現場レベルでの変化を見てきましたが、AXの影響はそこにとどまりません。経営や組織のあり方そのものにも、静かに、しかし確実に波及していきます。
経営者がまず直面するのは、「どこまでAIに任せるか」という判断です。これは技術的な問題である以上に、経営判断の問題です。定型的な業務判断であればAIに任せられる部分は増えますが、責任の所在、顧客への説明責任、ブランドの一貫性を考えると、どこかで人間が最終判断を引き受ける必要があります。この線引きを曖昧にしたまま進めると、現場が混乱します。
次に影響を受けるのが、中間管理職の役割です。これまで中間管理職は、情報を集約し上に報告し、下に指示を出す「情報の結節点」でした。しかしAIが情報の集約や一次分析を担うようになると、この役割の価値は相対的に下がります。代わって求められるのは、AIが出した分析や提案をどう解釈し、チームの意思決定に落とし込むかという「編集」と「判断」の力です。
若手育成のあり方も見直しが必要です。従来は、地道な作業を通じて仕事の勘所を学ぶ育成モデルが機能していました。しかしその作業の多くをAIが代替すると、若手が経験を積む機会そのものが減っていきます。あえて手を動かす機会を意図的に設計する発想が必要になるでしょう。
導入現場でよくある失敗にも触れておきます。「導入して終わり」というパターン、経営層主導で現場の納得感が伴わず形骸化するパターン、そしてAIに万能を期待しすぎて失望に変わるパターン。いずれも活用が止まる原因になります。
こうした失敗に共通するのは、AXを「システム導入プロジェクト」として扱ってしまっていることです。本来AXは、業務の役割分担や評価の仕組み、意思決定の権限といった、組織運営の根幹に関わるテーマです。情報システム部門だけの取り組みにせず、経営そのものの課題として位置づけることが、失敗を避ける最初の一歩になります。
次回は、こうした失敗を避けながらAXを進めるための、具体的な実践ステップについてお話しします。
【AXとは何か?人と企業はどう進化するのか。第3回】

筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
富士通、ソフトバンクを経て99年に現セブンネットショッピングを設立。セブン&アイHLDGS.取締役執行役員CIOとしてグループのデジタルトランスフォーメーションを推進。17年にデジタルシフトウェーブを設立し現職。日本オムニチャネル協会会長等も務める。






















