りんご栽培では、剪定や摘果、葉取りなどの作業が全体の75%以上を占めます。おいしい実を育てるために欠かせない一方、その多くは枝や葉、実を取り除く「捨てるための作業」でした。
青森県弘前市で五代続くもりやま園は、農作業をデータ化し、捨てられていた摘果りんごをシードルやアップルソーダ、ドライフルーツなどへ転換。この取り組みが評価され、日本DX大賞2026のサステナビリティ部門で大賞を受賞しました。
しかし、代表取締役の森山聡彦氏が目指しているのは、廃棄物の有効活用だけではありません。伝統あるりんご園が目指すデータ活用に踏み出す真の目的とはなにか。もりやま園代表取締役の森山聡彦氏に聞きました。
データ化で見えた農業経営の現実
――なぜ農作業のデータ化に取り組んだのでしょうか。
森山氏:農業を法人として成長させるには、経営計画を立てるための情報を見えるようにしなければいけないと思いました。そこで、誰が、どこで、どの品種に、どれだけ時間をかけたのかを記録する生産管理システム「ADAM」を自社で開発しました。
見える化すればするほど分かったのは、かけている時間に対して、入ってくるお金が少なすぎるということです。「これはなかなか大変だな」と思いましたね。売上を増やせば何とかなると考えていましたが、売上が3倍になっても、社員に十分なボーナスを出せない。この延長線上に未来があるわけではないと気づきました。


廃棄されていた摘果りんごを商品へ転換
――摘果りんごの商品化も、データ化から生まれたのでしょうか。
森山氏:摘果は、よいりんごを育てるために未成熟の実を間引く作業です。これまでは、その実を畑に捨てていました。ただ、時間をかけて実を取り、それを捨てるだけでは収益になりません。だったら、捨てる作業を収穫する作業に変えられないかと考え、摘果りんごを使ったシードルなどの開発を始めました。
現在、加工部門の売上は年間約4,000万円となり、会社全体の4~5割を占めています。法人化前は約2,000万円だった売上も、栽培面積をほとんど変えずに1億円規模まで成長しました。
規模を拡大する前に「経営の設計図」をつくる
――今後は、どのような農業経営を目指しますか。
森山氏:単に規模を広げればいいわけではありません。経営の設計図をつくらずに規模を拡大してはいけないと思っています。現在は、高密植栽培や機械化を進め、どれだけ労働生産性が改善するのかを検証しています。そのデータを基に5年後、10年後のロードマップを描き、進捗を管理していきます。
農業は収入が得られる時期が限られる一方、社員の給与は毎月支払わなければなりません。加工などを組み合わせ、季節や気候だけに左右されず、収入が途切れない仕組みを持たなければ、法人経営として続けることは難しいです。


農業を変えることが、地域を残すことにつながる
――森山さんが、農業の変革にこだわる理由を教えてください。
森山氏:守りたいのは、農園だけではなく地域の産業構造です。りんごを中心に、加工業者や資材会社、運送業者など、さまざまな仕事がつながっています。りんご産業が衰退すれば、地域そのものも衰退してしまいます。地方から都市への人口流出を止めるには、地方に魅力ある産業をつくらなければいけません。それを変えられるのは、一次産業にいる私たちではないかと思っています。
だから、150年の歴史にあぐらをかいてはいけない。新たに一から始める覚悟がなければ、次の100年はありません。
農業でも、会社として利益を生み、社員へ還元し、若い人が将来を描けるようにする。「こうやったら変えられた」という一つのモデルをつくり、全国へ伝えることが、次の世代へのメッセージになると思っています。




















