日本では高齢化の進展に伴い、高齢者医療費の増大が社会保障費全体の課題となっています。こうした状況を受け、医療現場ではデジタル化による効率化、いわゆる医療DX(デジタルトランスフォーメーション)が進められています。中でも注目されるのが、オンライン資格確認とデジタル保険証の導入による医療事務の効率化です。
従来、高齢者が医療機関や薬局を受診する際には、窓口での保険証確認や紙の診療情報・処方箋のやり取りが必要でした。医療機関側では、これらの情報をもとに診療報酬請求や審査を行うため、多くの事務作業と時間がかかり、事務コストとして医療費全体にも影響を与えていました。
医療DXの取り組みとして、厚生労働省はオンライン資格確認システムの普及を推進しています。患者がマイナンバーカードや医療系ICカードを利用して医療機関の端末で資格確認を行うと、保険情報が自動で読み取られ、患者の同意のもとで診療情報の参照も可能になります。この仕組みにより、医療機関や薬局の事務処理時間を大幅に短縮できるほか、医療費請求の正確性向上や重複診療の防止にも寄与します。
さらに、デジタル保険証を活用することで、紙の保険証の管理・更新にかかる手間も削減されます。高齢者が窓口で何度も提示する必要がなくなるだけでなく、医療機関側もデータ管理の手間を減らせるため、全体として医療提供体制の効率化につながります。結果として、間接的ではありますが、高齢者医療費の抑制にも寄与する可能性があります。
実際、全国の医療機関・薬局でオンライン資格確認端末が導入されつつあり、2025年以降はマイナ保険証の利用率向上を背景に、事務コスト削減の効果が本格化すると見込まれています。自治体や保険者も、データ連携の整備や制度運営の効率化を進めており、デジタル化による社会保障費全体の最適化が期待されています。
医療DXは単に業務の効率化にとどまらず、医療提供の質の維持や患者利便性向上、さらに高齢者医療費抑制という政策課題への対応としても重要な役割を果たしています。今後は、オンライン資格確認・デジタル保険証のさらなる普及と現場運用の改善が、高齢化社会における持続可能な医療制度構築のカギとなりそうです。






















