組織改革

    2022.08.10

    ITは自社でコントロールし、クラウドを前提とした柔軟なシステム像を描け

    ITシステムの重要性が高まる中、これからは自社でITをコントロールする体制づくりが求められます。そもそもなぜ、日本企業はこれまで外部にIT構築・運用を任せてきたのか。ここでは、日本企業固有のIT運用の問題を紐解くとともに、自社主導でITをコントロールするときのノウハウを紹介します。なお、本連載はプレジデント社「成功=ヒト×DX」の内容をもとに編集しております。

    DX時代は自社でITをコントロールすべき

     前回は、業務改革を進めるのに必要な業務フロー図の描き方や課題を整理する方法を紹介しました。では業務改革が進み出したら、次は何に取り組むべきか。次に目指すのは「自社でシステムをうまくコントロールすること」です。DXを実現するのに必要なITシステムの導入や開発、運用を自社主導でコントロールできるようにします。

    参考:前回の記事/業務の課題を洗い出しと課題を解決する方法はこちら
    業務の課題を原因や優先度で分類、3つの方法で課題解決を模索せよ

     “システムをコントロール”と聞くと、多くの人が外部のSIerなどがメンテナンスすべきと思っているでしょう。社内の情報システム部門が関われば十分と思っている人も少なくないでしょう。

     しかしDXを成功へと導くには、こうした運用体制は不十分です。なぜか。システムの重要性が年々高まり、日々の業務や暮らしに密接に関係するようになったことに起因します。

     システムは私たちの暮らしを支える社会インフラとして定着しています。最近も、ある金融機関のシステムが停止し、多くの人がお金を入出金できなくなったことがニュースになりました。通信障害によって携帯電話が使えなくなったトラブルも、社会問題として大きく注目されました。

     今後はAIや自動運転などの先進技術が、社会インフラとして次々に使われ始めるでしょう。このとき、もしシステムが停止したら…。その影響範囲はより広範で、原因追及もより複雑化することが懸念されます。

     これは企業が利用するITシステムも然りです。ITシステムが業務と密接になればなるほど、停止したときの被害は膨らみます。このようなリスクが想定される中、これまで通りにITシステムの導入や開発、運用を外部に任せきりでよいのでしょうか。これからのITシステムは自分たちで積極的に管理し、効率よく活用すべきだと筆者は考えます。

    ITシステムの歴史から日本企業の課題を探る

     なぜ日本企業は、ITシステムの運用を「他人任せ」にしてしまったのか。これは、日本企業のITシステム導入の歴史を紐解くと分かります。

     そもそも世界でITが浸透し出したのは、1970年代のパソコン登場までさかのぼります。1970年代から1980年代当時のシステムは、中央の汎用機で処理する「中央集中型」と呼ばれるシステムで、会計を筆頭に管理部門の定型業務の負荷軽減を目的に導入が進みました。

     1990年代になると、中央のコンピュータ(サーバー)と、それを利用するコンピュータがネットワークでつながって分散処理する「クライアント・サーバー型」のシステムが多く登場し始めます。さらに1990年代後半には、部門ごとに点在するデータの一元化を目指し、ERPパッケージの導入が進みます。このとき、多くの企業が会計や営業、購買などの業務を見直し、ERPパッケージの進め方に合わせていったのです。BPRやBPMに取り組む企業が多く登場したのもこの時期です。

     対して日本企業はどうか。ERPパッケージの導入が進んだころに限ると、海外企業の導入経緯とは違う傾向が見られました。ERPパッケージに合わせて業務を見直す海外企業と違い、日本企業の多くが「今の業務をどうシステム化するのか」に強くこだわったのです。

     なぜこうした考えを持ったのか。主な要因には、業務を変えることへの抵抗が強かった点、システム会社が収益優先でカスタマイズを提案した点などが挙げられます。

     その結果、多くの企業がカスタマイズを実施し、バージョンアップできない古いシステムが残り続けてしまったのです。つま多くの企業が古いシステムに合わせ、業務内容を見直せないまま今に至るのです。

     日本企業の多くが「今の業務をどうシステム化するのか」にこだわったことが、外部SIerなどに依頼する機会を増やし、自社では面倒を見れないITシステムが増えていくことにつながったのです。

     もっともこうした弊害も徐々に取り除かれつつあります。2010年ごろから「クラウド」や「SaaS」が台頭し出したためです。ハードウエアを購入するコストを省ける、使えなければすぐに止められるなどのメリットを活かし、古いITシステムをクラウドやSaaSに移行する企業が増えていったのです。同時に業務を見直す機運も高まり、海外企業に後れを取っていた日本企業も、クラウドやSaaSの登場に業務の標準化が一気に進むかもしれません。

    ITシステムをコントロールするチームを構成せよ

     クラウドやSaaSの登場は、ITシステムの構築や運用が大きく変わる転機となります。情報システム部門の役割も大きく変わるでしょう。外部のSIerへの依頼内容や関係も変わることになるでしょう。

     企業はこうしたタイミングで、ITシステムの構築や運用の主導権を自社で握るべきです。DX成功に欠かせないITシステムを自社でコントロールする自信がなければ、DX関連のITシステムをコントロールするチームを作るのも一案です。社内の情報システム部門のメンバーや業務に精通するメンバー、さらには外部のSIやプロダクトベンダーのスタッフなどで構成するのが望ましいでしょう。もしチームのメンバーに不安があるなら、DXプロジェクトの推進経験がある人材を外部から招き、推進アドバイザーとしてチームに参画してもらうのも手です。

     推進アドバイザーはDXプロジェクトの経験者が望ましいものの、もし経験者がいなければ組織改革などの経験者に依頼します。このとき、その人が過去に関わったブランドや技術力をもとに選定せず、個人としての実績を重視して人選することが大切です。

     一方、チームのリーダーに求められるのは、ITの知識よりも業務に関する広い知識と、高いコミュニケーション力です。業務改革を第一に考え、現場に対して改革を浸透させるには、業務に対する広い知識を持っているほか、業務改革のビジョンや目的を全社で共有する高いコミュニケーション力が欠かせないからです。さらに、劇的に進化し続けるITに興味を持ち、学ぶ姿勢を持っている人も望ましいでしょう。

     ITシステムの構築や運用を主導するITマネジメントチームを結成したら、まずはシステムの現状把握から取り組みます。多くの企業が、自社でどんなシステムを使っているのかを把握できず、ブラックボックス化していることでしょう。古いシステムがどれだけ残っているのかが分からなければ、どの業務にどんな新しい技術を使ったシステムを導入すればいいのかさえイメージできません。

     現状把握ではシステム全体を俯瞰し、経営者や現場の誰でも分かる形で一覧表にします。その上で現状の課題を整理し、クラウドを前提に将来のシステム像を検討します。課題を整理するときに気をつけるのは、機能面にとらわれすぎないことです。費用のほか、技術や組織などのあらゆる面で課題を俯瞰し、洗い出すようにします。
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    本連載は、プレジデント社刊行の「成功=ヒト×DX」の内容をもとに、筆者が一部編集したものです。
    プレジデント社「成功=ヒト×DX」
    筆者プロフィール
    鈴木 康弘
    株式会社デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長
    1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。 デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会 会長、学校法人電子学園 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授を兼任。
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