半導体やサイバーセキュリティなどを軸に事業を展開してきたマクニカ。同社は長期経営構想「Vision2030」で、「サービス・ソリューションカンパニー」への変革を掲げています。その変革をIT・デジタルの側面から推進するのが、マクニカホールディングス 執行役員 CIO 兼 マクニカ IT本部 本部長の安藤啓吾氏です。
会社の変革にDXをどう位置づけ、社員をどう巻き込み、そこで得た知見を新たな価値へつなげていくのか。そして、「システムを作る」ことさえIT部門の仕事ではなくなっていく中で、IT部門は何を担うのか。30年以上ITに携わってきた安藤氏に聞きました。
「会社の看板がなくても評価されるか」変化を求めてマクニカへ
川邊:まず、これまでのキャリアについて教えてください。
安藤:大学卒業後に総合商社へ入り、それ以降、一貫してITの仕事に携わってきました。キャリアは30年以上になりますが、そのうち3分の2ほどはコーポレートITとして社内のIT・DXを推進し、残りの10年ほどはIT子会社でお客様向けのSIやITサービスを提供する立場を経験しました。
昔はITというと、事務をどう効率化し、システム化・自動化するかという話が中心でした。一方、現在はDXやAXなど、ITに求められる役割そのものが大きく変わってきたと感じています。
川邊:仕事をするうえで、大切にしてきたことはありますか。
安藤:IT部門の人間は、マクニカの社員である前に「ITの人間」だと思っています。会社の看板がなくなったときに、本当にマーケットで評価されるのか。そこは常に意識していますし、部下にも伝えています。前職とマクニカでは、文化も全く違います。マクニカは非常にフラットで、規模が大きくなった今もベンチャースピリットが残っています。Vision2030で会社そのものを変えようとしている。その変革に加わり、変化を楽しみたいと思ったことが、マクニカへ移った理由の一つです。

AIで商社の役割も変わる。Vision2030から逆算したDX
川邊:マクニカでは、DXそのものを目的にするのではなく、Vision2030で目指す会社の姿から逆算して、DXを位置づけていると伺いました。
安藤:そうですね。出発点はVision2030です。マクニカはこれまで、半導体やサイバーセキュリティなどを中心とする技術商社として成長してきましたが、2030年には「サービス・ソリューションカンパニー」になることを掲げています。そのためには、会社をトランスフォームしなければいけない。そして、会社を変えるためにはイノベーションが必要です。そのイノベーションを起こす一つのドライバーとして、DXがあると考えています。
川邊:AIの進化も、会社を変えていく必要性に関係しているのでしょうか。
安藤:そうですね。これだけAIが進んでくると、商社の役割自体も変わってくると思います。「AI to AI」の世界になれば、お客様のAIと仕入れ先、サプライヤーのAIが直接仕事をする可能性もあります。これまで商社は上流と下流の間に入り、そこで付加価値を生み出してきましたが、その役割が変わってくる可能性がある。
そうした中で、マクニカとして新しいビジネスや存在価値をどう作っていくのか。そのためにも、デジタルやAI、データの活用は非常に重要だと思っています。
川邊:Vision2030を掲げるだけではなく、実際に全社を動かしていく必要があると思います。
安藤:そう簡単ではありません。私自身の経験では、日本企業はトップが号令をかけただけで全員が動くわけではなく、一人ひとりの腹落ちや納得感が重要だと感じています。日本国内に約3,500人の社員がいる中で、例えば100人だけがDXに取り組んでも、大きな効果にはつながりません。いかに全員に取り組んでもらうかを考える必要がありました。
そこで、まずDXの必要性や変化を実感してもらい、次に成功体験を作り、最終的に継続できる仕組みを整えるという段階を踏んできました。

一部の社員だけでは変わらない。「再現性のあるDX」を生む仕組みと人材
川邊:社員を巻き込むために、どのような取り組みを進めたのでしょうか。
安藤:最初は、非常に身近なところからです。翻訳ツールやスケジュール調整ツールを導入し、日々の仕事の手間を減らすことで、「何か変わった」「これはいいぞ」と実感してもらいました。
次に、各部門からメンバーを集め、半年ほど社内DX推進プロジェクトを実施しました。小さくても成功体験を積み、DXに取り組む動機を作ろうとしたんです。ただ、プロジェクトなので、終わると一気に活動が下火になってしまいました。我々が目指しているのは、一時的なDXではなく「再現性のあるDX」です。そこで整備したのが「Digital Execution Factory」です。
単にシステム開発の環境を用意するのではなく、「誰でも、迅速、簡単、安全に」DXを進められる仕組みを目指しています。
川邊:人材育成については、どのように考えているのでしょうか。
安藤:自ら課題を見つけてDigital Execution Factoryに持ち込んでくれる人は、課題をきちんと理解し、それらをDXで解決しようという意識が高い人達です。そのような人達をDXを中心となって推進する「DXコア人財」として育成しています。基本的な考え方として、全員に同じ教育をするわけではなく、必要な人に必要な教育をしていくことを大前提としています。Digital Execution Factoryでの実開発の経験やRPAなどの研修を通して、現場の社員が市民開発により、自分たちの業務を自ら改善できるようにしていきます。さらに、彼らが自分の部署に戻ったときには周囲を巻き込み、更にDXを広げていく役割を期待しています。
我々を取り巻く変化が激しい昨今では、ユーザーがIT部門に「これを作ってください」と頼み、さらに外部委託することによって、半年後、1年後に完成するようでは、イノベーションのスピードについていけません。現場自身がアプリやソリューションを自ら作り、我々はそのための環境やノウハウ、人材育成、ガバナンスを支援する。そのような形へ変えていこうとしています。

社内DXを顧客価値へ。「作る」から変わるIT部門
川邊:社内で培ったDXの知見を、お客様向けの価値にもつなげているのでしょうか。
安藤:そうですね。IT本部と、お客様向けにデジタルソリューションを提供する事業部門が連携しています。
IT本部は、ある意味「カスタマーゼロ」です。自分たちが社内DXに取り組む中で得た苦労や工夫、ノウハウを事業部門に提供し、お客様向けの価値につなげていく。一方で、お客様向けの取り組みから得られたノウハウを、また社内に戻していく。そうした内と外の循環を作っていきたいと考えています。
川邊:一方で、AIがさらに普及すると、IT部門自体の役割も変わっていきそうですね。
安藤:デジタルやAIによって、ユーザー自身が何かを作るハードルはどんどん下がっています。昔はアプリを作ること自体が難しかったので、IT部門に頼る必要がありましたが、今は誰でもできるようになりつつあります。そうなると、「システムを作る」ということ自体は、もう我々IT部門の仕事ではないと思っています。
これから重要になる役割の一つは人材育成、もう一つはガバナンスです。そして、我々の仕事そのものを、もっとシステム開発の上流工程へと移行していく必要があります。中流、下流で物を作る部分は、これからAIが担っていく。だからこそ、自分たちの役割をより上流へ移していく必要があります。
そのためには、ITの知識だけではなく、業務知識や業界知識、ドメインナレッジが必要です。そこを持っていなければ、社内ITとしての存在価値もなくなってしまうと思っています。Vision2030で掲げている会社のトランスフォームに対して、ITとしていかに貢献するか。それが一番重要だと考えています。



















