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インタビュー

部活動消滅の危機を救えるか。日体大が広げる、コーチングノウハウの新たな可能性

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少子化や教員の働き方改革により、全国の中学校で部活動の維持が大きな課題となっています。こうした中、日本体育大学は、大学が持つスポーツ指導の知見と全国の卒業生ネットワークを活かし、部活動の地域展開を支える仕組みづくりに取り組んでいます。指導者向けの学び直し教材、自治体や学校とのマッチング、指導後の評価までを組み合わせるこの取り組みは、単なる部活動支援にとどまりません。スポーツの現場で培われたコーチングを地域へ、さらには企業の人材育成へと広げる挑戦でもあります。今回は、日本体育大学の取り組みを通じて、大学の知を地域へ還元する意義と、スポーツコーチングが描く人財育成の未来について伺いました。 (聞き手:デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘)

大学の知を地域へ。日体大が「部活動の危機」に向き合う使命

鈴木: 今回の「部活動の地域展開」は、全国の自治体が課題を抱えているテーマです。日本体育大学として、この事業に取り組もうと考えた背景には、どのような危機感やきっかけがあったのでしょうか。

勝田氏: 自治体からは、「指導者が足りない」「コーディネーターが足りない」という声が多く寄せられていました。背景にあるのは、少子化による部員数の減少です。単独の学校だけでは部員が集まらず、部活動を維持しにくくなっている地域もあります。加えて、教員の働き方改革も大きな課題です。これまで土日の部活動は、先生方の熱意や負担によって支えられてきた部分がありましたが、その形を続けるのは難しくなっています。

この課題に対し、理事長からは「子どもたちに夢を」という言葉がありました。学長からも「日本体育大学として、これはやらなければならない使命だ」という話がありました。日体大には、保健体育の教員免許を持つ卒業生や、競技経験を積んできた各種目のスペシャリストが全国にいます。その力を地域の課題解決に活かせないかと考えたことが、この取り組みの出発点です。

ただし、指導者を増やせば解決するわけではありません。昔の指導法のままでは、今の子どもたちに合わない場合があります。安全管理、熱中症対策、ハラスメント防止、アスリートセンタード・コーチング(選手中心の指導)など、指導者自身が学び直し、アップデートする必要があります。だからこそ、日体大の知見を活かして、指導者を支える仕組みをつくろうと考えました。

写真:日本体育大学 事務局長 勝田 真也氏

送り出して終わりではない。指導の質を高め続ける仕組み化への苦労

鈴木: 地域の受け皿となる指導者を確保するだけでなく、その指導の質をどう担保していくかが大きな課題になります。仕組みをつくるうえで、どのような苦労がありましたか。

勝田氏: 一番難しかったのは、指導者の方々に「これは学ぶ価値がある」と思ってもらえる内容を、短く、使いやすい形にすることでした。卒業生や競技経験者の中には、高い専門性を持つ方がたくさんいます。一方で、今の子どもたちに向き合うには、指導者自身が学び直すことも必要です。

そこで、指導者向けに12本の動画教材を用意しました。教材では、現代の部活動指導に必要な知識を体系的に学べるようにしています。

【eラーニングで提供する主なカリキュラム】
・セーフスポーツ(安全管理・ハラスメント防止)
・アスリートセンタード・コーチング(選手中心の指導)
・熱中症対策・女性アスリートの健康管理
・子どもの自律性を支援するコーチング技法

これらは、国際的な研究団体の知見も参考にしながら、日本の文化や学校現場に合う形に再構築したものです。全体監修は日本体育大学の伊藤雅充教授が務め、専門的なコンテンツは各領域の専門家が担当しました。日体大には、スポーツや身体、教育に関する研究を行う教授や専門家が多くいます。そうした学内の先生方に協力してもらえたことで、外部に大きな費用をかけず、大学の知見を活かした教材をつくることができました。

ただ、専門的な内容をそのまま講義にすると、1時間、2時間の内容になってしまいます。そこで、1本10分から20分程度にまとめ、移動中や隙間時間でも学べるようにしました。短くしながら、必要なエッセンスを落とさない。その調整には苦労しました。

教材を見てもらうだけでは終わりません。受講後には知識確認テストや修了証を用意し、指導者には人材バンクのような形で登録してもらいます。その後、自治体や学校とのマッチングにつなげます。さらに、指導後には子どもたちなどから評価を受け、課題があればコーディネーターに共有し、改善につなげる流れにしています。指導者を送り出して終わりではなく、学び直し、マッチング、評価、改善までを回し続けることが、この取り組みの意味です。

「やらされ感」をなくす。スポーツコーチングは後輩指導にも活きる

鈴木:お話を伺っていると、スポーツのコーチングは、競技の現場だけでなく、ビジネスにおける後輩指導や部下との関わり方にも活かせるように感じます。実際に、企業の方からもそうした反応はありましたか。

坂戸氏:企業の方からも反応はあります。ある場でこの取り組みを紹介した際、「うちの社員にも受けさせたい」「上司に受けさせたい」という声をいただきました。スポーツのコーチングは、企業のマネジメントにも通じるという感覚を持っていただけたのだと思います。

今のスポーツコーチングは、監督や指導者が一方的に命令を出すものではありません。相手の状態を見て、本人が考え、動けるように支援するものです。やらされ感ではなく、自分から動きたくなる状態をどうつくるか。本人の力をどう引き出すか。これはスポーツでもビジネスでも同じです。

特に若い世代は、情報をたくさん持っている一方で、行動する前に考えすぎてしまうこともあります。だからこそ、まずやってみること、失敗も含めて経験することが大切です。部活動には、体を動かし、仲間と関わり、うまくいかないことに向き合う学びがあります。スポーツの現場で培われたコーチングの知見は、後輩指導、若手育成、管理職教育にも活かせるはずです。

写真:学校法人日本体育大学 法人事務局 総合企画部 坂戸 隆文氏

越境がひらく、部活動と人材育成の未来

鈴木:今回の取り組みには、外部との出会いも影響していると伺いました。大学として社会とつながるうえで、「越境すること」にはどのような意味があると感じていますか。

勝田氏:石井学長と一緒にオムニチャネルDayに参加したことは、大きな刺激になりました。さまざまな業種、業態の方々と接する機会があり、鈴木社長の講演や登壇者の話を聞く中で、自分たちも外に出ていかなければならないと感じました。

大学の中だけにいると、どうしても大学の中で物事が完結してしまいます。しかし、外に出て異業種の方々と話すと、自分たちが持っている知識や資産が、別の社会課題にも役立つ可能性が見えてきます。協会活動を通じて外の世界に触れたことで、大学の知を地域へ、さらに企業へ広げる発想が生まれました。

今は大学から発信していますが、将来的には、地域のコーディネーターや同窓会、自治体が主体となり、「教材を貸してください。あとは地域で進めます」と言える形が理想です。部活動の地域展開を、単なる制度対応で終わらせるのではなく、地域のスポーツ文化を支える仕組みにしていきたいと考えています。そして、そこで培われたコーチングの知見が、企業の人財育成や組織づくりにも広がっていけば、大学の知は地域だけでなく、社会全体に還元されていくはずです。

写真:株式会社デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木 康弘氏

取材後記

私自身、日体大の卒業生として、大学の知見や人材を学内だけにとどめず、地域社会へ還元していく姿勢に強く感銘を受けました。一方で、この取り組みは母校への思いだけで語るものではなく、大学、地域、企業がつながり、人を育てる仕組みを社会へ広げていく新しいモデルでもあります。オムニチャネル協会での出会いをきっかけに、大学、地域、企業がつながり、新しい価値が生まれる。この取り組みは、まさに枠を越えた「オムニチャネル」の実践であり、今後の展開に引き続き注目していきたいと思います。

DXマガジン編集部/戸田

【関連リンク】
日本体育大学
https://www.nittai.ac.jp/

取材日:2026年7月8日

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