南海電気鉄道株式会社と株式会社日立製作所は、量子コンピューターを疑似的に再現する日立の独自技術CMOSアニーリングを活用し、乗務員運用計画と車両運用計画を自動で作成・評価するシステムの構築を開始しました。2025年度に南海線で実施した効果検証では、乗務員運用計画の作成期間を数カ月から約1週間へ、車両運用計画は約20日間から数日程度へ短縮できることを確認しています。対象線区は南海線・空港線および高野線・泉北線へ拡大し、2027年度以降のダイヤ改正から業務プロセスの見直しを前提に本システムの構築を進めます。クラウド型で提供され、稼働開始後も運用状況や要件に応じた機能拡張が可能です。CMOSアニーリングの特性を生かし、複雑な制約条件を同時に満たす計画を短時間で導出することで、タイムリーな列車運行ダイヤの提供につなげます。
自動化の背景と狙い 多数の制約を満たす高度業務の効率化
乗務員運用計画は、1日あたり数百本の列車に乗務する運転士と車掌の配置を決める業務で、労働時間や休憩時間、食事や睡眠時間への配慮、出退勤や宿泊場所の調整など、多くの制約条件を同時に満たす必要があります。手作業と熟練者の知見に依存してきた領域であり、作成に長期間を要していました。車両運用計画は、列車ダイヤに基づき車両の割り当てと循環を定める業務で、車両形式や編成条件、検査周期、留置線容量などの制約が複雑に絡み合い、作業負荷が高い状況でした。鉄道業界では人財不足や後継者育成が課題となるなか、ノウハウ継承の観点でも計画業務の属人性が問題となっています。両社はこうした背景を踏まえ、最適化技術を計画作成に適用し、効率化と品質の安定を図ります。タイムリーなダイヤ提供を実現することが目的で、将来にわたる安定的な業務遂行に資する体制を目指します。
CMOSアニーリングの役割 複雑制約を同時考慮する最適化で短時間作成
CMOSアニーリングは、磁性体の性質説明に用いられるイジングモデルで組合せ最適化問題を解く、日立が開発する新型コンピューター技術です。量子コンピューターの冷却装置を必要とせず室温で動作し、大規模化に容易に対応できる点が特長です。多くの制約条件を同時に満たす最適な組み合わせを短時間で導出でき、これまでコールセンターの勤務シフト作成など複雑な制約を持つ計画業務で適用実績を重ねてきました。今回のシステムでは、日立のデータサイエンティストが鉄道業務特有の制約やプロセスを整理しモデル化することで、熟練者のノウハウに依存していた大規模かつ複雑な計画を自動で高精度に作成します。計算基盤の特性と業務モデルの精緻化を組み合わせる構成により、処理時間の短縮と計画品質の両立を図ります。これにより、ダイヤ改正などの繁忙期でも迅速な計画立案が可能になります。
効果検証の結果 乗務員は約1週間、車両は数日での計画作成へ
2025年度に南海線で実施された効果検証では、乗務員運用計画の作成期間が従来の手作業による数カ月から約1週間へ短縮されました。車両運用計画では、1カ月分の計画策定に従来約20日間を要していたところ、本システムの活用により数日程度に短縮できることが確認されています。車両運用については、事故や故障など突発事象で運用が乱れた際にも、最終入庫情報が確定し次第、翌日以降の再計画を短時間で実施できることが特長です。これらの結果を踏まえ、対象線区を南海線・空港線および高野線・泉北線へ拡大します。2027年度以降のダイヤ改正から業務プロセスを見直す前提で構築が進められ、稼働後の持続的な運用改善も視野に入れています。効果検証の成果は、運用現場の負荷軽減と計画立案の機動性向上につながるものとして位置づけられています。
システムの特長 自動作成と可視化で計画品質を安定化
本システムは、乗務員運用計画と車両運用計画を高速かつ高精度に自動作成することに加え、計画案の可視化・評価機能を備えます。乗務員運用では、各種制約の充足状況に加え、必要要員数、勤務ごとの拘束時間、休憩時間などの指標を自動計算し、把握を容易にします。車両運用では、検査や点検を実施した車両数などの指標を計算し、計画の妥当性を検証できます。複数案の比較検討を支援することで、担当者が改善余地を見極めながら最終判断を行えるようにします。クラウド提供であるため、稼働開始後も運用状況や業務要件の変化に応じた機能拡張や改善が柔軟に実施できます。これにより、計画品質の安定と平準化を継続的に推進します。可視化と指標化により、属人化した判断の透明性も高まります。
今後の展開と役割分担 2027年度中の稼働開始をめざす
両社は本システムの実運用化に向けて構築を進め、2027年度中の稼働開始をめざします。南海電鉄は業務要件の提示、効果検証と運用設計、運用場面での評価と定着を担います。日立はCMOSアニーリングを活用した最適化とシステム構築、データサイエンティストによる業務分析とモデル化支援、クラウド提供を担当します。日立はCMOSアニーリングのさらなる性能向上にも取り組み、将来的にはAIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」を支える技術の一つとして適用範囲の拡大を図る方針です。システムは、仮想ダイヤに対する必要乗務員数の短期検証や、ワンマン運転の拡大、なにわ筋線開業に向けた将来輸送計画の検討、災害時の対応計画の策定への活用も期待されています。タイムリーな列車運行ダイヤの提供により、利用者へのサービス向上につなげます。
詳しくは「株式会社 日立製作所」の公式ページまで。レポート/DXマガジン編集部






















