顧客ロイヤルティを高めるために、全体平均の数値だけを見ていては十分とは言えません。同じ商品やサービスを利用していても、お客様の属性や置かれた状況によって、満足の理由も不満のポイントも大きく異なります。にもかかわらず、「全体では問題ない」という判断にとどまってしまえば、本当に向き合うべき課題を見落としてしまう可能性があります。前回までは、心理ロイヤルティを構造化し、「ロイヤルティドライバー」や「個々の体験」をスコアで可視化する方法を解説してきました。今回はそのフレームワークをさらに一歩進め、顧客セグメント別に分析する視点を取り上げます。誰のロイヤルティが、なぜ高く、なぜ低いのか。セグメントごとの違いを読み解くことで見えてくる、より精緻な戦略の描き方を解説します。【ファンをつくる「顧客ロイヤルティ」の科学 #7】
顧客を深く理解する:セグメント別分析の力
前回までに、心理ロイヤルティを構造化し、その基盤となる「ロイヤルティドライバー」、さらにその下位に位置する「ポジティブ・ネガティブ体験」まで掘り下げてきました。そしてこれらの要素を、「ドライバー満足度」「ドライバー琴線感度」「ドライバー体験率」「体験頻度」「体験琴線感度」という5つのスコアによって定量化できることを解説しました。
最後に、このフレームワークをより深く活用するための重要な視点として挙げたいのが、法則6:「定量化された心理ロイヤルティ関連スコアは、顧客セグメントごとに異なる」という点です。顧客全体の平均値だけを見ていては、見えてこない事実が数多く存在します。
例えば小売業であれば、性別や年齢層、ライフスタイルの違いによって、心理ロイヤルティや各ドライバーの満足度に差が生じることが想定されます。SaaS事業者の場合には、利用しているプロダクトの種類、業界、企業規模、導入からの経過年数などによって、ロイヤルティやドライバー満足度が異なる可能性があります。
顧客セグメントは一般的に、「地理学的属性(ジオグラフィック)」「人口統計学的属性(デモグラフィック)」「心理学的属性(サイコグラフィック)」「関係行動学的属性(ビヘイビアル)」といった切り口で定義されます。これらのセグメントごとに、心理ロイヤルティ、ドライバー満足度、ドライバー琴線感度、体験頻度、体験琴線感度といったすべてのスコアを算出し比較することで、次のような深い洞察が得られます。
・「この層は特にここに不満を持っている」といった、具体的な課題の特定。
・「この体験は若年層に特に響いている」といった、新たなターゲットセグメントの発見。
・ 全体(メインセグメント)の心理ロイヤルティを高めるために、どの顧客セグメントに注力すべきか、そしてそのセグメントにおいてどのドライバーに焦点を当てるべきかという、戦略的方向性の明確化。
セグメント別分析は、単なるデータの比較にとどまりません。各セグメントに対して異なる施策を講じる際の、確かな根拠となります。もっとも、セグメントごとに実行可能な施策でなければ意味がないため、現実的な実行可能性を踏まえて定義することが重要です。
このように、心理ロイヤルティを最上位に置き、その下に「ロイヤルティドライバー」、さらにその下に「個々の顧客体験」という3階層で構造化する。そしてこれらを6つのスコアで定量化し、顧客セグメントごとに分析する。このフレームワークによって、顧客の「気持ち」という漠然とした概念を科学的に捉え、具体的なファンづくりへとつなげる道筋が見えてきます。これは、「買ってくれているから問題ない」という企業側の視点から一歩踏み込み、お客様の心に寄り添うアプローチだと言えるでしょう。
ここで、3階層6つの法則をまとめます。(図7)
<法則1>
心理ロイヤルティ(ロイヤルティスコア)は、複数のロイヤルティドライバーの満足によって形成される。(ドライバー満足度)
<法則2>
ロイヤルティドライバーの満足は、ドライバーごとに心理ロイヤルティへの影響度が異なる。(ドライバー琴線感度)
<法則3>
ロイヤルティドライバーには、お客様ごとに体験しているものと体験していないものがある。(ドライバー体験率)
<法則4>
ロイヤルティドライバーの満足は、複数のポジティブ・ネガティブ体験によって形成される。(体験頻度)
<法則5>
ポジティブ・ネガティブ体験は、体験ごとに心理ロイヤルティへの影響度が異なる。(体験琴線感度、感動体験、落胆体験)
<法則6>
定量化された心理ロイヤルティ関連スコアは、顧客セグメントごとに異なる。


筆者プロフィール
渡部 弘毅
ISラボ 代表
日本ユニシス(現 BIPROGY)、日本IBM、日本テレネットを経て、2012年にISラボ設立。一貫してCRM分野の営業、商品企画、事業企画、戦略・業務改革コンサルティングに携わる。現在は心理ロイヤルティマネジメントのコンサルティングを中心に活動。お客様の心理ロイヤルティアセスメントに関する独自の方法論を提唱し、ファンづくりの科学的かつ実践的なコンサルティング手法を展開する。業界団体や学術団体での研究活動、啓蒙活動にも積極的に取り組む。
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