DXを導入するだけでなく、いかに会社全体の変革につなげるか。多くの企業が模索する中、DXによって業務を変え、成果につなげてきたのが、愛知県で制御盤の設計・製造を手がける三共電機です。同社は経済産業省 DXセレクション2024 優良事例に選定されたほか、日本DX大賞2026 業務変革部門 優秀賞、第4回 日本ノーコード大賞 大賞を受賞するなど、その取り組みは社外からも高く評価されています。「社員年収700万円」という目標を掲げた同社は、どのように変革を進めてきたのでしょうか。DXを会社全体の変革につなげるために何が大切なのか、代表取締役の三橋進氏に話を聞きました。
「社員年収700万円」を掲げ、29歳から始めた会社づくり
――まず、これまでのご経歴を教えてください。
三橋:豊田高専で電気工学を学び、専攻科を経て名古屋工業大学大学院へ進学しました。修了後の2009年に森精機製作所へ入社し、ソフトウェア開発に携わりました。その後、2014年に父が創業した三共電機に入り、2020年に代表取締役に就任しました。
――これまでの歩みの中で、現在の三橋さんに最も大きな影響を与えた経験は何でしょうか。
三橋:高専時代です。15歳で親元を離れて寮生活を始め、ラグビー部に所属し、寮長も経験しました。技術を学んだことはもちろんですが、自由な環境の中で早い段階から自立できたことが大きかったと思います。自分の礎をつくった5年間でした。
――そして2014年、29歳で三共電機に入社されました。当時はどのような状況だったのでしょうか。
三橋:社員は17人ほどでした。小さな会社なので、設計や営業、情報システム、人事、採用、現場作業まで、経理以外はほぼすべて経験しました。
ただ、最初から「会社を変えよう」とは考えていませんでした。それまで30年間続いてきたやり方には、理由があるはずです。大企業で5年間働いてきただけの自分が「大企業ではこうだった」と否定するのではなく、まずは今あるものを理解する。これまで会社をつくってきた人たちへのリスペクトは大切にしていました。
――その後、「社員の年収700万円」という目標を掲げています。この考えはどこから生まれたのでしょうか。
三橋:大手メーカーで働いた経験が大きかったですね。同じ製造業でも、大企業と中小企業では、給与や働く環境に大きな差がありました。自分が地元に戻って会社を経営するのであれば、「誰も知らない会社だけど、給料がいい」「ここで働いていることに誇りを持てる」と思える会社にしたい。その分かりやすい目標として、現在も「社員の年収700万円」を掲げています。
もちろん、「そんなの無理だろう」という反応もありました。それでも、言った以上はそこに向かってやるしかない。その気持ちで取り組んできました。

DXで成果は出た。それでも社員のストレスは高かった
――そうした会社を目指す中で、DXにも取り組んでいったのでしょうか。
三橋:そうですね。ただ、最初からみんなが賛成してくれたわけではありません。当時は、経営側から示された方針に沿って仕事を進める文化が強く、社員自身が業務改善を提案することは、まだ当たり前ではありませんでした。「ずっとこのやり方でやってきたから変えたくない」という人もいますし、新しい仕組みに不具合が起きれば、「仕事が止まるじゃないか」と責められることもありました。
――そうした反発に、どのように向き合ったのでしょうか。
三橋:シュンとします(笑)。周りからは飄々としているように見えるようですが、意外とちゃんと悩みますし、へこみます。だからこそ反対する人を無理に説得するより、少しずつ仲間を増やしていきました。特に若い社員は、これまでのやり方を当たり前だと思っていないので、「この作業って、ずっとこうやらないといけないんですか?」と疑問を持ってくれます。
そうした声を拾って、アプリ化や自動化によって一つずつ改善していきました。「実際に便利になった」という経験を積み重ねることで、少しずつ仲間が増えていったと思います。
――三橋さん一人で始めたDXが、組織の取り組みに変わったのはいつ頃でしょうか。
三橋:2022年頃ですね。私一人でDXを始めてから4〜5年が経ち、現場から「この作業もアプリ化できませんか」「これ、自動化できませんか」という声が出るようになりました。さらに、自分たちでアプリを作る社員も出てきました。この頃から、DXが私一人の取り組みではなくなったと感じています。
――そして、DXによって実際に経営面でも成果が出てきたのですね。
三橋:DXの成果もあって利益体質は大きく改善しました。その結果、給与を引き上げたり、残業を減らしたり、有給休暇を増やしたりと、社員への還元や働く環境の改善も進めることができました。
ところが、健康経営の一環で実施したストレスチェックでは、想定以上に高いストレス傾向が見られたんです。「こんなにやって、給料も上げて、残業も減らして、有給も増やしたのに、なぜストレスが高いんだ」と思いました。かなり悩みましたね。
そこで気づいたのが、業務を効率化して利益を出し、待遇を良くするだけでは解決できない課題があるということでした。DXを進めたからこそ、その先にある人や組織の課題が見えてきました。それをきっかけに、人的資本への投資を本格的に進めるようになりましたね。
DXを進めてたどり着いた「結局、人」という答え
――DXによる業務改善から、人的資本経営へと取り組みを広げていったのですね。具体的には、どのようなことから始めたのでしょうか。
三橋:FFSなどを取り入れて、社員だけでなく自分自身の特性も理解するところから始めました。そこで分かったのが、「50人いれば49人は自分とは違う」ということです。それまでは、なぜ分かってもらえないのか、伝え方が悪いのか、やり方が悪いのかと悩んでいました。でも、そもそも人はそれぞれ違う。自分と同じように考えてもらおうとしても仕方がないんですよね。そう考えられるようになってからは、以前よりも少し俯瞰して、社員や組織を見ることができるようになったと思います。
――そうした気づきを経て、経営の仕方にも変化はありましたか。
三橋:以前は自分一人で進めることが多かったのですが、今は任せることを意識するようになりました。DXによって業務を標準化し、属人化を減らしていくことで、社員に任せられる仕事も増えていきます。任せることで、その人自身の成長にもつながっていく。そうした組織や仕組みをつくることも大切だと考えています。
これまでの10年は私一人で進めてきた部分も多かったのですが、これからの10年は、みんなで会社をつくっていきたいと思っています。

――DXで会社の仕組みを変え、今は人や組織にも向き合っています。今後は、どのようなことに取り組んでいくのでしょうか。
三橋:現在は社内の定型業務の約9割を自動化できるようになり、これまで手をつけられなかった領域にリソースを割けるようになっています。一つが「営業DX」です。これまで蓄積してきたデータを活用し、成果を上げている営業担当者が持つナレッジや勝ち筋を共有することで、営業全体のパフォーマンスを高めていきたいと考えています。
もう一つが、設計・製造の「デジタルツイン」です。3Dデータを活用して電線を自動製作したり、3Dデータをもとにロボットの経路を生成したりと、設計・製造工程のさらなる自動化に挑戦しています。業務の自動化によって生まれた余力を、こうした新たな技術開発やイノベーションに振り向けています。
――最後に、ここまでDXを進めてきた中で、改めて大切だと感じていることは何でしょうか。
三橋:結局、人だと思います。DXはあくまでツールであって、アプリを作ること自体が目的ではありません。大切なのは、その先にある本来の目的を見失わないことです。品質を向上させるのか、働く環境を改善するのか。何のためにDXをやるのかという本質をしっかり見極めることが大切です。DXがうまく進むかどうかも、人や組織なのだと思います。



















