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コラム

変化対応—お客様は、常に先へ進んでいる【父・鈴木敏文が遺したもの—次の時代の変革者へ贈る経営者の背中 第4回】

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第4回|変化対応——お客様は、常に先へ進んでいる

200億円の事業を、自分の意志で次のステージへ託した。

イー・ショッピング・ブックスは順調だった。しかし私の頭の中には、すでに次の構想があった。ネットとリアルの融合——いま「オムニチャネル」と呼ばれるその発想を、当時から自分の中で温めていた。ネット書店の成功体験に安住するのではなく、その先へ行く。それが自分の使命だという確信があった。

それを父に話した。

父は言った。「うち(セブン&アイ)に来い」。

正直、父と仕事をすることには抵抗があった。しかし、大きなフィールドで挑戦できる。それは経営者として魅力的だった。加えて、父への親孝行という気持ちもあった。あれだけ大きな仕事をしてきた父の会社に、息子として貢献できるなら、それは自分の人生においても意味のあることだと思った。こうして私はセブン&アイ・ホールディングスに入り、デジタル事業の旗振り役を担い、後にはCIOとしてオムニチャネル戦略を推進することになった。

窮屈な面もあった、と正直に書いておく。

大企業の論理、組織の慣性、意思決定の重さ。社長として全権を持って動いてきた人間には、息が詰まる場面もあった。父との関係を揶揄し、色眼鏡で見る人間も少なくなかった。しかしその窮屈さを補って余りあるものが、そこにはあった。父の仕事を、間近で見ることができた。

息子としてではなく、経営者として。父が何を見て、何を判断基準にし、何を恐れ、何に賭けているか。それを同じ組織の中で観察できた時間は、私にとってかけがえのない財産になっている。

そのとき父から繰り返し教えられた言葉が、「変化対応」だった。

「お客様に今日評価された商品・サービスでも、明日も評価されるかどうかはわからない。お客様もマーケットも、常に変化しているのだから」

シンプルな言葉だ。しかしこれを、父は信念として持っていたのではなく、一種の恐怖として持っていた——私はそう感じている。

成功体験は、経営者を殺す。

200億円のネット書店を経営していた私自身が、その誘惑を知っている。うまくいっているとき、人は「このやり方が正解だ」と思い込みたくなる。変えることへの不安より、変えないことへの安心を選びたくなる。しかし父は、どれだけ成功しても、その安心に座らなかった。

「今日評価されている」という事実を、父は決して「明日も評価される」という根拠にしなかった。

その姿勢が、セブン-イレブンを時代とともに進化させ続けた。おにぎり、弁当、コーヒー、ATM、電子マネー——それぞれの時代に顧客の変化を先読みし、自らを変え続けた。変化を恐れたのではなく、変化し続けることを選び続けた。

私がいまDXコンサルティングを手がける中で、最もよく目にする経営の病がある。「以前うまくいったやり方」への執着だ。

過去に成功したビジネスモデル、かつて効果のあったマーケティング手法、長年続く商習慣——それを変えることへの抵抗が、組織の中に岩盤のように根を張っている。変えない理由は常に論理的に語られる。しかしその論理の底には、変化への恐怖と、成功体験への依存がある。

お客様は待ってくれない。

お客様の生活は変わり、価値観は変わり、選択肢は増え続けている。企業が「うちはこれで成功してきた」と言っている間に、顧客はすでに次へ進んでいる。

父がセブン&アイで私に見せてくれたのは、その現実と向き合い続ける経営者の姿だった。安住を許さず、常に「明日、顧客は何を求めるか」を問い続ける姿だった。

変化対応とは、流行を追うことではない。顧客を追い続けることだ。

その覚悟を持った経営者だけが、時代を超えて顧客に選ばれる。父はそれを、言葉ではなく生き様で教えてくれた。

【週刊SUZUKI 特別連載「父・鈴木敏文が遺したもの——次の時代の変革者へ贈る経営者の背中」その4】

筆者プロフィール

鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
富士通、ソフトバンクを経て99年に現セブンネットショッピングを設立。セブン&アイHLDGS.取締役執行役員CIOとしてグループのデジタルトランスフォーメーションを推進。17年にデジタルシフトウェーブを設立し現職。日本オムニチャネル協会会長等も務める。

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