食品メーカーと卸売業者が、サプライチェーンのデータを垣根を越えて共有する。言葉にすれば単純ですが、商慣習の壁が厚い食品流通業界においては、これは容易ではありません。日清食品と三菱食品が2025年10月から進めてきた協業は、その壁に正面から挑んだ取り組みです。
1年間の実証で見えた「数字」
両社はまず3つの実証実験に取り組み、定量的な成果を確認しました。
三菱食品が保有する特売発注予定データを日清食品へ事前共有することで、日清食品の在庫調整にかかる業務時間が月約200時間削減されました。また、日清食品の商品情報を三菱食品へ自動連携することで、商品情報の登録業務が効率化されています。
最も注目されるのが、AI発注モデルの構築です。三菱食品から日清食品への発注時にトラック1台当たりの積載効率を最大化するAIを活用した結果、配送に必要なトラック台数を約30%削減できると試算されています。物流コストの削減にとどまらず、CO2排出量の削減という観点からも意義のある数字です。
なぜ今、企業の垣根を越えるのか
食品流通業界が抱える課題は複合的です。需要変動の拡大、物流現場の人手不足、エネルギー価格高騰による輸配送コストの上昇。これらに対して各社がそれぞれ個別に対応しても、効果は限定的にならざるを得ません。自社の効率を最大化しようとする行動が、サプライチェーン全体では非効率を生む。これがこれまでの構造的な問題でした。
「商流」と「物流」のデータを連携するという発想の核心は、この構造を崩すことにあります。メーカーが卸売業者の発注予定を事前に把握できれば、生産計画や在庫調整の精度が上がります。卸売業者がメーカーの商品情報をリアルタイムで受け取れれば、登録作業の手間が省けます。個々の業務改善の積み重ねが、サプライチェーン全体の最適化につながっていくという考え方です。
「共創型データ連携プロセス」という新しい商習慣
両社が今回の協業で目指すのは、製造・卸売・小売の各社がメリットを得られる「共創型データ連携プロセス」の構築です。将来的には製造、卸売、小売を横断したリアルタイムのデータ連携基盤の構築も視野に入れています。
これが実現すれば、サプライチェーン上のムリ・ムダ・ムラをデータで可視化し、業界全体で改善していくことが可能になります。一社が抱え込んでいた非効率を、業界全体の課題として共有し、協力して解決する仕組みです。
DXの文脈でよく語られる「データ活用」は、社内の業務改善にとどまることが多いのが現実です。しかし今回の取り組みが示すのは、企業間のデータ連携こそが次のフロンティアだということです。商習慣の改革は一社ではできません。競合でもあり協力者でもある企業同士が、データを軸に関係を再構築する動きは、食品流通にとどまらず、他業界にも広がっていく可能性を持っています。





















