LINEの立ち上げに携わり、現在はLINEヤフー株式会社のCTOを務める朴イビン氏。数々の失敗を経てLINEを生み出した経験と、AIによって会社そのものを変革する「AX(AI Transformation)」への挑戦、AI時代に求められるエンジニアの役割について、日本オムニチャネル協会会長の鈴木康弘が聞きました。
「全部失敗した」。それでも挑戦を続けた先にあったもの
鈴木: 現在はLINEヤフーのCTOを務められていますが、これまでどのような道を歩んでこられたのでしょうか。
朴: 最初は韓国でインターネット通信会社に入り、その後、ゲームやSNSなどの開発に携わりました。そこから検索エンジンの開発に挑戦し、NAVERに参画して日本に来ました。日本では検索サービスを作りましたが、試行錯誤の連続でした。サービスを作っては終了し、また作る。正直、全部失敗したんです。そして「最後にもう一つやりましょう」と始めたのがLINEでした。
鈴木: LINEの成功の裏には、多くの失敗があったんですね。
朴: そうですね。ただ、その経験があったからこそLINEが生まれ、急成長した際にもサービスを支える基盤を整えることができました。振り返ると、失敗も決して無駄ではなかったと思います。

LINE誕生から世界へ。そしてLINEヤフーで挑む新たな変革
鈴木: LINEが世界に広がってからは、どのような挑戦があったのでしょうか。
朴: LINEは日本だけでなく、台湾やタイなどにも広がりました。ニュースやコマース、決済などのサービスを展開し、台湾やタイ、インドネシアなどでも開発組織を立ち上げました。多くのサービスを自社で開発していたため、技術だけでなく、組織づくりや人材育成も重要な仕事になりました。
その後、LINEとヤフーの経営統合を経て、LINEヤフーが発足しました。両社とも長い歴史があり、大規模なシステムや組織を抱えています。LINEヤフー発足後の約3年間は、異なるプラットフォームの整理に取り組み、互いの組織文化への理解を深めてきました。簡単なことではありませんでしたが、次の成長に向けた土台を作ることができたと思っています。
鈴木: 私も昔からヤフーを知っていますが、大企業になるほど新しい挑戦には時間がかかりますよね。
朴: そうですね。だからこそ、個人だけでなく、チームや組織全体を変える必要があります。LINEヤフー発足によって次の成長に向けた基盤が整い、今はAIを活用して、これまで以上のスピードで挑戦と改善を繰り返せる会社へと変わろうとしています。

AIで会社そのものを変える。エンジニアに求められる新たな役割
鈴木: LINEヤフーのAIエージェント「Agent i」も進化していますね。LINEヤフーでは、AIをどのように捉えているのでしょうか。
朴: AIは質問に答えるものから、ユーザーに代わって行動するエージェントへと進化しています。重要なのは、AIのモデルを作ること自体ではなく、既存のサービスや人々の生活とどう結びつけるかです。LINEヤフーが持つサービスやデータをAIと組み合わせ、より便利な体験を提供していきたいと考えています。一方で、正確性や安全性の確保も欠かせません。
鈴木: サービスだけでなく、会社の仕組みも変わっていくのでしょうか。
朴: はい。私たちはAXを重要なテーマとして進めています。そのために取り組んでいるのが「AI Ready」です。
一つは、既存システムをAPI化、MCP化し、AIと連携できる環境を整えること。もう一つは、社員自身がAIを使いこなせるようにすることです。システムと人の両方を変えていく必要があります。
鈴木: エンジニアの役割も大きく変わりそうですね。
朴: これまではコードを書くことが重要でしたが、今後はAIがコードを書くようになります。人間は全体を設計し、AIをオーケストレーションし、成果物を検証する役割へと変わっていきます。AIが作ったものに最終的な責任を持つのは人間です。
実際に、コードの生産量は前年度比140%になり、コーディング作業の約20%をAIが担っています。プロジェクトによっては開発速度が最大5倍になったケースもあります。
鈴木: エンジニアが、開発全体を動かすプロデューサーのような存在になるわけですね。
朴: そうです。そして、これから重要になるのはAIを使えることだけではありません。AIによって、これまで専門家でなければできなかったこともできるようになります。だからこそ重要になるのは、「How(どうやるか)」よりも「What(何をするか)」です。自分は何を実現したいのか、何に挑戦したいのか。その意思を持ち、AIをオーケストレーションできる人が求められると思います。
鈴木: AI時代こそ、人間力が問われるということですね。
朴: そう思います。若い人たちにも、AIを使うだけでなく、実際のプロジェクトを経験してほしい。チームで議論を重ね、実践し、失敗から学ぶ経験は、AI時代でも重要です。
LINEヤフーでは「リトロスペクティブ(振り返り)」を大切にしています。失敗や問題が起きた際には、なぜそうなったのかを振り返り、同じ失敗を繰り返さないための改善につなげています。失敗そのものを問題にするのではなく、そこから何を学ぶかが重要だと考えています。
鈴木: 最後に、これからの時代を担う若い人たちへ、メッセージをお願いします。
朴: 私が伝えたいのは、挑戦すること、そして粘り強く続けることの大切さです。挑戦というと、新しいことに次々と取り組むことだと思われがちですが、それだけが挑戦ではありません。一つのことに挑戦したら、うまくいかなくても簡単に諦めず、最後までやり抜くことが大切です。私自身、LINEが生まれるまでに数多くの失敗を経験しました。しかし、その経験の一つひとつが次につながりました。若い人たちにも、失敗を恐れず、粘り強く挑戦を続けてほしいですね。



















