採用してもすぐに辞めてしまう…。人材の獲得と定着に悩む企業は珍しくありません。失敗する採用プロセスにはどんな傾向があるのか。長く働き続けてもらう人材を見極めるには何に注意すべきか。これからの時代に求められる採用戦略について考えます。【週刊SUZUKI #24】
多くの企業が直面する採用問題。人材不足が深刻化する中、優秀な人材をどう確保すべきかに悩む経営者は少なくありません。そこで積極的な採用戦略を打ち出し、多くの人材を獲得しようとする企業が増えつつあります。しかし実際は、やっとの思いで採用した人が早期退職してしまった、なんてケースが目立ちます。企業は多くの人材をただ獲得するだけではなく、自社への定着を踏まえた採用戦略の必要性に迫られているのです。
では、これからの採用戦略はどうあるべきか。早期退職しない人材を獲得するには何が必要なのか。
もっとも大切なのは相性です。スキル以上に企業の風土や経営者との相性を第一に考えることが大切です。
しかし、そもそも30分や1時間程度の面談で、就職/転職希望者との相性を見極めることはできません。できるわけがありません。もっともらしい志望動機が本心なのかさえ読み取れません。一方の企業側も、もっともらしい成長戦略を語り、やりがいや安定性、話しやすい社風などをアピールしがちです。双方のこうした上辺だけの面談を通じて採用できたとしても、入社後のミスマッチによって早期退職を招くだけです。
以前よりも相性の重要性は増しています。これまでの企業は、従業員がみな同じ常識を持っているのが一般的でした。「会社のために働こう」「残業してでも作業を終わらそう」など、働き方について共通の認識がありました。しかし今、こうした考えはありません。働くことに対し、さまざまな常識があります。人それぞれの考え方があります。だからこそ企業は、自社と相性がいいのかに目を向け、条件に合致する人を採用しなければならないのです。スキルや経験よりも、相性をもっと重視すべきです。
気遣いできる人かを見極めることも大切です。仕事は人と人とのつながりの上で成り立ちます。気遣いできる人であれば、顧客のニーズや会社の方向性を敏感に感じ取ることができます。こうした人は、最終的には必ず成長します。
では、具体的にどんな面談を実施すべきなのか。1つは就職/転職希望者に対し、企業側が志望動機を作り出せるようにします。就職/転職希望者が用意する志望動機は“作られたもの”に過ぎません。自社のWebサイトで事業内容を確認したり、転職支援業者の担当者から教わった内容をコピーしたりする程度です。就職/転職希望者はそもそも、自社について深く理解していません。そこで企業側は、自社が目指す方向性や求めるもの、さらには社風などを偽りなく、事前に説明すべきです。その上で就職/転職希望者が志望動機を考えられるようにします。面談では自社の方向性や社風を理解していることを前提に、志望動機を確認するのが望ましいでしょう。これにより双方のミスマッチを解消しやすくなります。
さらに、相性や気遣いを探る手段として、採用担当者と就職/転職希望者との食事会も有効です。じっくり2時間程度、その人の言動を探るようにします。採用担当者との会話を2時間続けられるか、話を盛り上げられるかなどを探ります。経営者が直接、食事会に出向いても構いません。居酒屋などの話しやすい場でも構いません。大切なのは、その場の振る舞いで気遣いを見せられるかです。採用担当者や経営者と話を続けられる相性があるかです。
容易に転職できる時代だからこそ、その時代に応じた採用戦略を検討すべきです。従来の採用プロセスを踏襲するのは無意味です。今後はさらに優秀な人材の獲得競争がし烈になります。そんな中で人材を獲得し働き続けてもらうには、その人の人格を洗い出せる採用プロセスに目を向けるべきです。もちろん就職/転職希望者から選ばれる企業として、自社の魅力をさらに磨く取り組みも必要です。こうした変革が、優秀な人材を呼び寄せるきっかけとなるのです。
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任