日本オムニチャネル協会の活動を支える「フェロー」。各分野の実務家が集い、業界の垣根を越えた知見を持ち寄りながら、多角的な取り組みを推進しています。今回お話を伺ったのは、1986年の創業以来、通信・組み込みソフトウェア分野を軸に事業を展開してきた株式会社アプリックスグループ。携帯電話黎明期からインターネット、IoT、そしてAI時代へと、幾度もの技術革新や事業環境の変化の中で、試行錯誤を重ねながら事業を継続してきました。
現在は、システム開発だけでなく通信サービスやクラウド領域まで事業を拡大し、近年では経営統合による営業力強化にも取り組んでいます。今回、DXマガジン編集部では、株式会社アプリックスの代表 倉林聡子氏にインタビューを実施。創業から現在に至るまでの事業変遷、厳しい時代をどう乗り越えてきたのか、AI時代に求められる人間力、そして今後の展望について伺いました。
インターネット黎明期から通信の進化を支え続けてきた
――まず、御社の歴史やこれまでの歩みについて教えてください。
当社は1986年創業で、もともとは組み込みソフトウェアの開発を中心とした会社です。創業当初はCDやDVD関連のソフトウェアなどを手掛け、その後、携帯電話向け技術の開発へと事業を広げていきました。当時は、日本国内でも携帯電話市場が急速に成長していた時代です。インターネットというものが世の中に広がり始めたタイミングでもありました。
当社では、携帯電話をインターネットへ接続するためのソフトウェアを通信キャリアやメーカーへ提供していました。国内外の通信機器メーカーやキャリアへ採用いただき、非常に多くの携帯電話端末へ搭載されました。まさに「モノがインターネットにつながる世界」が始まるタイミングだったと思います。
その後、IoTという言葉が広がる前から、「モノとインターネットをつなぐ」という領域に取り組んできました。空気清浄機などの家電製品などをネットワーク接続する技術開発も進め、現在のIoT市場につながる取り組みを早い段階から行っていました。また2019年には通信サービス会社をグループ化し、現在ではシステム開発の技術力と通信サービスを一気通貫で提供できる体制を構築しています。
一般社員から代表へ、経営管理と内部統制が広げた視野
――代表ご自身は、一般社員として入社されたそうですね。
私はエンジニア出身ではなく、最初は経営管理や事業管理の立場でした。予算策定や事業収益管理、契約設計など、数字やビジネスモデルを見る仕事からスタートしました。その後、J-SOX対応や内部統制構築プロジェクトへ参加し、本社やグループ会社全体の業務プロセスやリスク管理を横断的に見る経験を積みました。数字だけではなく、「会社全体がどう動いているか」「どこにリスクがあるか」を理解できたことは非常に大きかったと思います。また、その後はファイナンスやM&Aにも関わるようになりました。資金調達や投資判断、事業再編など、経営に近い領域へ徐々に関わるようになっていったんです。
――業績が厳しかった時期もあったそうですね。
はい。2010年代後半から20年代にかけては、業績的にも非常に厳しい時期がありました。市場環境も変わる中で、「会社として何を変えなければいけないか」を常に考え続けていました。その中で、人事制度や収益管理、予算管理の見直しなど、組織改革にも取り組みました。ただ、制度だけ作っても意味はありません。社員へ「なぜ今これをやる必要があるのか」「会社が今どういう状況なのか」を丁寧に説明し続けることを重視しました。全社員向けに説明会も行い、会社の課題や方向性を共有し続けました。結果として、社員が一緒に危機を乗り越えようとしてくれました。私は一般社員からここまで来た立場でもあるので、社員の皆さんが支えてくれた部分は本当に大きかったと思っています。
一方で、代表就任以降は、正直「社長とは何をすればよいのか」をずっと考えていました。それまでは経営管理や内部統制など、どちらかというと、会社の中を整える仕事が中心でしたので、まずは赤字体質から脱却するため、収益改善や組織改革に集中して取り組んでいました。
ただ、黒字化した後に、「ここからどう成長させるのか」という新たな壁に直面し、自分は社長としてまだ十分なことができていないのではないか、と強く感じるようになりました。特に、会社としてどこを目指すか示すことや、社外とのつながりを広げることについては、自分自身足りない部分が多いと感じていました。
そこで、経営理念や事業ビジョンを整理するとともに、外部の経営者の方々との交流や社外コミュニティへの参加も増やしていきました。自分自身がもっと世の中を知らなければいけないと思ったからです。社員に対しても、「もっと外を見よう」ということを伝えてきました。
今もまだ、「社長とはこうあるべき」という明確な答えを持てているわけではありません。ただ、自分なりの経営者像を模索しながら、その時々で会社に必要なことを考え続けています。
――現在は経営統合にも取り組まれていると聞きました。
今回の統合では、「ものづくりの力」と「届ける力」を掛け合わせたいと考えています。アプリックスは技術力に強みがありますが、一方で営業や市場展開には課題もありました。今回加わった会社は、名古屋に本社を置く株式会社グローバルキャストという、お客様への提案力や営業力が非常に強い会社です。現在はPMIも進めながら、どのようなサービスをどう市場へ届けていくかを一緒に考えています。単なる規模拡大ではなく、「技術やサービスがちゃんと価値として届く仕組み」を作っていきたいと考えています。
DXで重要なのは「システム導入」ではなく「業務理解」
――DXについてはどのように考えていますか。
当社では2018年頃から、会計システムの刷新や業務のオンライン化、ペーパーレス化を進めてきました。コロナ禍の際には、かなり早い段階でリモートワークへ移行できました。ただ、DXは単なるシステム導入ではないと思っています。大事なのは、「どの業務プロセスにどんなリスクがあるのか」「どこを効率化すべきなのか」を理解した上でシステム化することです。私は内部統制や業務管理を見てきた経験があったので、「業務を理解しないままシステムだけ入れてもうまくいかない」という感覚が強くあり、そこを踏まえながら進めることができました。現在は、ナレッジ共有や情報蓄積の部分など、まだ十分にできていない部分をどう改善していくかにも取り組んでいます。
――AIについてはどのように見ていますか。
AIによる自動化は、今後さらに進むと思います。ただ、その前提として必要なのは、「業務を理解していること」です。昔のRPAと同じで、間違った設計をすれば、間違ったまま高速化されてしまいます。また、AIをそのまま使うだけでは、人間が考えなくなってしまう危険もあります。AIが出した答えを、「なぜその答えになるのか」を人間側が理解し、納得したうえで判断できるかが、今後ますます重要になると思っています。加えて、情報管理や著作権、誤情報への対応など、コンプライアンスの観点もこれまで以上に重要になると感じています。当社でもAI活用は進めていますが、「AIを使うこと」が目的ではなく、「どう使いこなすか」「どう適切に使うか」が重要だと思っています。
「自社だけで完結しない」時代へ
――長い歴史の中で、市場環境も大きく変わったのではないでしょうか。
本当に大きく変わりました。インターネット、スマートフォン、クラウド、IoT、そして今はAIです。技術の変化スピードが非常に速い業界です。当社は技術力に強みを持つ会社ですが、一方で、「良い技術を作るだけでは事業として成立しない」という現実にも直面してきました。PoCまでは進むけれど、その先の商品化や市場展開につながらないケースも多かったです。だからこそ、「どう市場へ届けるか」「どうお客様へ価値として伝えるか」が重要になってきました。
近年は、クラウドWi-Fiやモバイルルーター、運行管理システムなど、継続的にご利用いただくストック型ビジネスにも力を入れています。単発の受託開発だけではなく、継続収益型のサービスを増やすことで経営基盤を安定させる狙いがあります。
また、当社が持つ技術についても、単なる技術提供ではなく、お客様から「こういうことを実現したい」とお気軽に相談いただけるよう、サービスとして分かりやすく見せる工夫を進めています。技術そのものではなく、技術を通じてどんな価値を提供できるかを大切にしたいと考えています。
――最後に、日本オムニチャネル協会にも参加されていますが、実際に活動する中で感じている価値や、これからの時代における“企業同士のつながり”の重要性について、どのようにお考えでしょうか。
以前は、自社だけで完結しようという考えが強かったです。ただ、経営をしていく中で、「他社と連携しながら成長していくこと」の重要性を強く感じるようになりました。オムニチャネル協会は、単なる交流会ではなく、「一緒に学び、一緒に考える場」があるところに価値があると思っています。業界も立場も違う人たちと議論することで、新しい視点や気づきが得られる。そうしたつながりは、これからの時代にますます重要になると思います。
編集後記 今回のインタビューで特に印象的だったのは、アプリックスグループが「技術」だけではなく、「人」や「信頼」を非常に大切にしている点でした。AI時代に入り、自動化や効率化が急速に進む一方で、最後に必要になるのは“考える力”や“人とのつながり”である。その言葉には、長年にわたり変化を乗り越えてきた経営者ならではの重みを感じました。
また、社名の由来も非常に印象的でした。「アプリックス」は、中国の故事“杏林佳話”に由来しており、人々からの感謝によって杏の林が生まれたという逸話から、「ソフトウェアの力で世の中の人々に幸せをもたらしたい」という想いが込められているそうです。技術だけを追うのではなく、その先にいる人を見続ける。その姿勢こそが、40年近く変化の激しいIT業界を生き抜いてきた理由なのかもしれません。






















