深刻な人材難や競争激化に直面する歯科医院経営。さらにAIやDXの波が本格化する中、予約から会計までの業務効率化が進む一方で、あらゆるサービスが均質化する「コモディティ化」の足音が近づいています。AIが常に最適な答えを出す時代において、患者から選ばれ続ける歯科医院の条件とは果たして何なのでしょうか。本記事では、歯科医院経営総合情報誌「アポロニア21」と「DXマガジン」の特別合同企画として、異業種から企業のAI・DX活用を学ぶ「オムニチャネル協会」の鈴木会長と、日本最大級の歯科スタディグループ「MID-G」最高顧問の荒井昌海氏による異業種対談をお届けします。
AI・DX時代における歯科医院経営の現在地
水野: 皆様、本日は歯科医院経営総合情報誌「アポロニア21」と「DXマガジン」の特別合同企画にご参加いただきありがとうございます。予防医療への期待が高まる一方、歯科医院の現場は深刻な人材難や競争激化という厳しい現実に直面しています。これからの歯科医院経営には、確かな技術だけでなく、時代の変化を捉える柔軟な経営力が求められます。
本日は、異業種から企業のAI・DX活用を学ぶ「オムニチャネル協会」を立ち上げた鈴木会長と、歯科医院経営の効率化や技術向上を学ぶ日本最大級のスタディグループ「MID-G」の最高顧問である荒井先生をお迎えしました。異なる業界の視点から、これからの時代に必要な人間力について語り合っていただきます。まずは、歯科医療現場におけるDXやAIの現状について教えてください。
荒井: 歯科業界の現状として、医科と異なり90%以上がルールで厳格に決められた保険診療であるため、AIによって直接的に裁量を働かせられる部分はまだ少ないのが実情です。しかし、バックオフィス業務、例えば会計や人件費の管理などにはAIが十分に活用できます。私たちの医院でも、使えるツールは全て導入していますし、今後は複数のAIエージェントチームを活用したさらなる効率化を見据えています。 ただ、AIを効果的に導入するためには、まず「医院をどの方向に持っていきたいのか」というゴール設定と業務のマニュアル化が不可欠です。それができて初めて、AIというOSに乗せてDXを完了させることができるのです。
鈴木: 一般企業でもDXやAIの波は押し寄せています。これまでのIT化が「紙のデータ化」や「業務の標準化」だったのに対し、現在のAIは意思決定にまで入り込み、会社を作り直すレベルの劇的な変革をもたらしています。経営層から現場まで、すべての人がAIに関心を持たなければ生き残れない時代です。 しかし、そこで最も重要になるのが、実はAIにはない「失敗の経験」やゼロからゴールを設定する「人間力」なのです。

AIの進化がもたらす「コモディティ化」の恐怖と「人間力」の真価
水野: AIが進化していく中で、人間の役割や「人間力」はどのように変化していくのでしょうか。
荒井: 私が危惧しているのは、AIが進むことで生じるコモディティ化(没個性化)です。予約の取り方から患者対応、診断、処置、会計に至るまで、AIが最適解を出すようになれば、になってしまいます。私はこれを「鉛筆の状態」と呼んでいるのですが、機能的な違いがなくなれば、最終的な差別化要因は「院長の人間力」や「スタッフの対応」**しか残らないのです。 また、現在AIが生成した文章やスライドを見ても、間違ってはいないものの面白みがなく、全く頭に入ってきません。AIを使う側の人間が進化しなければ、AIに使われるだけの凡庸な存在になってしまいます。
鈴木: おっしゃる通りです。私はAIを「めちゃくちゃIQの高い新入社員」と表現しています。IQが高くても、仕事の仕方やルールを教えなければ機能しませんし、賢い人が賢く対話を重ねることで初めて真価を発揮します。 一般企業でも、若い社員がSNSの炎上を恐れたり、リモートワークでコミュニケーションが希薄になったりして、意思決定や挑戦をしなくなるという深刻な問題が起きています。AIが弾き出した答えを、いかに人間に納得させるかという表現力やコミュニケーション能力こそが人間力です。そのためには、論理的に「仕事の型」や人間として当たり前のことを教え、人間力を強化する教育が急務だと感じています。
人間力をどう育むか?異業種交流による「新結合」の可能性
水野: その「人間力」を育むためには、どのようなアプローチが必要だとお考えですか?
荒井: 歯科業界は依然として閉鎖的で、年配の先生方の中には「アナログでも困っていない」とAI導入を拒む方も少なくありません。また、他業種との「新結合」が打開策だと言われるものの、医療機関には保健所の厳しい建築規制などがあり、旅館やホテルのような他業種のノウハウをそのまま持ち込むことは非常に困難です。このようなコモディティ化**しそうな業界が生き残るための、異業種交流のヒントをぜひお聞きしたいです。
鈴木: 確かに医療業界特有の縛りはありますが、「健康でありたい」「美しくありたい」という患者さんの視点に立てば、食や予防医療、美容など、親和性の高い分野は必ずあります。 私が推進する「オムニチャネル」の究極の目的は、デジタルとアナログの融合だけではなく、業界や企業、年齢、性別といった「壁を超えて人が繋がること」です。当協会には金融業から外食、IT、大企業、中小企業まで全く異なる業種が集まり、そこで対話することで一質なもの同士がぶつかり合い、新しいイノベーション(化学反応)経営のヒントが見つかるはずです。

これからの歯科経営が目指すべき未来
水野: 最後に、これからのAI・DX時代を生き抜くためのメッセージをお願いします。
荒井: デジタル技術が進化し、あらゆる業務が自動化されればされるほど、最終的に人間が戦える武器は「人間力」しか残らないという確信を強めました。しかし、AIネイティブ世代に対して、ただ「人間力を磨け」と期待するだけでは足元をすくわれます。 AIが主流になる社会を逆算し、人間力のない人たちがAIを使う時代が来たとしても揺るがないような、AIを使いこなしながら人間力を最大限に発揮できる組織づくりを、今から準備していかなければならないと痛感しています。
鈴木: 若い世代であっても、論理的に教えれば必ず人間力は身につきます。大切なのは、新しい企画やアイデアの源泉である「妄想力」に大人が蓋をせず、「どんどん挑戦していいんだ」という環境を作ってあげることです。 ビジネスの世界では新陳代謝が激しく、変化を恐れる企業は淘汰されていきます。医療業界や歯科業界も、これまでの常識や固定観念に固執するのではなく、異業種との交わりを通じて変わり続けていってほしいですね。
水野: 本日は、歯科医院経営におけるDXの可能性から、AI時代にこそ光る人間力の重要性、そして異業種交流によるイノベーションまで、非常に示唆に富むお話をありがとうございました。





















