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インタビュー

変革はなぜ進まないのか?齊藤氏が語る、AI時代における現場定着と組織マネジメントの本質とは

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日本オムニチャネル協会の活動を支える「フェロー」。各分野の実務家が集い、業界の垣根を越えた知見を持ち寄りながら、多角的な取り組みを推進しています。今回お話を伺ったのは、総合商社を起点に、OEM生産、ライセンスビジネス、輸入卸、そしてアパレル小売まで、ファッション業界のサプライチェーンを川上から川下まで一貫して経験してきた有限会社 ディマンドワークスの齊藤 孝浩氏です。
現在は在庫マネジメントや店舗オペレーション改革、DX導入支援を通じて、成長企業の変革を支援しています。

長年にわたり現場と経営の双方に向き合ってきた中で見えてきたのは、「在庫」「人手不足」「部分最適」といった、業界に横たわる構造的な課題でした。そして生成AIの進化により、業務効率化や意思決定の在り方が大きく変わりつつある今、改めて問われているのが「現場をどう捉え、どう活かすか」という視点です。

本インタビューでは、これまでのキャリアの軌跡をひもときながら、アパレル業界の本質的な課題、そしてAI時代におけるDXと経営の在り方について伺いました。

商社から始まったキャリア。アパレルの川上から川下までを経験

――ご経歴を教えてください。

最初に入社したのは総合商社です。そこでアパレル部門に配属されたのが、この業界との関わりの始まりでした。商社には10年在籍し、前半は国内生産、後半は海外生産や輸入にも携わりました。日本のアパレル企業や小売企業に向けて製品を供給する、いわゆるOEM生産営業のような仕事です。中国の工場や生地を手配し、求められる価格や仕様に合わせて商品を製造し納品する。そうした業務を担っていました。

加えて、ヨーロッパやアメリカのブランドのライセンスビジネスにも関わりました。海外ブランドをそのまま輸入販売するだけでなく、日本市場向けにサイズ感や品質、企画を調整し、日本独自の商品として展開する。そうした契約や実務にも携わってきました。

さらに、商社時代にはヨーロッパブランドの日本法人立ち上げプロジェクトに出向し、輸入・生産・物流を担当した経験もあります。その後、独立前の5年間はアパレルのチェーンストアに勤務し、バイヤーが仕入れた商品を店舗に並べ、お客さまに販売する小売の現場も経験しました。つまり、原料に近い川上から、お客さまに最も近い川下まで、ファッションビジネスの流れを一通り経験してきたことになります。

――そうした幅広いキャリアの中で、特に強く感じた課題は何だったのでしょうか。

最も大きかったのは、やはり在庫です。製造、卸、小売いずれの立場においても、常に在庫が課題として存在していました。特に小売を経験した際、お客さまに最も近い店頭で在庫を適切にマネジメントできなければ、過剰在庫が積み上がり、処理できない商品が発生し、場合によっては返品も生じる。そうした構造が業界全体にあることを痛感しました。

そのときに実感したのが、「変えなければならないのは小売の店頭である」ということでした。同じ悩みを抱える企業は他にも必ずあると考え、在庫を切り口とした支援サービスを開始しました。現在も、店舗現場の在庫に悩む企業から相談を受け、1社あたり平均で2〜3年ほど伴走しながら課題を一つひとつ解決しながら改善支援を行っています。

――現在支援している企業は、どのような企業でしょうか。

多いのは、店舗数を増やして成長してきたものの、ある段階で「これまでと勝手が違う」「何かおかしい」と感じ始めた企業です。規模で言えば年商30億円前後、あるいは店舗数30店舗前後に一つの壁があると感じています。私自身、「1・3の法則」と呼んでいますが、数字の頭に1や3がつくタイミングでステージが変わります。

例えば、1店舗から3店舗になると、そのビジネスが成立するかどうかが見えてきます。3店舗を超えると10店舗までは勢いで拡大できるケースも多いです。しかし10店舗を超えて30店舗に向かう局面では、急激に難易度が上がります。同じ商品、同じ売場面積でも、立地によって売れ方が大きく異なるためです。店舗ごとのばらつきが大きくなり、人海戦術では制御できなくなります。

一般に11店舗を超えるとチェーンストアと呼ばれますが、それ以降は標準化が不可欠です。立地や客層が異なる以上、完全な統一はできませんが、店舗オペレーションや在庫管理など、標準化できる部分は整備する必要があります。そうしなければ、担当者が変わった瞬間に売上が落ちたり、異動のたびに店舗が不安定になります。支援しているのは、20店舗を超え、30店舗へ向かい、次のステージである100店舗を目指して行く過渡期にある企業です。

組織が大きくなるほど陥る「部分最適」の罠

――在庫の問題は、企業経営にどのような影響を与えるのでしょうか。

よく「アパレルは在庫で潰れる」と言われますが、小売業に限れば、在庫そのもので倒産するケースはほとんどありません。なぜなら、小売には店舗があり、日々お客さまが来店するためです。値下げすれば現金化は可能です。利益が出るかどうかは別として、在庫を資金に変えること自体はできます。

むしろ典型的な失敗パターンは、実力以上に店舗を増やしてしまうことです。さらに店長が十分に育っていない状態で出店を続けると、店舗運営の質が維持できなくなります。家賃や保証金といった固定費は簡単には止められず、赤字店舗が増加します。数店舗であれば黒字店舗で補えますが、その比率が高まると資金繰りが悪化し、最終的には経営が立ち行かなくなります。

もう一つの大きな課題が人手不足です。人材を確保したくても採用が難しく、採用しても定着しない。離職の背景には様々な要因がありますが、現場で頻繁に見られるのは、業務が標準化されていないことによる違和感です。ようやく習得した業務のやり方やそれまでの方針が、店長交代で変わってしまう。それが繰り返されると、現場は疲弊します。

本来、採用した人材には長く働いてほしい。そのためには、場当たり的な対応ではなく、働きやすい環境を整備することが不可欠です。人が辞める背景には、整っていない業務や現場への負担があります。そこを改善しなければ、人手不足は解消しません。正社員・アルバイトともに同様の課題を抱えています。

在庫マネジメントも、人手不足対策と密接に関係しています。「在庫は多いほど売れる」という従来の考え方は依然として残っていますが、過剰在庫は現場の負担を増やします。適正量を維持し、無理なく運営できる状態を作ることが、結果的に離職防止につながります。

――なぜアパレル企業では、こうした非効率が生じるのでしょうか。

規模拡大に伴い、仕入れ、販売、物流、人事といった機能が細分化され、それぞれが自部門の成果のみを追うようになるからです。仕入れは予算遵守、物流はコスト削減、人事は制度運用といった具合です。しかし、それが顧客価値につながっているかは別問題です。これが部分最適です。

例えば、物流部門がコスト削減を優先するあまり、売れる店舗への在庫移動を遅らせれば、欠品による機会損失が発生します。一方で他店舗では在庫過多により値下げ販売が発生する。仕入れも同様に、原価率を守っても売れなければ意味がありません。このような状況が組織全体で起きると、現場は疲弊し、企業全体の利益は減少します。

したがって、バックオフィスの評価指標は「現場の働きやすさへの貢献度」に置くべきです。自部門最適ではなく全体
最適の視点が不可欠です。

小売のボトルネックは最終的に店頭にあります。ECも重要ですが、売上の最前線は店頭です。しかし本部が現場を支援するどころか業務負担を増やしているケースも少なくありません。それを助長するDXは誤りです。
重要なのは売上ではなく、1人当たり粗利の最大化です。粗利を高め、それを生産性向上に結びつけることで、賃上げの原資が生まれます。現場が働きやすく、稼げる状態を作ることが、全体最適につながります。

AIは万能ではない。任せるべきは「面倒な7割」、残る3割は人が担う

――AI活用についてはどのように見ていますか。

多くの企業で、デジタル導入そのものが目的化していますが、それではDXとは言えません。DXの本質はトランスフォーメーション、すなわち変革です。ルールや業務の在り方を変えて初めてDXになります。一部効率化しても、他部門や現場に負担が生じるのであれば、それは部分最適です。現場の生産性が向上するのか、顧客対応時間が増えるのか。この視点がなければ、単なる機能追加に終わります。

小売におけるAI活用は、短いサイクルで意思決定を行う業態であるがゆえに、有効な補助手段となります。ただし、完全な自動化は現実的ではありません。外部環境の変化や現場固有の判断については、引き続き人が担う必要があります。

例えば需要予測への活用は有効ですが、競合動向や販促施策、天候などの影響を受けるため、中長期では精度に限界があります。したがって、AIにすべてを期待して委ねるのではなく、単純作業や反復作業の高速処理を担わせる一方で、予測困難な変化に対する意思決定については、あくまで人が行うことが適切です。

実務のイメージとしては、約7割をAIが処理し、残る3割を人が判断する役割分担になります。今後は単純作業の多くがAIに置き換わる一方で、判断、例外対応、そしてマネジメントといった領域は人に残ります。特に「止める判断」はAIには難しく、ここは人が担うべき重要な役割となります。

AI時代だからこそ、問われるのは現場理解とマネジメント力

――最後に、これからのアパレル業界に必要なことをどう考えますか。

これから問われるのは、「変革を実行し、現場に定着させる力」です。どれだけ優れた仕組みやテクノロジーを導入しても、現場で機能しなければ意味はありません。特に小売業においては、現場での運用がすべての成果を左右するため、変化を現場に根付かせるマネジメントが不可欠になります。
その際に鍵となるのが、トップの意思です。ルール変更を伴う改革は、現場任せでは進みません。経営者自身が方針を示し、責任を引き受ける姿勢を明確にすることで、初めて現場は動き出します。導入初期には反発や違和感が生じることもありますが、運用を続ける中で成果が見え始めると、評価は徐々に変わっていきます。

一方で、変化を嫌う声に経営が引きずられると、改革は簡単に止まります。組織には一定数、現状維持を望む人が存在しますが、その声だけを優先していては前進できません。ただし、変化によってこれまで埋もれていた人材が活躍し始めることもあります。現場や顧客をよく見ていた人材が評価されるようになったとき、その組織は健全に変わり始めていると言えます。
AIの活用が進むほど、こうしたマネジメントの重要性は高まります。AIは指示されたことを実行し続けることはできても、「やめる」「変える」といった判断はできません。だからこそ、現場を理解し、状況に応じて意思決定を行い、全体を調整できる人材が不可欠になります。

つまり、これからの競争力は、テクノロジーそのものではなく、それを現場でどう使いこなし、どう組織に定着させるかにかかっています。その実行力こそが、企業の差を生む本質になっていくと考えています。

(聞き手:DXマガジン編集者 權)

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