なぜ、自分の話は最後まで聞かれないのか。なぜ、相手の心を動かせないのか。その原因を「話し方のテクニック不足」だと考えていないでしょうか。しかし本当に問うべきは、相手の意識と感情をどこまで掌握できているかです。情報を伝えるだけでは、人は動きません。では、相手を一瞬で引き込み、深く集中させるには何が必要なのでしょうか。本質に迫ります。【週刊SUZUKI #160】
相手を自分に集中させるには、単なる話し方のテクニックを磨くだけでは不十分です。相手の心理の奥底を理解することが不可欠です。コミュニケーションの本質は、言葉で「情報」を渡すことではありません。相手の「感情」と「体験」を掌握することにあります。人は心が激しく揺さぶられたときに初めて深い集中状態に入り、具体的な行動へと踏み出すからです。
では、どのように相手を掌握すればよいのか。何より大切なのは相手と対面する最初の3秒です。この一瞬で主導権を握れるかどうかが、その後の展開をすべて決定付けます。例えば「これはあなたにしか関係ない話です」や、「このままでは、あなたは取り返しのつかない損をします」といった、聞き手にとっての切実な「自分ごと化」を促す一言を投じることで、相手を自分の世界へ一気に引き込みます。人は自分に直接的な関わりがあると直感した瞬間に、初めて心のシャッターを開いて耳を傾けるのです。
相手に徹底的に考えさせることも必要です。一方的に知識を伝達するのではなく、「なぜ今、うまくいっていないと思いますか」や「もし3ヵ月後に劇的な結果を出すなら、何を変えるべきでしょうか」と鋭い問いを投げかけるようにします。人は受動的に話を聞くよりも、自ら問いに対する答えを探し、思考を巡らせているときの方が圧倒的に集中力が高まります。安易に答えを与えず、相手の奥底にある思考を引き出すことこそが、意識を繋ぎ止める鍵となります。
意図的にギャップを作るのも有効です。あえて世の中の常識を否定したり逆張りの意見をぶつけたり、誰もが驚くような意外な事実を提示したりします。聞き手が「それは違うのでは」という違和感や驚きを覚えた瞬間、脳は解決策を求めて覚醒し、意識のベクトルは強くこちらへと向きます。この心地よい違和感が、集中のスイッチを入れる着火剤となるのです。
視線と「間」の使い方も見逃せません。重要なことを話した後に一瞬だけ沈黙し、相手の目をじっと見据える。もしくは、一つひとつの言葉を噛みしめるようにゆっくりと置いていく。沈黙を恐怖と捉えるのではなく、あえて「武器」として使いこなすことで、その場の空気の密度を高め、相手の意識を自分に釘付けにすることができます。
さらに、語る内容を相手の根源的な「欲」に直結させることも極めて重要です。人は、自分にとって明確なメリットがあることにしか真の関心を示しません。それがお金なのか、社会的評価なのか、自己成長なのか、あるいは業務の効率化なのか。提案が相手の望む未来のどれに、どのように繋がるのかを、曖昧さを排して明確に伝えることも大切です。
最後に、単なる説明ではなく「体験」を提供することを意識してください。言葉による説明は記憶の中で弱まりやすく、自らの手で触れ、感じた体験の強さには到底及びません。人は頭で納得するだけでは動かず、身体を伴う体験によって初めて突き動かされるのです。
相手を集中させるとは、単に注意を引くことではなく、その人の意識そのものを奪い去ることです。そのためには、まず自分自身がその場において圧倒的に集中し、燃え上がるような状態を作り出すべきです。自分の中から湧き出る熱量こそが、磁石のように相手の意識を引き寄せ、同調させる源泉となるのです。
【営業の心得 その3】

筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
富士通、ソフトバンクを経て99年に現セブンネットショッピングを設立。セブン&アイHLDGS.取締役執行役員CIOとしてグループのデジタルトランスフォーメーションを推進。17年にデジタルシフトウェーブを設立し現職。日本オムニチャネル協会会長等も務める。






















