません。

旭山動物園が提供する顧客体験価値とは

 「お客様の立場」を考える上で、もう1つ事例を紹介します。それが旭山動物園です。旭山動物園といえば一時期は入園者数が落ち込み、閉鎖の危機に瀕していました。しかし、2000年代に入ると改革案が奏功し、入園者数が急増するに至ったのです。  これまでの旭山動物園では、動物を檻に入れ、姿や形を見せる展示を実施していました。しかし、来店者が求めるのは、動物が自分の意思で動く瞬間ではないか。当時の園長やスタッフは、こう考え、動物本来の活き活きした動きを引き出し、見せる展示へと切り替えたのです。  これまでの展示が、「モノとして動物がいるだけ」なのに対し、以降の展示は、来園者が動物の命の躍動に感動し、共感するコト(体験)に心理的・感情的価値を見出すようになったと言えます。  さらに、動物が飽きないよう、常に「新しいネタ」や即効性のある要素を取り込むことにもチャレンジします。その努力が今なお飽きない動物園としての人気を支えていると言えるでしょう。  旭山動物園が展示方法を見直した背景には、来園者の視点、つまり「お客様の立場」で見直そうとした経緯があります。そして、ある事実に気づいたのです。それは、来園者側から動物を見ると、動物はみんなお尻を向けていたのです。動物は飼育係や獣医師ばかり気にかけ、檻の正面ではなく裏側ばかり向いていたのです。これはまさに「動物園の立場」ありきで展示していたに他なりません。そうではなく「お客様の立場」で考えた結果、現在の展示方法を思いついたのです。  「動物のため」と思っていたのは「動物園の立場」で考えていたに過ぎません。「動物の立場」と置き換えることで、これまでとまったく違う意味を持つことになるのです。  冒頭のロイヤル顧客を獲得、維持するには、「顧客のために」どうするかを考えるのではなく、「顧客の立場」になって考えるようにします。企業というモノやサービスを提供する側の視点を取り除き、顧客の立場のみでどんな体験価値が喜ばれるのか。この考えを突き詰めることがCX経営では極めて重要です。

DXマガジン総編集長 鈴木康弘の提言「お客様の立場を実践せよ」

 鈴木敏文氏は、「お客様の立場」で考えることを自ら実践しています。セブン&アイ・ホールディングスで会長だったころは毎日、役員全員で会議室に集まり、試食をしていたのは有名な話です。これは、常にお客様の立場であろうとする姿勢の表れです。  しかし、それだけには留まりません。週末も自ら近所のセブン-イレブンに足を運び、自ら弁当を買って家で食べていました。あるとき、「たまには、外食しないのですか? 毎日で飽きませんか?」と聞いてみました。返ってきた答えは「毎日食べるのは当たり前のことだろ」と。自分の生活の中に取り込み、毎日食べ続けるからこそ、お客様の支持を得られ続けるのだと深く納得しました。  CX向上は顧客体験をいかに高め、顧客の満足を高めることです。当然、顧客の視点で考えることが必須となります。今回の鈴木敏文氏の言う「お客様のため」ではなく「お客様の立場」という考え方は、大いに参考になると思います。
via DXマガジン総編集長 鈴木康弘
 (11953)

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https://www.amazon.co.jp/dp/4833424495/
information
書名
鈴木敏文のCX(顧客体験)入門
著者 鈴木敏文 取材・構成:勝見明
出版社 プレジデント社
発売日 2022年5月31日
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