日本オムニチャネル協会公式メディア「DXマガジン」は2026年2月4日、定例セミナーを開催しました。テーマは「機能を作るDXからAIを活かすDXへ~現場のこだわりを捨てて手に入れる『最強データ収集機』としてのEC~」。急速に進化するAI時代において、企業が競争優位性を維持・強化するためのECシステム導入とデータ活用のあり方を解説しました。
Web黎明期から現在に至るまで、EC市場のトレンドはおよそ6~7年周期で大きく変化してきました。しかしAIの登場により、そのサイクルは劇的に短縮しています。時間をかけてシステムを作り込む従来型のアプローチは、リリース時点で陳腐化しているというリスクを抱えるようになりました。一方、多くの企業ではDXが業務効率化の域を出ず、本来目指すべきビジネス変革にまで至っていないのが現状です。
本セミナーには、SaaS型ECプラットフォームを展開する株式会社メルカート代表取締役社長渡邉章公氏が登壇。 渡邉氏は、国内シェアNo.1のecbeingにおいて15年以上EC支援に携わってきた実績を持ちます。「機能を作る」発想から「AIを活かす」発想への転換、そしてECサイトを単なる売り場ではなくAI活用のためのデータ収集基盤として再定義する重要性について解説しました。
ECの時代変遷から見る、ECにおけるDXの本質は?
セミナー冒頭、渡邉氏は自身のキャリアとともに歩んできた、約30年にわたるWeb・EC市場の変遷を振り返りました。
1994年頃の「市場の誕生」から始まり、ブログや検索エンジンの普及による「双方向化」、生活の中心がPCからモバイルへ移行した「スマホ化」、SNSを通じた「直接交流」の時代を経て、現在は「AI共創」という第5フェーズに突入しています。
これまで市場のパラダイムシフトは約6~7年周期で訪れてきました。しかしAIの台頭により、その周期はさらに短縮。変化のスピードは劇的に加速しています。
こうした環境変化の中で、DXの定義も改めて問われています。単なる業務のデジタル化ではなく、デジタルを活用して組織そのものを変革し、市場における競争優位性を確立することが本来の目的です。
そしてECは、受発注の自動化による生産性向上にとどまらず、D2Cやサブスクリプションといった新たなビジネスモデルの創出、さらにはデータドリブン経営への転換まで担いうる存在です。しかし渡邉氏は、多くの企業が選択してきたスクラッチ開発や過度なカスタマイズによる作るDXが、これからの時代にはリスクになり得ると警鐘を鳴らします。その背景にあるのが、二つのスピードのギャップです。
一つは市場と技術の進化スピードです。AI技術や消費者トレンドは月単位、場合によっては週単位で更新されます。法令改正や新たな決済手段の登場、外部ツール連携ニーズの変化も突発的に起こります。
もう一つは、作り込んだシステムの改修スピードです。独自改修を重ねたシステムでは、部分修正にも全体影響の調査が必要となり、見積もりから要件定義、開発、テストまで数カ月から半年を要することも珍しくありません。
「要件定義をして1年かけてシステムを作ったとしても、完成時にはトレンドが変わっている」これがAI時代の現実です。
現場最適を追求した作り込みは合理的に見えますが、変化への即応力を奪い、将来のDX推進を阻む要因にもなります。
では、変化が加速する時代において、企業はどこに判断軸を置くべきなのでしょうか。渡邉氏は「機能を作る」から「AIを活かす」への転換を提起しました。

「機能を作る」から「AIを活かす」への転換
機能を積み上げるのではなく、AIを活用して競争力を高める。その発想転換こそが鍵だと渡邉氏は説きます。
AIの進化は、DXのあり方そのものを大きく変えています。特に顕著な変化として、三つの潮流が示されました。
第一に、開発と検証サイクルの劇的な短縮です。生成AIの活用により、従来数カ月を要していた調査や施策準備が、数日で完了するケースも増えています。PDCAサイクルは月単位から日単位へ、さらにAIの自動実行によって秒単位へと加速しています。
次に挙げられたのが、競争優位性の賞味期限の短縮です。競合企業もAIを積極的に活用するため、優位性が模倣されるスピードも速まっています。一度の変革で優位を維持し続けることは難しく、継続的に変革を重ねる姿勢が求められています。
さらに重要なのが、分析中心から予測と先回りへの進化です。従来のデータ活用は過去の分析が中心でした。しかしAIを活用することで、次に何が売れるのか、誰が離脱しそうなのかといった未来予測が可能になります。顧客が気づく前に最適な提案を行う先回り型の接客が、強力な差別化要因となります。
渡邉氏は、人間の思考スピードでは追いつけない領域が増えていると指摘します。データを集め、AIに分析と実行を委ねることで、人間では不可能なスピードで施策を回すことが可能になります。それこそが、AIを活かすことで得られる新たな競争力です。
AIを最大限活用するために不可欠なのが、ビジネスデータの統合と継続的な変革です。
これまでDXは三段階で整理されることが一般的でした。まず紙やアナログ情報を電子化する段階、次に業務プロセスをデジタル化する段階、そして組織そのものを変革する段階です。
これに対し渡邉氏は、さらに二つの視点を補強する必要があると述べました。
重要な要素の一つが、ビジネスデータの統合です。部門ごとにデータが分断された状態では、AIは十分に学習できません。各部署に散在するデータを一元管理し、共通基盤を整備することが前提となります。
もう一つの鍵となるのが、継続的な変革です。市場と技術は絶えず変化しています。一度仕組みを構築して終わりにするのではなく、常に最新の基盤を活用し続ける組織体質へ転換することこそが、DXの本質的なゴールです。
データ統合が進めば、AIによるDXの加速が可能になります。顧客の行動データと購買データを掛け合わせることで、何を迷い、なぜ購入したのかというプロセスが可視化されます。そこにAIを適用すれば、超パーソナライズ接客や高精度な需要予測の実現へとつながります。

「最強のデータ収集機」としてのメルカート
セミナーでは、メルカートの特長についても紹介されました。メルカートは、ecbeingグループが25年にわたり培ってきたノウハウを継承しながら、SaaS型として常に最新機能へとアップデートされ続けるECプラットフォームです。
最大の特長は、AI時代を前提としたデータ収集と活用の仕組みにあります。通常は外部連携となりやすいCRMやMA、BI機能を標準搭載し、顧客分析から施策実行までを一気通貫で行えます。
渡邉氏は、AI活用の成否を分けるのは質の高いデータの統合だと強調します。メルカートは売り場にとどまらず、構造化データと非構造化データを一元管理する基盤として機能します。購買履歴や行動ログなどの定量データに加え、レビューや問い合わせ、チャットログといった顧客の声も蓄積されます。
こうした定性情報はAIの学習精度を高め、接客高度化や商品開発への反映を可能にします。
モデレータを務めた鈴木康弘氏も、「AIに活用させるデータをどれだけ蓄積できるかが重要だ」と述べ、メルカートのデータ基盤はこれからのAI時代に不可欠な要素であると語りました。
最後に渡邉氏は、メルカートのミッションとして「買い物をもっと楽しく____ 」という言葉を紹介しました。あえて空白にするのは、事業者やブランドと共に新しい価値を創っていきたいという思いが込められています。
機能を作り込むことに固執する「守りのDX」から脱却し、データを統合してAIを味方につける「攻めのDX」へ。システムは「所有」から「利用」へと意識を変え、人間はより本質的な顧客体験の創造に向かうべきだという強いメッセージでセミナーは幕を閉じました。
【関連リンク】
株式会社メルカート
https://mercart.jp






















