商談の冒頭、多くの人がすぐ本題に入っていませんか。「今日は暑いですね」といった世間話だけで済ませていませんか。冒頭のちょっとした雑談は相手に安心感を与え、後の提案の説得力を高めるための重要なプロセスです。では、どんな雑談であるべきか。営業の成果に直結する雑談の本質を考えます。【週刊SUZUKI #165】
熟練した営業担当者の商談を観察していると、本題に入る前の数分間の雑談の質が極めて高いことに気づきます。せっかちな営業担当者は、挨拶もそこそこに「本日はこちらの資料に沿って…」と商品を説明しがちです。雑談は、決して単なる時間の無駄や世間話ではありません。これからの議論をスムーズに進めるために欠かせない対話であることを自覚すべきです。
では、どんな雑談であるべきか。雑談といえば天気や時事、季節の移ろいなどをテーマにすることが少なくありません。これらは誰にとっても共通の話題で、リスクが少ないテーマとして最適です。ただし、「今日は暑いですね」などと事実をただ伝えるだけでは意味がありません。大切なのは、その事実に「自分の感想」を加えることです。「今日は暑いですね。駅からこちらに向かう途中、公園のひまわりが咲いているのを見かけて、夏が本格的に来たなと実感しました。〇〇様は、この暑さでお疲れではありませんか?」といった具合です。自分がどう感じたかを加えることで、会話に体温が宿り、相手も「私はこう思う」と自分の感想を話しやすい空気が生まれます。
時事ネタを扱うときも同様です。自分はどう捉え、お客様のビジネスや生活にどう関わると感じたか、という主観を交えて話すようにします。「最近、AIの話題を聞かない日はありませんが、先日読んだ記事では、御社の業界でもこのような活用の兆しがあるそうですね。私は、現場の方々の負担が劇的に減るのではとワクワクしているのですが、〇〇様のご印象はいかがでしょうか?」といった具合です。自分の感想を添えて問いかけることで、雑談は単なる情報交換から、相手の価値観や考え方を探る「知的な探索」へと変わります。
雑談の目的は、情報の提供では決してありません。相手との間に「安心感」と「共鳴」を作り出すことが真の目的です。自分の話を楽しそうに聞いてくれる相手や、自分なりの視点で返してくれる相手に対し、人は親近感を必ず覚えます。こうした相手の心理的な壁を取り除くことが雑談には求められるのです。
雑談は、相手の心の中に優しく足を踏み入れるためのマナーです。急がば回れの精神で、まずは心の温度を合わせる手段として雑談の質を高めるべきです。こうした配慮が、後に続く提案の説得力を何倍にも高めてくれるのです。
【営業の心得 その8】

筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
富士通、ソフトバンクを経て99年に現セブンネットショッピングを設立。セブン&アイHLDGS.取締役執行役員CIOとしてグループのデジタルトランスフォーメーションを推進。17年にデジタルシフトウェーブを設立し現職。日本オムニチャネル協会会長等も務める。





















