DXマガジンセミナー

    2022.06.14

    IoTを使って年間4億円の労務費削減、愛知の製造業が進めるカイゼン成功の秘訣

    DXマガジンは2022年5月25日、定例のDX実践セミナーを開催しました。テーマは「第四次町工場革命を起こせ!~IOT活用DXの実践~」。i Smart Technologies 代表取締役社長CEO 兼 旭鉄工 代表取締役社長の木村哲也氏が登壇し、IoTの活用事例や導入効果を紹介しました。

    当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください。

    “カイゼン”効果をIoTで可視化

     ゲストの木村氏が代表を勤める旭鉄工は、愛知県碧南市に拠点を構える自動車部品メーカー。エンジンやトランスミッション、ブレーキなどの部品を製造する創業80年の老舗企業で、2019年度の売上高は155億円、従業員数は439名を数えます。

     そんな同社が注力するのが「改善活動」です。工場内のあらゆる生産工程にメスを入れ、無駄を省く施策を次々打ち出します。“現場が楽になる”を合言葉に、問題の早期解決に余念がありません。「自動車業界は国内市場や生産人口の減少、CASEといった新たな潮流など、待ったなしで変革の必要性に迫られている。当社が今後も生き残るためには、改善活動を加速する変革を断行すべきと判断した」と、木村氏が改善活動に目を向けた経緯を説明します。
    写真1:セミナーでIoTを使った改善活動の可能性を力説...

    写真1:セミナーでIoTを使った改善活動の可能性を力説した木村氏

     では、どう取り組むのか。改善活動を支えるキーテクノロジーと同社が位置付けるのが「IoT」です。自社開発した「iXacs(アイザックス)」と呼ぶIoTソリューションを使い、徹底した生産の効率化を図ります。
    写真2:iXacsのデモ機。センサー情報をモニタで確認できる

    写真2:iXacsのデモ機。センサー情報をモニタで確認できる

     具体的には、「労務費」を算出するのに必要なデータ収集にiXacsを使います。例えば、一人あたりの残業時間を減らして労務費削減を目指すには、1時間あたりの生産個数を増やさなければならない。そのためには、1個のモノを生産する時間(サイクルタイム)をどう短縮するか、もしくは止まりがちな設備機器の停止時間をどう減らすかに目を向ければいい。こうした考えのもと、iXacsを使って生産ラインごとの「生産個数」「サイクルタイム」「設備機器の停止時間」「停止の理由」を収集できるようにしています。
    写真3:歯車に磁石を取り付け、磁気センサーが1回転をカ...

    写真3:歯車に磁石を取り付け、磁気センサーが1回転をカウントできるようにしている

    写真4:設備機器が停止したとき、現場担当者がボタンを押...

    写真4:設備機器が停止したとき、現場担当者がボタンを押して「停止の理由」を登録する

     サイクルタイム短縮策や設備機器の停止時間削減策は、同社がこれまで蓄積した「アイテム」と呼ぶ施策リストを活用します。この中から例えば、「生産ライン担当者が歩いて移動する距離を1秒(1歩)縮める」「稼働停止を撲滅することで停止時間を1割削減する」などの施策を選んで実施。iXacsが収集したデータをもとに、これらの施策が有効だったかを検証します。「iXacsを活用した改善活動で大事なのは、改善施策のノウハウを蓄積することだ。全従業員が効果的な改善活動のノウハウを再利用できるようにすることに主眼を置く。ノウハウの蓄積と共有が、全社の改善活動を底上げする」(木村氏)と、改善活動のポイントを指摘します。
    写真5:DXマガジン総編集長の鈴木康弘は、木村氏が指摘...

    写真5:DXマガジン総編集長の鈴木康弘は、木村氏が指摘するIoTによる改善活動の有効性に同意していた

     なお、iXacsのIoTデバイスは設備機器に後付けで設置可能。センサー情報は送信機から受信機に無線で送り、クラウドで一元管理します。クラウドで分析した結果は、スマートフォンなどの端末で確認することができます。木村氏はiXacsのメリットを、「サイクルタイムや設備機器の停止時間をストップウォッチで計測するなどの手間を省ける。人員を割かずに必要なデータを収集できるのがメリットだ。さらに、問題点を従業員間で容易に共有できるのも強みだ」と強調します。

     もっとも、IoTを使ってさまざまな情報を収集するだけでは意味がないと木村氏は指摘します。「大切なのは収集したデータを比較できるかどうかだ。前年や前月、他の生産ライン、設備機器などと比較することではじめて問題点を洗い出せる。比較することを前提にデータと向き合うことが必要だ」(木村氏)と言います。

     これらの環境を構築し、施策を繰り返すことで改善活動の効果が表れると木村氏は続けます。「改善活動に取り組んでも、効果があったのか不明瞭のままだと従業員は疲弊してしまう。『数字』という明確な指標で効果を示すことが従業員のモチベーションにつながる。指標ありきの施策を繰り返す好循環を生み出すことで改善活動は加速し、結果もついてくる。従業員が楽しいと思える改善活動を検討すべきだ」(木村氏)と、数字で効果を測定できる環境の必要性に言及します。

     なお同社では、施策の効果を発表する改善報告会を実施。実際に取り組んだ担当者が現場で木村氏に結果を報告し、その内容と木村氏の評価はチャットツール経由で全社に共有されます。「他のチームはどんな改善活動で効果を上げたのか、社長はどんな取り組みを望んでいるのかが分かるのが報告会のメリットだ」(木村氏)と言います。チャットツールを活用し、各種情報共有、申請業務の効率化にも着手します。

     では、肝心の効果はどうか。木村氏主導で2013年から改善活動に取り組んだ結果、生産時間は1年あたり8万時間削減。労務費に換算すると4億円/年、累計で17億円削減したと言います。さらに生産体制を徹底的に見直したことでCO2排出量も9%削減します。「当社では電気料金単価が1年前と比べて45%上昇した。多くの設備機器は、稼働せずとも電源が入っているだけで電力を相当消費する。iXacsを使って長時間停止中の設備機器を把握できれば、電源を切るなどの措置を講じられる。昨今の電気代高騰に対処できるほか、企業としてSDGsに取り組むアピールにもなる」(木村氏)と言います。同社は現在、約200の生産ラインの稼働状況を可視化。全CO2排出量の95%を把握できる状態です。

     木村氏はセミナーでDXへの取り組みについても言及します。「当社の場合、IoTを使った改善活動を起点としたDXを行った。もっとも、効果が出るのに3~4年かかった。まずは少人数で改革を断行し、段階的に取り組みを増やすようにした。さらに、従業員の自主性を尊重した。社長として、チャレンジする姿勢を否定しないよう配慮した。社長に伺ってから実践では遅い。未経験でも挑戦する風土を育むこともDXでは必要だ」(木村氏)と、経営者としての心構えも説きます。

     製造業のDXについても木村氏は、「思うように進んでいないケースが多いのではないか。何をしていいか分からず、推進するリーダーもいないと感じる。しかし製造業を取り巻く環境はまさに深刻だ。生産人口が減少するほか、原材料やエネルギー料が高騰し続けている。デジタル化に舵を切らなければ事態は好転しない。これからDXに取り組む会社と取り組まない会社では大きな差が開くことになるだろう」と、DXに取り組まない企業に警鐘を鳴らします。
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