政府・日銀による11兆円超という巨額の為替介入も虚しく、瞬く間に1ドル=160円台へと押し戻された2026年6月の為替相場。日銀が31年ぶりとなる「政策金利1.0%程度への引き上げ」へと舵を切る緊迫した局面のなか、企業の現場ではどのような地殻変動が起きているのでしょうか。東京商工リサーチが6,605社から回収した大規模調査から、価格交渉力のない中小企業を追い詰める「160円の壁」と、理想と現実の間に横たわる深い溝に迫ります。
企業の4割が「経営にマイナス」。仕入れ依存の卸売・小売を襲うコストプッシュの波
東京商工リサーチ(TSR)は、2026年6月1日~8日にかけて「為替に関するアンケート調査」を実施し、有効回答6,605社を対象に分析を行いました。
調査によると、2026年4月末に実施された政府・日銀による為替介入で一時は156円台まで円高が進んだものの、6月3日には再び160円台の円安へと逆戻りするなか、5月末(1ドル=159円前後)の水準について全体の40.7%が「経営にマイナス」と回答しました。「プラス」と答えた企業はわずか3.2%にとどまり、現在の歴史的な円安水準が日本の産業界に重い足枷となっている実態が改めて浮き彫りになりました。
規模別では、大企業の41.1%、中小企業の40.6%が「マイナス」と回答しており、企業規模を問わず広く悪影響が波及しています。特に産業別でのダメージの偏りが顕著です。
- 卸売業: 52.6%(半数以上がマイナスと回答。海外からの仕入れ依存が直撃)
- 小売業: 49.8%(仕入価格の上昇を価格転嫁しきれない苦境)
- 製造業: 47.5%(原材料高がメリットを相殺)
- 運輸業: 45.4%(燃料費の高騰が重荷)
「160円での介入は遅すぎる」資金力に劣る中小企業の切実な防衛本能
今回の調査で最も興味深いのは、政府・日銀が防衛ラインとして想定しているとみられる「1ドル=160円」という介入水準に対する、企業側の「温度差」です。
政府の介入タイミングについて尋ねたところ、全体では43.4%が「160円未満で介入すべきだ」と回答し、160円台に突入してからでは遅すぎると考えていることが分かりました。これを規模別で分解すると、企業の防衛力の差が如実に現れます。
- 大企業: 「160円程度での介入が適切だ」が46.3%で最多。
- 中小企業: 「160円未満で介入すべきだ」が43.6%で最多。
体力があり、為替ヘッジや価格交渉力を持つ大企業は政府の現行スタンスをある程度容認しているのに対し、コスト高を自助努力で吸収できない中小企業ほど、より手前の段階での強力な円安抑制(政府による介入)を切望しています。
さらに、企業が求める「望ましい為替レート」の平均値は1ドル=136.8円(中央値140.0円)であり、現実の160円前後とは20円以上の劇的な乖離があります。ここでも大企業の理想(平均140.4円)に対し、中小企業は平均136.5円と、より強い円高水準を求めており、円安に伴うコストプッシュへの危機感は限界に達しつつあります。
見解として、日銀が31年ぶりの利上げ(政策金利1.0%程度)に踏み切る公算が高まっているものの、市場はすでにこれを織り込んでおり、構造的な円安トレンドの歯止めになるかは極めて不透明です。 卸売・小売業を中心に企業の半数近くが悲鳴を上げているなか、大企業と中小企業の間で「望む介入ライン」に明確なズレがある事実は、この為替環境が長引くほど、日本のサプライチェーンの末端(中小企業)から順に資本が毀損していく危険性を物語っています。企業ガバナンスとしては、もはや政府の介入頼みの神頼みから脱却し、いかに円安を前提とした強靭な価格転嫁力や、調達網の国内回帰といった構造改革を進められるかの勝負に入っています。
引用元:東京商工リサーチ TSRデータインサイト レポート/DXマガジン編集部






















