2026年5月15日、会計検査院がマイナポイント事業に関する検査結果を公表しました。令和元年度から5年度にわたって実施されたこの事業の総支出は1兆3905億円。予算額2兆1422億円に対する執行結果であり、そのスケールだけでも国民的な関心を集めるに十分な数字です。しかしこの報告書が問いかけているのは、金額の大小ではありません。「これだけの国費を投じた事業の効果を、私たちは本当に把握できていたのか」という、より本質的な問いです。
数字が示す「普及」の実態
まず、事業が一定の成果を上げたことは数字が示しています。マイナポイントの申込者数は、マイナンバーカードの取得等に係る施策で7556万人、マイナ保険証の利用申込みに係る施策で6818万人、公金受取口座の登録に係る施策で6174万人に達しました。事業の実施前後において、マイナンバーカードの有効申請件数は6769万件、マイナ保険証の有効登録件数は6170万件、公金受取口座の登録件数は6097万件それぞれ増加しています。
マイナポータルの利用登録者数も、マイナポイントの申込受付が開始された令和2年7月末時点の176万人から、令和7年7月末時点では7958万人まで増加しました。マイナ保険証の利用件数も、施策2の申込受付が開始された令和4年6月末時点の25万件(利用率0.5%)から、令和7年7月末時点で7809万件(同31.4%)まで伸びています。数字だけを見れば、事業は「成功した」と映ります。
しかし、効果は「明らかにされていなかった」
会計検査院の報告が鋭く指摘するのは、この成果の裏側にある「検証の不在」です。
総務省等による行政事業レビューの取組では、マイナポイント事業の目的のうち消費の活性化およびキャッシュレス決済の利用拡大に係る成果目標が未設定で、これらの効果が明らかにされていませんでした。さらに、総務省および事務局は決済事業者ごとのマイナポイントの利用実績を把握していませんでした。その理由として、決済事業者の既存システムの大規模な改修が必要な場合等があり、決済事業者の参画が困難になるとして、マイナポイントの利用実績を他のポイントと区分して管理することを求めなかったためとされています。
つまり1兆円超の国費を投じた事業でありながら、「ポイントが実際にどう使われたか」を政府自身が把握していなかったということです。
会計検査院が独自に試算した結果、46登録サービスに係るマイナポイントの利用額は1兆1623億円(利用率94.2%)、消費の活性化に係る効果額は約1兆2239億円となりました。前払等に係る金額も含めた効果額は約2兆4604億円に上ると試算されています。この数字は「効果があった」ことを示唆していますが、あくまで会計検査院による試算であり、事業を所管した省庁が自ら検証・把握した数字ではないという点が重要です。
広報211億円の「経緯が残っていない」問題
もう一つ見逃せない指摘が、広報に関するものです。総支出1兆3905億円のうち広報に要した経費は211億円。特に大規模に展開されたSII広報(令和2年1月〜4年5月)と総務省第2弾広報(令和4年4月〜5年3月)において、媒体の種類・媒体別投下量等を決定した経緯が分かる資料が保存されておらず、その妥当性を確認できない状況にありました。
211億円の広報費がどのような判断のもとで執行されたのか、後から検証する手段がないという事実は、デジタル行政の透明性という観点から深刻な問題といえます。
「次」に活かされるべき教訓
会計検査院は三つの所見を示しています。広報戦略の決定経緯を記録・保存すること、マイナンバーカード等の利活用促進策を検討すること、そして今後同様の事業を実施する際にはポイントの利用状況を把握し効果を検証することです。
マイナポイント事業は、デジタル社会の基盤整備という大きな目標のもとで実施された、日本のDX推進における最大規模の施策の一つです。その効果を「試算でしか示せない」という現実は、今後の行政DXを進める上での重要な反省点として受け止める必要があります。巨額の国費を投じる事業だからこそ、設計段階から効果測定の仕組みを組み込むこと──この教訓は、次のデジタル施策に必ず活かされなければなりません。
レポート:DXマガジン編集部 權
(出典:会計検査院「マイナポイント事業に関する会計検査の結果について」令和8年5月)






















