MENU

コラム

【次世代決済インフラの潮流】国際決済銀行「プロジェクト・アゴラ」の報告書が示す国際送金の転換。預金・準備金のトークン化と「2層構造」の設計思想

  • URLをコピーしました!

国際送金のあり方が、変わり始めています。BIS(国際決済銀行)とIIF(国際金融協会)が主導した「プロジェクト・アゴラ」は、中央銀行の準備金と商業銀行の預金をトークン化し、共通のブロックチェーン基盤上で動かすという実証実験です。7つの中央銀行と40以上の金融機関が参加したこの試みは、単なる技術検証にとどまりません。デジタル通貨の「実用性」を正面から問いかけるものです。

今の国際送金に何が起きているのか

現在の国際送金は、複数の中間機関を経由する逐次処理が基本です。各機関がそれぞれ独立したシステムで動き、情報は段階的にしか共有されません。報告書はこの構造を明確に問題視しており、「遅く、コストが高く、不透明」と整理しています。さらに、コンプライアンスチェックの重複、営業時間のズレによる遅延、決済リスクなど、課題は多岐にわたります。

ここで注目すべきは、こうした非効率が技術的な限界ではなく、構造的な設計の問題だという点です。プロジェクト・アゴラはその構造そのものを見直そうとしています。

なぜ今、トークン化なのか

プロジェクト・アゴラが目指したのは、「情報の流れ」と「資金の移動」を切り離すことです。従来の仕組みでは、情報と資金が連動して逐次的に処理されます。一方、トークン化されたデジタル通貨を使えば、決済に必要な情報を事前に揃え、全ての条件が整ったときにのみ一括で決済する「アトミック決済」が可能になります。つまり「全部成功か全部失敗か」という確実性が生まれます。

これは単なる高速化ではありません。途中でどこかの機関が処理できなかった場合に発生する「巻き戻し」のリスクを根本から排除するものです。

実用化に向けた3つの論点

報告書が明らかにしたのは、技術的な可能性だけではありません。実用化にあたって避けて通れない三つの論点が浮かび上がっています。

① 管轄の自律性をどう担保するか プロジェクト・アゴラは「2層構造」を採用しています。各中央銀行が独自のジュリスディクショナル・レジャーを持ちつつ、商業銀行の預金を管理する統一レジャーと連携する設計です。これにより、各国の規制や金融政策を損なうことなく、国際間での決済が実現できます。「共通基盤を持ちながら、管轄の独立性を守る」という設計思想は、国際的なインフラを考える上で重要な視点です。

② プライバシーと透明性をどう両立するか 分散台帳を使えば、すべての情報が参加者に見えてしまうのではないかという懸念があります。しかし報告書は「共有台帳は、データの共有を意味しない」と明記しています。暗号技術を活用し、決済に直接関わる当事者にのみ必要な情報を開示する仕組みが設計されています。コンプライアンスチェックの結果もパス・フェイルのフラグとしてのみ共有され、顧客情報は各機関の内部に留まります。

③ 既存の法体系との整合性はどうなるか 報告書は法的分析にも多くの紙面を割いています。結論として、トークン化によって「お金の法的性質は変わらない」とされています。トークン化された中央銀行準備金は通常の準備金と同等であり、商業銀行の預金も同様です。既存の法的枠組みの中で運用できることが確認されており、実装の障壁は技術よりもガバナンスや規則の整備にある、という見方が示されています。

「デジタル通貨」は何を変えるのか

プロジェクト・アゴラが示しているのは、デジタル通貨が「新しいお金」を生み出すのではなく、「既存のお金の動かし方」を変えるという方向性です。中央銀行の信頼性と商業銀行の機能を維持しながら、その上に「プログラム可能な決済インフラ」を載せる。この発想は、デジタル通貨の議論がしばしば陥る「新しい通貨を作るべきか」という問いとは異なります。

今起きているのは、決済インフラのデジタル化そのものです。国際送金にとって「速さ」「確実性」「透明性」「コスト」は長年の課題でした。プロジェクト・アゴラはその四つすべてに対して、技術的なアプローチが有効であることを示しました。実用化にはガバナンスや法整備という次のステップが必要ですが、「できるかどうか」という問いへの答えは、すでに出つつあります。

レポート/DXマガジン編集部 權
(出典:BIS Innovation Hub「Project Agorá」報告書の公式情報)

シェアはこちらから
  • URLをコピーしました!
  • 週刊SUZUKI
  • 日本オムニチャネル協会
  • 公式LINEメンバー

お問い合わせ

取材のご依頼やサイトに関するお問い合わせはこちらから。

問い合わせる