インターネット黎明期に起業し、専門家が情報を発信するメディア「All About」を日本最大級へと成長させてきた株式会社オールアバウト代表取締役社長兼グループCEO・江幡哲也氏。その急成長の裏には、上場直前の方針転換やリーマンショックによる業績急落など、「天国と地獄」ともいえる数々の転機がありました。本記事では、大学時代からの友人でもあるデジタルシフトウェーブ代表・鈴木康弘氏が聞き手となり、意思決定の裏側とブレない経営の軸、そして新たに挑む「ライフアセットマネジメント」の真意に迫ります。
天国と地獄を経験した起業
鈴木:オールアバウトの江幡さんにお話を伺います。実は江幡さんとは大学時代からの友人でもあるのですが、改めてこれまでの歩みを教えてください。
江幡:私は大学時代、電気工学やコンピューター制御を学ぶ中でパソコンに出会い、AIの原型のような研究にも取り組んでいました。当時はメーカーに就職する同級生が多い中、私はコンピューターや通信技術を使って「世の中の仕組みをつくる側」に回りたいと考え、リクルートに入社しました。FAXとデータベースを連携させた情報配信など、現在のインターネットの原型ともいえる事業の立ち上げに携わり、日々成長を実感していました。
そんな中、アメリカでIT業界の勃興やベンチャーエコノミーの立ち上がりを目の当たりにしました。2000年代初頭はブロードバンドが普及し始め、ソフトバンクの孫正義氏が駅前でBBルーターを無料配布していた時期でした。通信の世界に身を置いていた私にとって、それは「技術が劇的に変わり、社会の構造そのものが変わる瞬間」だと確信した出来事でした。このようなタイミングを逃せば、次のチャンスは10年後になる。そう考え、2000年にオールアバウトの起業を決意しました。
鈴木:オールアバウトはどのような事業を展開しているのでしょうか。
江幡:起業にあたり私が着目したのは、インターネット社会における「情報流」、つまり情報の流れそのものが大きく変わるという点でした。独自に構想を練る中で、たまたまアメリカで似たモデルを先行展開していたのが専門家情報サイト「about.com」です。彼らは草創期のGoogleなどの検索エンジンの台頭を背景に、検索ニーズと専門家によって大量に生成される信頼できる情報を結びつけるモデルを構築し、現在でいうSEOによる集客構造にいち早く取り組んでいました。
この志を同じくするモデルを日本で展開すべく、彼らが上陸する前に直接渡米して交渉を行い、結果的には共同で事業展開をすることを選択しました。こうして誕生した「All About」は、約900名の専門家(ガイド)ネットワークを基盤に、同時に上陸したGoogle Japanとの提携により日本最大級の専門家メディアへと成長しました。単に情報を届けるのではなく、信頼できる専門家が介在することでユーザーの意思決定を支援する。その価値が支持され、約5年で月間2,000万ユニークユーザー規模へと急成長しました。
鈴木:インターネット黎明期から業界を牽引してきた、まさに成功ストーリーですね。
江幡:そう見えるかもしれませんが、実際には数多くの失敗や綱渡りの連続でした。大きな転機の一つが、2005年の上場です。
上場のわずか2カ月前、当時の親会社との関係から、上場市場をマザーズからジャスダックへ急遽変更せざるを得なくなりました。ジャスダックは提出書類の負担も大きく、準備は非常に困難を極めました。さらに、小泉政権下の郵政解散選挙直後という市場の過熱期とも重なり、株価が大きく変動する激動のタイミングでもありました。注目を集める一方で、極めて不安定な状況でもあったのです。
鈴木:上場直前にそのようなドラマがあったのですね。その後はいかがでしたか。
江幡:次の大きな試練は、2008年のリーマンショックでした。当時は広告収益に依存したメディアモデルだったため、売上は前年比で大幅に減少しました。創業以降初めて、会社全体の構造改革に踏み切らざるを得ませんでした。
この経験を機に、私たちはメディアの枠を超え、「商流(モノの流れ)」と「製造流(モノづくり)」にも踏み込む決断をしました。その象徴が、2011年にグループ化した「サンプル百貨店」です。
当時、送料がネックとされていたモデルを見直し、「送料を負担してでも安く商品を試したい」という消費者心理と、「商品を体験してもらいデータを収集したい」という企業ニーズをつなぐ「トライアルマーケティング」へと再定義しました。
これにより、消費者は納得して購入でき、企業は消費者のリアルな声を商品開発に活かせるようになりました。現在では、会員数約400万人を擁するまでに成長し、この「トライアルマーケティング&コマース事業」はメディア事業と並ぶ当社の柱となっています。

鈴木:現在はどのような事業展開をしているのでしょうか。
江幡:現在、メディア事業は一次情報を発信する大規模プラットフォームとして成長を続け、月間ユニークユーザー数も拡大しています。一方で、インターネット業界全体において、メディア単体での収益化は年々厳しさを増しているのも事実です。
そこで私たちは、これまで培ってきたメディア運営のノウハウを活かし、デジタルマーケティング業界全体のビジネスプラットフォームを目指して「PrimeAd(プライムアド)」を展開しています。AIを活用し、広告主と全国の多様なメディアを直接マッチングさせることで、コンテンツ制作から施策設計、効果測定までをワンストップで効率化する仕組みです。
自社メディアを販売する「点」のビジネスから、メディア業界全体の収益化を支援する「面」のビジネスへ。これまで培ってきた専門知をデータとAIで強化し、AX(AIトランスフォーメーション)を推進する。それが、現在のオールアバウトの挑戦です。
ブレない軸が、経営を強くする
鈴木:幾多の困難を乗り越えてこられたのですね。そのような局面で、何を大切にされてきたのでしょうか。
江幡:私が最も大切にしているのは、「長く続く本質的なもの」を重んじることです。26年前に掲げた会社のビジョンやミッションといったフィロソフィーは、今もまったく変わっていません。会社が苦しい時ほど方針を安易に変えるのではなく、ブレない「芯」を示し続けることが、結果としてマネジメントへの信頼につながると考えています。
また、テクノロジーがどれほど進化し、AIが当たり前になる時代であっても、最終的にビジネスの成否を分けるのは「人間力」だと信じています。リクルート時代には、情報を得るために社内のあらゆる部署へ電話をかけて回るといった泥臭い経験もしました。その中で培われたのは、「相手が何を求めているのか」を考え、自ら仮説を立てて検証する力です。
どれだけシステムが進化しても、最後に価値を生むのは人間です。便利な時代だからこそ思考を止めるのではなく、自ら考え、俯瞰して物事を見る力が不可欠です。さらに、AI同士が簡単につながる時代だからこそ、助け合いや信頼といった「人と人との本質的な関係性」を築けるかどうかが、これからのリーダーには強く求められると考えています。

次に挑む「ライフアセットマネジメント」
鈴木:今後の展望を教えてください。
江幡:今後の新たな事業の柱として、「ライフアセットマネジメント」という領域に挑戦したいと考えています。ライフアセットとは人生の資産を意味し、「お金」「健康」「キャリア」、そして家族やコミュニティである「ホーム」の4つを指します。
現代においては、国や企業に依存するだけでは個人の豊かさを守ることが難しくなっています。一方で、自立するための教育はこれまで十分に行われてきたとは言えません。だからこそ、この4つの資産を可視化・数値化し、それぞれを高めていくことで、個人が豊かな人生の基盤を築く支援をしていきたいと考えています。
これは単なる事業ではなく、私自身のライフワークとして長期的に取り組み、日本人全体の幸福度向上に貢献していきたいという強い思いがあります。
鈴木:事業としてもライフワークとしても、大変意義深い挑戦ですね。私たちも業界では上の世代になりましたが、これからもビジネスを通じて、より一層世の中に貢献していきたいですね。本日はありがとうございました。
江幡:もちろんです。これからもお互い、新たな挑戦を続けていきましょう。
【関連リンク】
株式会社オールアバウト
https://corp.allabout.co.jp/
総合情報サイト「All About」
https://allabout.co.jp/






















