自動車タイヤの設計現場で、DUNLOP(住友ゴム工業株式会社)と富士通株式会社が共同開発したAIサロゲートモデルが、構造解析の所要時間を従来比で約90%短縮しました。タイヤの路面接地時の変形挙動を対象に、従来約45分かかっていた解析を約5分に短縮し、約60万要素規模の解析と平均87.7%の精度での接地形状予測を実証しています。両社はこの成果を設計支援ツールに発展させ、2027年4月にDUNLOPでの実用開始を目指します。さらに、富士通が開発中のArmベースCPU「FUJITSU-MONAKA」での動作を前提とし、推論速度と電力効率の最適化にも取り組みます。
タイヤ設計のDXを後押しするAIサロゲートモデルの概要
DUNLOPと富士通は、過去から蓄積されたFEM解析結果を学習データとして、FEMの基礎方程式の解を高速に近似推論するAIサロゲートモデルを共同で設計しました。ものづくりの現場ではCAE解析に多大な時間を要し、タイヤ設計でもメッシュを細かくして要素数を増やすと精度は向上する一方、計算負荷とコストが増大するという課題が存在します。両社はこの課題に対し、グラフニューラルネットワークをベースとするアルゴリズムを採用し、メッシュなどのグラフ構造データを直接扱うことで高速な推論を可能にしました。今回の実証実験は、タイヤが路面に接地した際の接地形状や接地圧分布などの評価に適用され、短時間かつ高精度の予測を確認しています。解析の高速化は、設計プロセスの短縮と意思決定の迅速化につながり、コスト最適化にも寄与します。さらに、熟練技術者の負荷軽減やノウハウ活用の効率化にもつながる点が注目されます。
実証実験の結果と数値でみる効果
実証では、DUNLOPの実設計データや設計ノウハウと、富士通のAI技術を組み合わせてモデルを構築し、接地時の変形挙動を高速に近似解析しました。結果として、従来のFEM解析が約45分を要していたのに対し、約5分での推論を実現しています。解析対象は約60万要素のメッシュ規模で、接地形状の予測精度は平均87.7%に到達しました。この水準により、複数の設計プロセスを経て決定していた構造や材料の仕様を、より少ないプロセスで短時間に絞り込めます。開発サイクルの短縮は性能向上のスピードを高めるだけでなく、コストの最適化にも効果が期待されます。また、本成果の一部は2026年6月3日から開催される第31回計算工学講演会で発表されています。実証の具体的な評価対象には接地形状や接地圧分布などが含まれ、現実の使用条件に近い設計判断を支援する基盤が整いつつあります。
FUJITSU-MONAKA前提の設計と今後のスケジュール
本技術は、富士通が開発する次世代CPU「FUJITSU-MONAKA」での動作を前提として設計されています。FUJITSU-MONAKAはArm命令セットアーキテクチャを採用し、自社設計のマイクロアーキテクチャと超低電圧技術を活用して高い電力性能を目指すプロセッサです。両社は2026年12月までに検証機での実証を開始し、推論速度と精度、電力効率の最適化を狙います。タイヤ構造解析の適用範囲を拡大し、専門知識がなくても設計者が直接使える設計開発支援ツールとして整備を進めます。このツールはDUNLOPで2027年4月の実運用開始を目標にしています。時間軸を明確に定めた取り組みにより、技術検証から実装、運用までの移行を着実に進める計画です。
DUNLOPと富士通が描く業界展開と効果
DUNLOPは長期経営戦略「R.I.S.E. 2035」のもと、ゴムから生み出す新たな体験価値の提供を掲げており、今回の共創で独自のゴムや解析の技術力をさらに進化させるとしています。Purposeとして掲げる未来をひらくイノベーションの実践として、より安全性が高く環境性能に優れた高品質なタイヤの市場投入をスピーディーに進める方針です。富士通は本取り組みを踏まえ、自動車産業をはじめ製造業における大規模FEM解析への横展開を推進します。FUJITSU-MONAKAとグラフニューラルネットワークを組み合わせたAI推論プラットフォームの開発を進め、AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」上での提供を見据えています。これにより、製造業の開発最適化と省電力化を通じてカーボンニュートラルの推進に貢献していく計画です。技術の一般化とプラットフォーム化が進めば、設計現場におけるCAE活用の裾野拡大が期待されます。
詳しくは「富士通株式会社」の公式ページまで。レポート/DXマガジン編集部






















