第2回|率先垂範—人の上に立つとはどういうことか
富士通でSEとして働いていた20代の半ば、私は初めて部下を持った。
20名のチームを任された。主任という肩書きをもらい、正直、少し浮かれていたと思う。しかし同時に、強烈な不安があった。自分より年上のメンバーもいる。経験も知識も、まだ足りない。どうやってこのチームをまとめればいいのか。
父に聞いた。「人の上に立つうえで、一番大切なことは何?」
父の答えは一言だった。「率先垂範」。
飾りのない言葉だった。理論でも方法論でもなく、ただ「お前が先に動け」ということだ。部下に何かを求める前に、自分がやれ。言葉より先に、行動で見せろ。リーダーシップとは肩書きではなく、背中で語るものだ。
その言葉が刺さったのは、父自身がそれを体現していたからだ。
父は、常にお客様の立場であり続けた。会長になってからも、毎日自ら弁当を試食し、休日には店舗へ足を運び、コンビニの棚を眺め、商品を手に取り、現場の空気を確かめた。それは視察ではなく、習慣だった。部下に「顧客を見ろ」と言う前に、誰よりも自分が顧客の立場であり続けた。だから、言葉に力があった。
率先垂範は、見せるためにやるものではない。それが自然な姿であるとき、初めて組織に伝わる。
若き日の私は、この言葉を信じて行動した。誰よりも早く出社し、誰よりも遅く退社し、誰よりも多く顧客と会い、誰よりも深く課題と向き合った。その積み重ねがいつしかメンバーの意識と行動を変え、最高の仲間たちをつくった。そしてその仲間たちが、数々のプロジェクトを成功へと導いてくれた。
DX推進の現場でも、同じことが言える。
「DXを推進せよ」と号令をかける経営者は多い。しかし自分自身がAIツールを使い、データを読み、デジタルの変化を肌で感じているか。部下に変革を求める前に、自分が変わっているか。
率先垂範とは、勇気の話ではない。誠実さの話だ。自分が信じることを、自分が先にやる。ただそれだけのことだ。しかしそれが、最も難しい。
父は生涯、その難しいことをやり続けた。その背中が、今も私の基準になっている。
【週刊SUZUKI 特別連載「父・鈴木敏文が遺したもの——次の時代の変革者へ贈る経営者の背中」その2】

筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
富士通、ソフトバンクを経て99年に現セブンネットショッピングを設立。セブン&アイHLDGS.取締役執行役員CIOとしてグループのデジタルトランスフォーメーションを推進。17年にデジタルシフトウェーブを設立し現職。日本オムニチャネル協会会長等も務める。






















