日本オムニチャネル協会の活動を支える「フェロー」。各方面の専門家が集結し、多角的な活動を展開しています。今回お話を伺ったのは、ファッション業界で20年にわたり、EC、通販、オムニチャネル、システム開発から運用支援まで一気通貫で携わってきた、株式会社ビービーエフ(BBF)取締役 EC事業本部 本部長の安住氏です。女性向け下着ブランドでのシステム・通販・マーケティング実務を経て、現在は支援側の立場からアパレルブランドのバックオフィス業務、システム開発、分析、改善提案までを包括的にサポートする安住氏。生成AIの台頭によりクリエイティブ制作や業務効率化が劇変する今、「AI時代だからこそ、人と人とのコミュニケーションの価値はさらに高まる」と断言します。これまでのキャリア、ファッション業界への想い、そしてAIが切り拓く可能性について語っていただきました。
ファッション業界20年。ブランドと支援、両端からの視点
――これまでのご経歴をお聞かせください。
安住: 大学卒業後、バックパッカーとしてインド・ネパールを旅した経験を経て、物流業界に入りました。当初は物流倉庫のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業や、東北地方へ新規進出した物流企業の支社長として立ち上げ・運営に従事しました。
その後、通販を主体としたアパレル業界へ転身。前職の女性向け下着ブランドには10年間在籍し、カタログ通販からEC、システム構築、オムニチャネル推進、デジタルマーケティングまで広範な業務を経験しました。その後、現職のBBFに移り、現在はファッション・アパレル領域を中心に、システム構築から運用支援まで幅広く手がけています。この業界に関わって、ちょうど20年になります。
――物流からファッション業界へ転身されたきっかけは何だったのでしょうか。
安住: 地元である宮城県仙台市で、当時勢いのあった下着通販会社が管理職を募集していたことがきっかけです。カタログ通販の分野で非常に注目されていたブランドだったこともあり、応募しました。結果として、そこでの経験が現在のキャリアの強固な土台となっています。
「ブランドが創造性に集中できる環境」を創る
――現在のお仕事において、最も大切にされていることは?
安住: クライアントであるアパレルブランドが、本来注力すべき「創造性・ブランディング」に集中できる環境を整えることです。ブランドにとって最優先事項は、魅力的な商品を作り、PRやマーケティングを通じてブランド価値を高め、売上の要である店舗を運営することです。
一方で、ECサイトの構築・運用、データ分析、返品・返金対応といったバックオフィス業務は、重要ではあるものの、専門人材の確保や組織維持のコストが非常に重い領域です。特にアパレルはサイズ違い等の返品交換が多く、売上が伸びるほど事務負担も増大します。こうした「裏側の運用」をブランドが単体で抱え込むのは大きな負担です。だからこそ、我々支援側がそこを担い、ブランドがその強みを最大限に発揮できるよう支えることが、私たちの使命だと考えています。
――単なるシステム提供に留まらない、深い伴走型ですね。
安住: はい。弊社代表の田村が掲げる「ブランドが抱えにくい領域をワンストップで支える『EC業界の黒子』でありたい」という創業思想に、私自身も深く共感しています。売上がまだ小さい段階では、我々がリスクを負ってでも「痛み分け」をしながら支援し、ブランドが成長・成功した暁には共に成果を分かち合う。この10年間、一貫してその姿勢で取り組んできました。
AIが変える「クリエイティブ・分析・効率化」
――アパレル企業のデジタル領域における最大の課題は何でしょうか。
安住: やはり「人材確保と組織の維持」です。デジタル領域には高度な専門性が必要ですが、一企業がその人材を継続的に雇用し、変化の速い技術に適応させ続けるのは容易ではありません。
また、アパレル企業の多くは依然として店舗が売上の主軸であり、EC化率は20~40%に留まるケースも多い。全体最適を考えれば、投資の主眼は店舗や商品企画に置かれるべきであり、EC運営のすべてを内製化することが必ずしも正解とは限りません。さらに、IT人材の給与水準が市場全体で上昇しており、アパレル企業の既存の評価制度と乖離し始めている点も、深刻な構造的課題だと感じています。
――人材不足の解決策として注目されるAIについて、現場での手応えはいかがですか。
安住: 現在、EC領域では「クリエイティブ」「分析」「業務効率化」の3分野で活用が加速しています。 クリエイティブ面では、商品画像の背景生成やモデルのAI化、バナー制作がすでに実用段階にあります。分析面では、データの整形さえ適切に行えば、人手を介さない高速なPDCAサイクルが可能になりました。
我々のような支援会社においても、マスタ登録などの操作系業務に加え、多要素が絡む在庫消化予測や回転率分析において、AIは人力の限界を超えるパフォーマンスを発揮しています。
――AI活用における懸念点や、向き合い方についてはどうお考えですか。
安住: AIの出力が常に正しいとは限らず、最終的には有識者による「妥当性の評価」が不可欠です。最近では「SaaS is dead」という言葉も囁かれますが、ツールを導入すれば解決するわけではありません。むしろ、AIが正しく機能するための前提条件(データの整備など)を整え、その結果をどう戦略に落とし込むかという「人間の知見」がより重要になっています。特定のツールに依存せず、用途に応じて複数のAIを使い分け、変化に適応し続ける姿勢が求められています。
AI時代だからこそ際立つ「リアルな繋がり」と「村」の価値
――日本オムニチャネル協会の魅力はどこにあると感じていますか。
安住: 業界の垣根を超えた「視点の広さ」です。鈴木会長の強力なネットワークにより、ECやマーケティング界隈だけでなく、流通・小売業界のトップリーダーが集います。自社や自業界のバイアスを外し、一段高い視座から学びを得られる場として、私自身もフェローという立場ながら常に刺激を受けています。
――入会を検討されている方へメッセージをお願いします。
安住: どんなにAIが進化しても、ビジネスの本質は人と人とのコミュニケーションにあります。AIは分析や資料作成を代行できますが、最終的に意思決定をし、責任を取るのは「人」です。だからこそ、信頼でつながるネットワークの価値はますます高まっています。
私はこの業界を、ポジティブな意味での「村」だと捉えています。村には「祭り」があり、人が集まり、対話を通じて「この人と一緒に仕事をしたい」という熱量が生まれます。こうしたリアルな熱量こそが、新しい挑戦の源泉になると信じています。
――「祭り」という表現が印象的です。具体的に大切にされている場はありますか?
安住: 例えば、私が参加させていただいている「J Liveday」という音楽イベントもその一つです。これは業界の有志が集まり、バンド演奏を通じて交流を深める場なのですが、ビジネスの利害を超えて一つの音を作り上げる経験は、リモートワークやAIの効率化だけでは決して得られない「濃密なコミュニケーション」を生みます。こうした場があることで、私は非常に助けられています。AI時代だからこそ、こうした「村」のネットワークや、音楽を通じた心の通い合いといったアナログな価値が、結果としてビジネスを強く推し進める力になると確信しています。
日本のブランドが力強く生き残るために
――安住氏が今後、実現していきたいことは何でしょうか。
安住: ファッションは、人間の「欲求」や「憧れ」から生まれる素晴らしい文化です。人口減少や経済の変化という厳しい局面にあっても、日本には世界に誇れるブランドやカルチャーが数多く存在します。私たちのビジネスを通じて、そうしたブランドが国内、そして海外で少しでも力強く生き残っていけるよう支援したい。私を、そしてBBFを信頼してくださるクライアントと共に、これからも「黒子」としてブランドの成功を支え続けていきたいと考えています。
【編集後記:安住氏の「黒」が象徴するもの】 インタビュー中、安住氏が長年「黒い服」を愛用されている理由に触れる場面がありました。「無駄なストレスを排し、本質的な意思決定に集中したい」左右色違いの靴下を選んでしまった失敗や、汗シミへの懸念といった些細なノイズをゼロにするために、20年以上、すべてを黒で統一しているという。そのストイックなまでに無駄を削ぎ落とすスタイルは、ブランドの個性を鮮明に引き立たせるために自らを無彩色に保つ、BBF社の「黒子」としての姿勢そのものと重なって見えました。
(聞き手:DXマガジン編集者 權)






















