日本の製造業が直面するDXの壁。それを打ち破ったのは、システムではなく「人の知恵」でした。DXイノベーション大賞優秀賞を受賞した『EBARA-D3(デジタルトリプレット)』の核心について、プロジェクトを牽引する助松裕一氏にお話を伺いました。
「システムを導入した瞬間に、現場の人は排除される」
多くの企業が数億円をかけて高額なシステムを導入しますが、その瞬間に「現場の人」を置き去りにしているケースが少なくありません。欧米型のトップダウン手法をそのまま日本の現場に持ち込んでも、拒絶反応が起きるだけです。
荏原製作所が問題視したのは、「システムを導入すること」が目的化してしまっている現状でした。日本の製造業はどこまでいっても「人」で成り立っている——そうした認識のもと、当社はシステムを押し付けるのではなく、「現場のあなたたちが主役であり、あなたたちがいないとDXは完成しない」という意識を現場に根づかせることを出発点としました。そこからテクノロジーを当てはめていく、それが荏原製作所のDXアプローチです。

グループリーダー DXアーキテクト 人間中心設計専門家 助松 裕一氏
デジタルトリプレット:日本人の「身体知」をデータ化する
その思想が形になったのが、今回受賞した『EBARA-D3(デジタルトリプレット)』です。従来の「デジタルツイン」が物理的なモノの再現にとどまるのに対し、デジタルトリプレットはそこに「人の知恵(暗黙知)」という3つ目の要素を加えます。
日本人は「手でモノを考える」民族とも言われます。長年の経験で培われた「身体知」や、誰も見ていなくても完璧に仕上げようとする職人気質——こうした繊細な感性こそがメイド・イン・ジャパンの強みです。荏原製作所は、この数値化しにくい「職人のこだわり」をシステムに組み込むことを目指しました。日本特有の「おもてなし」の精神や現場の誠実さをデジタルへと昇華させる。それこそが、欧米のコピーではない「日本独自のDX」の解だと当社は確信しています。
記者: なるほど。数値化しにくい「職人のこだわり」をシステムに組み込もうとされたのですね。
現場が「自ら使いこなす」ためのデザイン戦略
記者: とはいえ、現場の方々に新しいシステムを受け入れてもらうのは簡単ではなかったはずです。具体的にどうやって「定着」させたのですか?
新しいシステムを現場に受け入れてもらうことは、容易ではありません。荏原製作所が採用したのが、「人間中心設計(HCD)」のプロセスです。UI(操作画面)やロゴマーク一つとっても、プロのデザイナーを介して現場の声を徹底的に反映させました。
例えば、完璧なマニュアルを最初から作るのではなく、現場の作業を動画で撮影し「ビジュアルマニュアル」として共有するところから始めました。「これは分かりやすい!」という現場の声をもとにフィードバックを得て改善を重ねる。こうした「小さな成功体験」の積み重ねが、現場の人々に「これは自分たちのためのツールだ」という当事者意識を生み出しました。
AIとの共生、そして日本の製造業を救うための「証明」
荏原製作所のDX推進チームでは現在、生成AI(ChatGPTやGeminiなど)を驚異的なスピードで業務に活用しています。AIを単なるツールではなく共に働く「ナレッジナビゲーター」として位置づけることで、少数精鋭のチームながら圧倒的な生産性を実現しています。
今後の展望として、荏原製作所はこの成功モデルを、藤沢工場などの老舗拠点、さらには日本の製造業全体へ広げることを目指しています。このままでは日本のモノづくりは危うい——だからこそ、老舗企業である荏原製作所が「人間中心のDX」で変われることを証明し、日本全体の熱量を高めていく。そこに当社の使命があります。
記者: 技術の裏側にある「熱と誠」を感じるお話でした。ありがとうございました!
【関連リンク】
株式会社荏原製作所
https://www.ebara.com/jp-ja/






















