「寝る前のスマホは睡眠に悪影響」という常識を疑ってみたことはありますか。多くの健康アドバイスで“ご法度”とされる就寝前のスマートフォン使用ですが、最新のウェアラブルデバイスとスマホの客観的なライフログデータを用いた縦断研究により、これまでの通説を覆す驚きの動的メカニズムが明らかになりました。デジタルヘルスデータが弾き出した、睡眠とスマホの真のイマを解説します。
常識の崩壊?ベッドでのスマホ使用が「睡眠時間の延長」と直結する動的データ
アントワープ大学などの研究チームが学術誌『PLOS Digital Health』に発表した研究によると、iPhoneとApple Watchから提供された2週間連続の客観データ(68名分・計952データポイント)を高度な「動的構造方程式モデル(DSEM)」で分析した結果、一般的な認識とは真逆の現象が確認されました。
分析の結果、スマートフォンの1日の総使用量が増えるとベッド内での使用時間も増加(β = .25)しますが、驚くべきことに、ベッド内でのスマホ使用時間が増えた夜は、その日の総睡眠時間がわずかに延長する(β = .08)という正の相関関係が認められたのです。さらに、睡眠時間が延びることで、翌日のスマートフォンの総使用量が減少するという循環的な効果も確認されました。これらは自己申告のアンケートではなく、Apple Watchの加速度センサーや呼吸運動から得られた客観的な睡眠段階データと、iPhoneのスクリーンタイムの生データに基づいているため、極めて生態学的妥当性が高いデータと言えます。
質の向上か、それとも寝不足の回復か?浮き彫りになった「強い習慣」の壁
しかし、この結果を「寝る前のスマホ推奨」と捉えるのは早計です。研究チームは、ベッドでのスマホ使用によって睡眠時間が長くなる現象について、睡眠の質が向上したわけではなく、「スマホ使用によって睡眠プロセスが阻害され、脳や身体がより多くの回復睡眠(キャッチアップ)を必要とした結果である可能性」を指摘しています。つまり、睡眠時間は延びたものの、それが質の高い休息を意味するかどうかは未解決のままです。
また、個人内の日々の変動よりも、個人間の「強い習慣性」が将来の行動を圧倒的に予測することも判明しました。前日にスマホを多く使った人、あるいは長く眠った人は、翌日も高い確率で同じ行動をとる傾向(β = .53〜.82)が示されました。睡眠段階(レム睡眠・コア睡眠・深睡眠)別の分析においては、スマホ使用との直接的な有意差はみられなかったものの、日々の生活習慣そのものが個人のデジタル健康を強固に縛っている実態が浮き彫りになっています。
見解として、「スマホ=睡眠の天敵」という単純な二元論ではなく、ウェアラブルデータを駆使して「使用のタイミング」や「時間経過による周期的な影響」を解きほぐした本研究は、デジタルヘルス分野における非常に重要なデータサイエンスの成果です。 今後の健康経営やポピュレーションヘルス(集団健康管理)の施策においては、単に夜間のスマホ利用を一律に禁止するのではなく、個人の強固な「デジタル習慣」そのものに着目し、データに基づいたパーソナライズな睡眠衛生の行動変容を促すアプローチが不可欠になるでしょう。
詳しくは『PLOS Digital Health』に掲載された論文(https://doi.org/10.1371/journal.pdig.0001232 )まで。レポート/DXマガジン編集部





















