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コラム

「デジタル格差」が迷走に拍車をかける

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リーダーの覚悟不足、エンジニアやマーケターへの過度な期待、外部依存…。これらの要因でDXが進まないケースは少なくありません。しかもこうした“他人任せ”の意識が根付く企業では、従業員の仕事への意欲や姿勢が二極化する「デジタル格差」を生み、DXをさらに迷走させてしまいます。ではなぜ、DXを他人任せにしてしまうのか。ここではその要因を探ります。なお、本連載はプレジデント社「成功=ヒト×DX」の内容をもとに編集しております。

エンジニアやマーケターへの過度な期待がDXを停滞させる

 そもそも「他人任せ」とはどんなケースを言うのか。その最たる例が、エンジニアやマーケターの採用です。  2021年初頭の時点で、エンジニアとマーケターの有効求人倍率は5倍を超えています。ほかの職種のそれが1倍前後であることを考えると、その人気は群を抜いています。中にはシステム会社や広告代理店に数年勤めた程度の30歳前後の若手に対し、1000万円超の年収を提示して入社を促す企業も見られます。  企業はおそらく、ネットに精通するエンジニアやデジタルマーケティングの経験があるマーケターを採用すればDXを進められる、と思い込んでいるのかもしれません。しかしこうした状況はもはや異常で、いびつな雇用格差を起こす要因になっています。  筆者はこうした状況を、ネットバブル時代に人材獲得が過熱したときに似ていると感じます。当時はインターネットブームで、Webデザイナーやネットワークエンジニア、ゲームクリエイターなどが脚光を浴びていました。しかし、ブームが過ぎると、こうした人たちも“ただの人”に。こうした人たちを大量採用した企業の中には、人件費が大きな負担になったことを理由にリストラを断行するケースもありました。  現在の状況は当時と酷似しています。エンジニアやマーケターの獲得合戦も、一部の本当に優秀な人を除けば、すぐ落ち着くでしょう。しかし、ネットバブル時代のときの状況が続けば、多くの企業が同様の過ちを繰り返すかもしれません。エンジニアやマーケターへの過度な期待が、DXを停滞させる可能性があるのです。

エンジニアやマーケターを採用してもうまくいかない理由

 筆者のもとに、採用について相談してくる顧客は少なくありありません。そんなときは必ず、「DXを推進するのに本当に必要なのは、エンジニアやマーケターではなく、“DX人材”です」とアドバイスします。「エンジニアやマーケターを採用しすぎるべきではありません。やがて負担になりますから」ともアドバイスします。  すると顧客からは、「エンジニアやマーケターとDX人材は違うのですか?」と予想通りの質問が返ってきます。  そこで筆者は、「エンジニアはシステムの専門家、マーケターはプロモーションの専門家です。DX人材とは、業務やシステムを熟知し、企業に変革を起こせる人です」と答えます。  エンジニアやマーケターは専門的な知識やスキルを持っていても、現状を「変える」スキルを持ち合わせた人は少ないでしょう。こうした人を採用できたとしても、その取り組みはシステム導入やWeb販促などの表面上の仕事に限定されます。目指すべきDXは実現されないことが多いのです。  ITやプロモーションの専門家を高い給与で採用するのは間違いです。何より大事なのは、企業内の人材を「DX人材」として育成することです。これがDXの近道で、現実的な解決方法と言えます。
next〈 2 / 2 〉:DXを成功させる唯一無二の方法

DXを成功させる唯一無二の方法とは?

 多くの企業が人材育成の必要性を認識しつつ、短期的な成果を追い求めているのではないでしょうか。実際、筆者のもとにも「大手コンサル会社に依頼したが、海外事例を模倣した分厚い資料を渡されただけ」「システム会社に相談したら、流行のシステムが導入されただけ」などの相談が増えています。結果が出る前に費用が枯渇し、DXを諦めるケースも出ています。  そんなとき筆者は、[DXは他人任せにしてはいけません。自社で自立し、自走できるように社内人材を育成すべきです」と話します。  もっとも日本に限ると、DXを経験した人材は少ないのが現状です。そこで、変革やITスキルを教えるノウハウがある外部を利用しつつ、社内の人材にDXを経験してもらい、DXを自社で継続できるようにすべきです。これがDXを成功させる唯一無二の方法です。  長期視点で、強い意志を持って取り組むことも重要です。「第二の創業」のつもりで、全社一丸の覚悟で取り組まなければ成功しません

経営者の「意識の差」がDXを遅らせる

 DXが進まない理由の1つに、「経営者の意識の差」もあります。  日本は世界と比べると、DXに何も対処できずにいる経営者が多くいます。これは「経営者の意識の差」に起因しています。  世界で活躍する経営者の多くは、DXに必要なスキルを持つ“プロ経営者”です。対して日本の経営者は、組織の中で育った人が少なくありません。ITやDXに必要なスキルを苦手にする人も多いでしょう。この違いがデジタル後進国と呼ばれる所以です。  経営者がDXに取り組む場合、起業経験やIT知識などのスキルを持っていると有利です。起業経験は、会社をゼロから組み立て、変革をリードするのに役立ちます。IT知識はデジタル化の未来や実現方法を想像するのに役立ちます。  経営者は今後、DXに積極的な環境を構築すべきです。デジタルに囲まれた環境ならばDXに積極的に、アナログ環境が残り続ければDXも消極的になるでしょう。現在のアナログ環境から早急に脱却すべきです。そのためには経営者自身がDXに必要なスキルを習得するか、デジタル資質を持つ人材に経営を任せるかしかありません。  この判断を早急にできるか。すぐに行動に移せる経営者こそ、会社を成長させられるでしょう。経営者は「他人任せ」を止め、自ら率先垂範で動くべきです。
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本連載は、プレジデント社刊行の「成功=ヒト×DX」の内容をもとに、筆者が一部編集したものです。
プレジデント社「成功=ヒト×DX」
筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任。

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