日本オムニチャネル協会は2023年10月18日、定例セミナーを開催しました。今回のテーマは「アバターと未来社会について~アバターで新たな働き方と雇用を作り、あたたかみがあるDXを推進~」。自分の分身となるアバターは、これからの社会にどう寄与するのか。とりわけ人手不足が叫ばれる中、アバターによる新たな働き方が人手不足解消の切り札となるのか。セミナーでは、アバターがこれから果たす役割などを考察しました。
少子高齢化や人手不足が叫ばれて久しい日本。直面する課題に対し、企業はどんな手を打つべきか…。
こうした状況を打開する切り札の1つとして注目されているのがアバターです。インターネットやSNS経由の問い合わせにアバターが対応したり、店舗を訪れる来店者の接客にアバターを活用したりするケースが登場しつつあります。顧客対応などの用途を中心に、アバターを導入する企業が目立つようになっています。
では今後、アバターを使ってどんな未来を描けるのか。企業はアバターをどう活用すべきか。
今回のセミナーではアバター技術に精通するAVITA 取締役COOの西口昇吾氏が登壇。アバターを取り巻く現在の状況や活用事例の最前線を紹介しました。
アバターは人とつながるための手段
セミナーでは、AVITA 代表取締役CEOの石黒浩氏が事前収録済の動画を使って講演。遠隔操作するロボットのこれまでの歴史を振り返りました。とりわけ石黒氏自身が2006年、自分の分身となるアンドロイド「ジェミノイド」を開発。その特徴について、「操作する人はモニターを見ながら話すだけでアンドロイドを操作できる。話す内容をもとにアンドロイドの口の動き、頭の動き、体が自然に動く」と説明します。さらに現在は進化し、「自分よりも表現豊かに話せるようになっている。手を使って表現する動きは、操作する私の表現力を凌ぐ。視覚や聴力さえ人を超えるアバターが登場している。アバターを活用すれば、自分の能力を超える仕事さえできるようになる」(石黒氏)と、アバターの可能性にも言及します。
石黒氏はアバターの開発を進める一方で、アバターと共生する環境づくりにも着手します。「高齢者や障がい者を含む誰もが多数のアバターを使い、身体的、認知、知覚能力を拡張しながら、常人を超えた能力でさまざまな活動に自在に参加できるようになる社会を目指す。さらに、いつでもどこでも仕事や学習をでき、通勤通学を最小限にして自由な時間を十分確保できるようにもなる」(石黒氏)と、共生社会による利点を説明します。
アバターを使った具体的な導入事例にも触れます。例えばパン屋の場合、コロナを機にアバター(ロボット)を導入。店員と対話できるようにすることで接客業務を補ったと言います。「焼き立てのパンの情報や残り個数、今日のオススメのパンなど、リアルタイムの情報をロボット経由で発信することも可能だ。店内だけではなく店頭にもロボットを配置し、双方のロボットを連携させることで、利用者に有益な情報を店外にも発信できる」(石黒氏)と、導入効果を説明します。セミナーではそのほかにも、コロナ禍の保育園での導入実績や、アミューズメントパークの感染症対策の手段としてロボットを使った事例なども紹介しました。
最後に石黒氏は、アバターの利用目的について言及。「アバターは、人と人がつながると言う目的を果たすための手段になり得る。さらに、差別の根源である生身の体から人々を解放し、誰もが自由につながれるようにするのも目的の1つである」(石黒氏)と説明します。AIを組み合わすことで、「人と人とのつながりをより深められるようになる。つながりをサポートする手段の1つとなるのがアバターである」(石黒氏)と述べました。
AIとの組み合わせで自然な対話も可能に
セミナーでは、AVITA 取締役COOの西口昇吾氏が続いて講演。「アバターと生成AIがもたらす未来の社会」と題し、これからのアバターに求められる役割について解説しました。
西口氏は、アバターが社会課題を解決する役割を担うと切り出します。「労働人口が減少し続ける日本では、不足分を補う役割をアバターが担う。アバターやAIを活用することで、少子高齢化や労働人口減少問題の解決を目指せる」(西口氏)と言及。さらに、「高齢者や障がい者などもアバターを使えば自由に働けるようになる。さらに1人が2人分以上働けるようになることも可能だ。アバターを使って2人分働ければ時給だって2倍になる。つまり生産性向上も見込めるようになる。アバターが新たな働き方をもたらすし、新たな雇用も生み出す」(西口氏)と、アバターがDXを推進する切り札となると強調します。
アバターを使いこなすためのツールの現状にも踏み込みます。AVITAではオンライン接客を支援するサービス「AVACOM(アバコム)」を提供。AVACOMを例に、アバターの技術動向も解説しました。西口氏はその特徴について、「リアルとWeb双方の接客を効率化できる。人が遠隔からアバターを操作して接客するのはもちろん、生成AIを使ってアバターが自動で接客や案内するといった使い方も可能だ」と解説します。AVACOMの場合、ChatGPTにも対応し、接客業務のコストカットや売上アップにも貢献できると言います。
さらに、ロボットに設置したモニタに映し出す仮想スタッフの自然な動きも可能にするといいます。「モーションキャプチャと呼ぶ技術を使えば、映像内の人の動きを容易に真似られる。仮想スタッフも人に近しい動きが可能だ。指の動きや口の動きなど、人の細かい所作さえ再現できる」(西口氏)といいます。なお、同社ではビジネス向けアバターを提供。かわいいキャラクターなどではなく、ビジネスシーンで使えるデザインのアバターを用意、もしくは制作できるといいます。「相手の話す内容に応じて、きちんとうなずけるアバターもある。人との会話時にリアルタイムで反応すれば、相手も話しやすいし、自然な対話を見込めるようになる。相手の話を引き出す自動傾聴機能なども含め、アバターと人が対話しやすくするための技術も進化している」(西口氏)と現状をまとめました。
なお、セミナーでは実際の導入事例も複数紹介。コンビニエンスストア「ローソン」とAVITAによる取り組みや、アバターが接客するポップアップストアの実証結果、さらには自動車販売会社のオンライン相談、医療機関のお薬相談といったサービスへの展開事例などを紹介しました。
関連リンク
日本オムニチャネル協会